二刀流的人生の渡り方

@aqualord

第1話

「ごめんなさい、すみません、ちょっといいですか。」


駅前で突然呼び止められた。


「はい、どうしました?」


見れば、40代か50代のスーツの男性だ。


「私は、こちらに親戚を訪ねてきたのですが、ここ以外に駅前ロータリーはありますでしょうか。」

「ありますよ。こちらは西口ですが、東口にもロータリーがあります。」

「え、こちらは西口ですか。」

「はい。」


私は、そう答えながら、駅の看板の下に掲げられている表示を指さした。


「ほら、あれをご覧ください。西口って書いてあるでしょう。」


スーツの男性は、みるみる焦り始めた。


「しまった。」


たしかに、この駅は、西口の前に大きな商業施設が集まっている関係で人の流れは改札から西口に向かうのが主だ。

しかし、そのせいで西口は混み合うから、住宅からの送迎には東口ロータリーを使う人が多い。

だがこの男性は、改札を出てすぐに目につく西口のロータリーに来てしまったのだろう。


「東口には、出てこられた階段を戻られると自由通路がありますので、そのまま反対方向に抜けるといいですよ。」


西口には東口への抜け方の案内がない。不親切だな、と以前から感じていたので余計なことかも知れないが、教えて差し上げた。


「ありがとうございます。」

「いえいえ、では。」


男性は礼を言いながら足早に去っていた。


さて、私も西口での買い物を済ませたから、東口のロータリーから出ている自宅方向のバスに乗って帰宅しよう。


私は地下街に降りていくエスカレーターに乗った。


まあ、あの自由通路、道順は地下街経由で行くよりははるかにわかりやすいんだが、何度かある上り下りが全部階段で、エスカレーター完備の地下街を抜けるよりかなり疲れる道順だ。


地下街の経路に一緒について行ってあげればいいのかも知れないが、あの焦りようだと、かなり急いで歩いて行きそうだ。いくらエスカレーターでもあの急ぎようで昇り降りされるのはかなわない。


私は今日も親切と不親切の二刀流で世の中を渡ってゆくのだ。






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