何故、目の前に双剣の美少女がいるのだろうか

柊アメヤ

第1話

 二刀流


 そう聞いて、あなたは何を思いつきますか?僕は、そうだなぁ。左右両方に刀?剣?を持って戦う人のイメージ。野球好きな友人は、ピッチャーとバッターを兼任している選手。両性?全性?とにかく愛の間口の広い友人は、二刀、いや両刀?何と言えばいいんだと、問いかけの向こう側に。そして、おそらく目の前にいるのは僕の思う「二刀流」の人でしょう。


 いや、待ってほしい。心優しい青年のような語り草になってしまうのも訳ない状況にある。なんで、どうして現代日本においてが、目の前にいるんだよ。急に異世界にでも飛んだのかと思って、スマホを見れば電波は良好なんなら5Gが利用可能ですなんて通知が入っている。てことは、現実だ。この場をどう切り抜けるべきか考えていると


「     」


「  、     」


 彼女は、喋りかけてきた。ただ、声が極端に小さい。聞き返すべきなんだろうが、なんせ相手は凶器を持っている。逆鱗に触れでもしたら、前衛的なアートと見紛う死体が完成しかねない。無言の時間が続く。そうこうしている内に、昼を告げるチャイムが鳴り響いた。彼女は、驚いたのか距離をとる。そして、じっと俺のスマホを見つめ始めた。え?何?スマホ知らないことある?あまりに異質な状況に気を取られて、ただであることしか脳は理解していない。


 改めて、少女の姿を認識しなおす。顔は、切れ長の目にすっと通った鼻筋、ぷっくりとした唇と全体的に日本の美少女顔といったところだろうか。髪は、長さがめちゃくちゃあり、地面スレスレというかもうついてしまっている。髪色は、黒。翠の髪と呼ばれるのは、きっと彼女のような髪の持ち主を指すのだろう。衣服は、制服に似ている。セーラー服とブレザーとを混ぜたようなまさに。美少女と判断を下したのは、顔よりこの服のほうが大きい。スカートが短いのも、二次元っぽさに拍車をかけている。おそらく、下に見せてもいいヤツなんて穿いていない。下着を着けているかも、疑わしい。だって、やけに身体に張り付いているし。見えちゃいけないものが見えている気がする。そして、ボロボロになっている。その理由は、両手に持っているものが原因なんだろうけど。


 そう、両手にはが握られている。少女に似つかわしくない、厳ついのが。


 ここ、日本だよな?銃刀法ていうものがあるんじゃないのか。模造刀の可能性は、無い。無言の時間に、どこからか降ってきた葉っぱが切れたから。それはそれは綺麗に切れた。


 怖い。いくら美少女といえ、いや美少女だから怖い。チャイムに驚いたことも、怖い。この音は、この日本に生きていればどうしても耳にする音だからだ。相当な田舎に住んでいた可能性も考えたが、それも薄い。あの美しい髪には、都会感がある。なら、コスプレ?俺自身、ここに土地勘があるわけではない。近くに、そういった施設があるのかもしれない。だとしたら、剣が本物である必要がない。俺も詳しくないが、コスプレは模造刀でなければならないはずだ。思いつける範囲の仮説は、全部事実が打ち消す。この短い間で、何度同じことを思っただろうか。間違いもなく、この状況は現実であると。


「   、aaaa、あああああ」


 少女が、口を開く。


「あー、ごめんなさい。ニホンゴを思い出すのに時間がかかってしまった。貴方の持つソレも、習ってはいたのだけれど、いざ目の前にすると驚くものね。私の名前は、ここでは何と言ったらいいのかしら。ここは、ニホンよね?ここでは、春の木を何と呼ぶの?確か、環境は私たちの世界と大きく変わらない。植物もほぼ同じ。それで似た木もあると、教えてもらったの」


 少女の声は、思ったより大人びていて驚いた。ではなくて、異世界に飛ばされたのは、相手のほうなのか?


「あの、聞こえているのかしら。もしかして、言葉が違うなんてこともあり得るのかもしれないわ。これは、帰ったらに問い詰める必要がありそうね」


 ジュン?なんでその名前が。だって、が居なくなったのは、もう5年も前の話で。もう遠く記憶の片隅にあったを思い出す。確かに、居なくなる直前は意味の分からない話をしていたけど。


「なぁ、急に異世界の巫女さんが夢に出てきたって言ったらどうする?」


 あの時、俺たちは馬鹿だな、ただの夢の話だろって本気で聞いてたわけじゃない。信じられるか、本当に居なくなるなんて。


「そうだね。ここは日本。ねぇ、君もしくは君に近しい人に、ツバキって名前はいる?」


 声は、きっと震えていた。


「何で、知っているの。私の姉がそう、ツバキ。正しく言えば、ツバク。そう呼ぶのは、ジュンしかいないのに。じゃあ貴方が、ジュンの友だち?」


「そいつの体に、赤のハートにRのタトゥーがあるなら」


「あかのはーと?」


「ごめん、分からないよな。ひとまず、その剣をしまってくれ。危なくておちおち話もできない」


 分かったわと、彼女は剣を鞘に収めた。


 俺は、スマホのアルバムから見やすいだろう写真を探し出し、彼女に見せた。


「これよ、これ。ジュンは、戦傷だなんて言ってたけど見る限り大ウソじゃない。これも問い詰めなきゃね」



 それから俺たちは、場所を近くの公園に移した。写真のくだりで、時計を確認したらおおよそ1時間立ちっぱなしだった。そりゃ、疲れる。


「まず、俺から聞きたいことがいくつかある。大丈夫か?」


「大丈夫よ。話せないこともあるかもしれないから、そういった時は、ごめんなさいね」


「ありがとう。聞きたいことは、大きく分けて3つある」


 ①ジュンは、元気なのか?俺たちの前から消えて5年経つが、そっちの世界でも同じくらいの月日が流れているのか?


 ②ジュンの見た夢には、ツバキ・サクラ・ザクロ・ツルギと4人の男女が現れたらしい。それは君たちなのか?だとしたら君たちは、何故ジュンの夢に現れたのか?


 ③今、俺の前に現れた理由は?


「そうね、ひとまず全部答えることはできるわ。まず、時間の流れのこと。この世界を基準にすると、私の世界とは異なるわね。私の世界では、ジュンを召喚したのは2年半前のこと。まさか、倍以上違うとは思わなかったけど。でも、度々帰って来てるんじゃないの?1年前にを覚えてから、時折姿を消すことがあるから」


「分かった。時間の流れは、違うんだな。2年位前から、魔術か何かを覚えて、こっちの世界に帰って来ることがあったかも知れないってことか」


「大体、そうね。それにしても、ジュンもそうだったけど、貴方たちの世界に魔術は存在しないのでしょう?何で、そう簡単に受け入れることができるの?」


「あー、なんて言ったらいいのかな。今流行ってるんだ、そういう物語が。急に異界に飛ばされるような話が、大流行してる。これで分かってもらえたかな」


「ふーん、そういうものなのね。答えてくれて、ありがとう。2番目と3番目の問いは、ほぼ同じようなものだからまとめて答えさせてもらうわね。」


 そして、少女は語り始めた。ジュンを召喚するに至った理由を。


「今、私の世界は500年に一回起きるとされている大災害を間近に控えているの。被害を抑えようと、調べた結果一番参考になりそうなのは、古代書だったんだけど。それ曰く、前回の時は【】と。この話にはまだ続きがあって【】らしいのね。で、とりあえず前半にあたる勇者召喚を実行しようと、勇者候補を探せる古代魔術で片っ端から異界を見たんだって。それで、一番適正があったのがジュンとその友だちだったの。召喚のために国中から魔力を集めて、式?陣?を作ったんだけど、どうにも魔力が足りなかったらしくて1人召喚するだけで精一杯だった訳。これが、私の世界の3年前。少し休憩するわ」


 5分後


「ふぅ、続けるわね。その中でも魔力量の多い順。さらに、を拾って。今未婚な王族って何人いる?4人ですね。それで選ばれたのが、ジュンと貴方とヤキュウ?の好きな彼と中性的な彼?性の形は男のようだから、そう思ったのだけど」


 なんとなく話が見えてきた


「つまり、こういうことだな。君の世界の勇者候補に、俺とジュンとルイとヤクモが選ばれた。ジュンが、この中でも一番適正が高かったから先に喚ばれた。夢に出てきたのは、ジュンを通して多少の心構えをしてもらいたかったからって感じか」


「そう、それを言いたかったの。流石のシンドウね」


「え?俺のことを、ジュンがそう言ったのか?」


「えぇ。選ばれた4人の話をしている時にね。そうか、あいつも選ばれたのかってね」


「へぇ、あいつがそんなことを。おっと、いけない。話を戻そう。それで、俺たちの召喚が遅れた理由は何だ?ジュンの魔力で補う算段だったんじゃないのか」


「その予定だったんだけど。こっちの世界は、魔力を使う必要が無いじゃない。魔力の使い方を一から教える時間があったのよ。ただでさえ量が多いのに………」

 

 あー、この感じは相当苦労したんだな。あいつ、覚えてからは要領がいいんだが、覚えるまでが遠い。俺も苦労させられたものだ。


「とにかくそのお陰で、他の3人分の式も完成してね。とはいえ、確実性を保つためには一か所に集まってもらう必要があって。そのために私が来たの。ジュンでも良かったのだけれど逃げ出さないとは言い切れなくてね」


「ははっ、そういうことするタイプだもんな、あいつ。ところで、君の名前は?俺は、ゴウ」


「私は、サクリ。サクラでいいわ」


 これが、俺と嫁の出会いの話。


                                       完

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