第6話 五限目
放心状態の『沼田さん』は、涎を垂らしていた。そして教師寺田が次に読み上げたのは
「出席番号十三番、羽田」
だった。
「……はい」
もう『羽田さん』は諦めているようだった。それもそのはず、なぜなら、今まで良い事を言われた生徒が殆どいない。『羽田さん』は覚悟を決め、神妙な顔で寺田を見つめていた。
「羽田、君は活発で勉強はもちろん、部活動にも精を出していたね。テニス部員で唯一県大会に行った時は、先生は嬉しかったなぁ。市大会決勝の、あのマッチポイントのラリー。最後にスマッシュを決めた時は、思わず叫んじゃったよ!」
「あ……ありがとうございます……」
まさかの誉め殺し!この時の『羽田さん』の寺田への反応は、嬉しさ二割、悲しさ八割で、全体的に悲壮感が漂っていた……褒められているのに。皆、確信をした。恐らく彼女は『ドM』だと。
「次、出席番号十四番、飛田」
『飛田さん』はクラスで一番の可愛さと気品さと美貌を持ち合わせている女子だ。
「飛田。俺はお前を初めて見た時、お前の虜になった。一目惚れってやつだ。だが、私は教師!教え子に手を出すなんて言語道断!だから毎日家で抜かせてもらってた」
今日、『上野さん』以上に教室中が固まった。すると
「さっきから言っている内容、全てがサイテーです!」
と、生徒会長兼学級委員長の『吹咲さん』は怒り心頭だ。それに続けとばかりに周りの女子が苦言を呈す。しかし、教師寺田のこの日にかける思いは尋常ではなかった。
「今は個人の意見を尊重する時代で、多様性が重要なんだろ?別にそういう人が居てもおかしくない、これがこの世の真理だ。違うか?ヒヨッコどもが!」
「それを卒業式が終わってからする話しですか!!」
『吹咲さん』は食い下がらない。しかし、寺田も食い下がらない。
「卒業式という、タイミング的に浮かれるシチュエーションなのは分かる。だか、気を引き締めるために先生が用意した『サプライズ』だ!嫌なら教室から出ていけば良い。ただ、これからお前達には思っている以上に、想像を凌ぐ事が次々に起きるよ。予行練習だと思って聞くが良い。先生も鬼じゃないんだ。みんなのためを思って言っているんだ!」
先生の瞳には一片の曇りが無かった。段々生徒は
(自分達が間違っているのではないか?)
そう思い始めた。
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