二刀流に憧れた僕の異世界ライフの始まり

御峰。

二刀流に憧れた僕の異世界ライフの始まり

 僕は子供の頃からとあるモノに憧れていた。


 ――――そう。それこそが! 『二刀流』である!


 玩具の剣を二つ、腰に掛けて、マントを羽織って、見えない敵と対峙した時、自ら効果音を出しながら二振りの剣を抜く。

 それが僕の子供の頃、日常だった。


 そんな日常も、歳が過ぎ、大人になって、もう二度とやる事はなくなっていたが、心のどこかに『二刀流』への憧れはずっと抱いていた。

 テレビを付ければ、とあるスポーツ選手に『二刀流』と言われる選手がいて、それがまたとても眩しかった。




 ――――享年、三十二歳。


 僕はブラック企業らしく無償残業で家に帰れない日が半年続き、そのまま倒れて帰らぬ人となった。




 ◇




 目を覚ますと、真っ白な空間に、優しい笑みを浮かべたお爺さんが一人。

 この光景……どこかで…………。


 そうだ!

 アニメとかに良く出てくるシチュエーションだ!


「ほっほっほっ、儂は神じゃ。おぬしは既に儂が何者で、何をしたいのか理解しておるようじゃの?」

「は、はい!」


 僕は迷わず応える。

 だって……これって!

 ずっと憧れていた――――『転生』だよね!


「では、おぬしには若返って異世界に『転移』してもらおうと思うのじゃ~、何か欲しいスキルとかあるかね?」


 転生ではなく、転移か。

 だが、どっちでもよい!

 地球とは違い、スキルが猛威を振るうとアニメでは描かれている異世界。

 既にワクワクが止まらない!


「は、はい! 僕は――――――」


 僕は心の奥にずっとしまっていたその言葉を口に出す。


「――――――『二刀流』でお願いします」




 ◇




 僕が異世界に『転移』してすぐ、自分の腰に重みを感じる。

 やっぱり、予想通りちゃんと異世界転移してくれたみたいだ。

 腰には見慣れない剣が二振り付けられている。


 なるほど!

 剣って、専属の腰ベルトにこうやってつけられているんだね。

 意外にも重くて、ズボンが下がりそうだけど、ベルトが腰の左右にクロスして落ちないように固定しているんだ。


 それと剣が同じ形なのに、色違いである。

 これは中々中二病の心を燻るな!


 よし。

 子供の頃を思い出す。


 前には見えない敵がいる。


「ぷしゅー」


 大体こんな感じの効果音だったな。


 僕は剣の柄に両手をかざす。

 そして、抜く!


「しゅっ!」


 もちろん、効果音も忘れない!

 うん! かっこいい!


 ……。


 ……。


 ……。


 あれ?

 思っていた通りに抜けない。


 刀身が長くて、抜こうとしてもちゃんと抜けないのだ。


 あ、そういえば、神様から「二刀流? 双剣使いじゃなくてもいいのか? 二流だと刀が長くて大変じゃぞ?」と言われたけど、「いえ! 二刀流がいいです!」と答えたっけ。


 …………くっ! 刀って剣よりも長いから、一本でも抜くのが大変なのに、二つだと抜くのがもっと大変じゃないか!




 きゃー!




 遠くで女性の叫び声が聞こえる。

 声からして美少女だ。


 間違いない!

 これこそが、異世界初イベントの『なぜか困ってる美少女を助けてモテる』というやつかも知れない!


 僕は二刀を抜けないまま、声がする方に走る。

 走ってみると異世界らしく、身体が軽い。

 地球とは重力が半分くらいだと言われても信じるくらいには軽い。

 それと、僕の足がめちゃめちゃ速くなっている。

 これで地球なら金メダルなんて余裕で取れると思う。


 すぐに着いた場所には、やはり可愛らしい女の子がゴブリン共に囲まれている。


 初めてみるけど、アニメで沢山見ていたからゴブリンくらいすぐに見分けがつく。

 よし。

 僕の二刀流で、彼女を助けてモテイベント回収だ!


「ふん!」


 あっ。

 抜けない。

 ど、どうしよう。

 女の子が危ない!


 こうなったら仕方がない。

 刀は鞘に入れたまま、外してしまえ!


 僕はベルトで刀を止めていた金具を外した。

 意外とすぐに外せる。

 こういう所は簡単になっているんだね。


「二刀流、打撃斬り!」


 自然と口から言葉が発する。

 別にしゃべろうとしてしゃべったわけではない。

 なんだか、勝手に叫んだ。


 そして、思い描くように、僕は両手に持つ(鞘入れ)二刀流でゴブリン達を(殴り)斬った。


 切れ味(打撃)が鋭く、ゴブリン達は全員一撃で倒れた。


「あ、あの……助けてくださって、ありがとうございます」


 ゴブリンを全員倒すと、後ろから美しい声で感謝の言葉が聞こえた。

 後ろを向くと、あと一歩で命を落とすはずだった女の子が目を潤ませてこちらを不安そうに見つめていた。


 い、いや――――異世界の女の子、最高。


 めちゃくちゃ可愛いじゃん!

 地球ではそこそこ女性との付き合いもあったけど、あの会社の所為で長続きなんてしたことがなかった。

 それにしても、今まで出会った女性の中で、一番可愛い。


「あ、あの……?」

「あ、これは失礼。あまりにも可憐な花のようだったので、つい見入ってしまった」


 女の子の顔が真っ赤に染まる。

 うん。可愛い。


「え、えっと……何かお礼がしたいのですが」

「うん? いや、必要ない。美しい女性を助けた事実だけで僕は満足だから」


 ふっ。

 僕はいつからこんなキザな台詞を吐くようになったのだ。


 うわああああああ!

 めちゃ恥ずかしい!

 女の子が心の中で爆笑しているに違いない!


「ぷっ、あはははは~剣士様はとても面白い方なんですね! ですが、このまま何もさせてくださらないと、私が満足出来ません! 助けてくださったのですから素直にお礼を受け取ってください!」


 そう話す彼女は、僕の腕を引っ張り、どこかに向かった。


「ふふっ、私が腕によりをかけて料理を作りますので、どうか食事を奢らせてください」

「う、うむ。そこまで言うのなら、受け取らないわけにもいくまい」

「えへへ。ありがとうございます。私、頑張りますね?」


 く、くぅ……可愛すぎる……。


 そして、僕は彼女に連れられ、彼女の家でごちそうになる事となった。そして――――――僕は、幸せな異世界ライフを送る事となるのだが、その詳しい話はしないでおこうと思う。






 神様。

 ありがとう。

 僕にこんな楽しい異世界ライフを贈ってくれて。

 憧れだった『二刀流』も、使えるようにしてくれて。




 これは、とある異世界で唯一『二刀流』を使い、世界最強にまで上り詰めたとある男の物語である。


「でーでん」


 多分こんな感じの効果音。

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