時は流れて
阿紋
1
家の前を通るたびに聞こえてくるピアノの音。僕にはそれが何という曲かはわからなかったけれど、いつも同じ曲が聞こえてくるのはわかっていた。
「ショパンだよ」
「そうなのか」
昼休みにかかっていた曲を隣の席の女の子にきいたら、彼女はそう答えた。
そうなんだ。
僕が何か言おうとすると、女の子はそんなことも知らないのかという顔をして、席を立って友だちのほうに行ってしまう。
そう、僕と彼女は席が隣というだけで特に仲がいいわけでもない。
僕にしても、会話のきっかけを作りたいとかそんなわけでもなかった。
ただ僕の友だちにはそう思ったヤツもいたようだ。
「おまえ相川のこと好きなのか」
そんなことを何人かにきかれた。僕はそのたび否定したけれど、ちょっとは彼女に惹かれていたのも事実だ。でもあの時、彼女が僕に興味がないことは確信していた。
そうなんだ、僕はあの曲の名前を知りたかっただけ。
ただそれだけだった。まだ小学校の頃、僕がずっと聞いていたあの曲の名前を。
何となく憂いのあるあのメロディにまだ見ぬ人への憧れを募らせていた頃。あの憧れっていったい何だったんだろう。
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