僕だけの居場所

NADA

一話完結

僕には特技がある

それは、二刀流

といっても、剣を両手で使えるのではない

右手と左手で別々のことができる

右手で空中に指で三角を描くように動かしながら、左手は四角を描く、なんて序の口

右手で字を書きながら、左手で弁当が食べられる

それくらい、誰でもできるって?

左手は箸を持って食べられるんだよ

つまり、両利き

できるなら、やってごらんよ


僕は、この特技をいかして僕にしかできない仕事がしたい

大学三年生の僕は就職先に悩んでいた

僕は、僕だけの居場所を見つけたい

それが、僕の夢だ


バイトでいろんな経験をして、将来の就職先を考えることにした

まず僕が選んだのは、美容師の仕事

何だか両手が忙しそうだからね

これは、僕に向いているに違いない


見習いなので、シャンプーと雑用係担当になった

これでは、僕の才能がいかせない

そこで僕は考えた

シャンプーしながら、頭皮マッサージを同時にできたら、時短になるし、いいサービスじゃないか?


早速、お客様に右手でシャンプーをしながら、左手でマッサージをしてみた

お客さんに感想を聞いてみると、何だか落ち着かない、と言う

人の良さそうなお客さん何人かに試してみたけど、微妙な反応ばかりだった

いいアイデアだと思ったのに


やっぱりこの才能はアーティストとしていかすべきだ

ネットで見つけたバンドメンバー募集

バイトではなく趣味だけど、どこにチャンスが転がってるかわからないからね

僕はピアノを習っていたから、キーボード担当で参加してみた

そこで僕は得意気に提案した

右手でキーボードを弾きながら、左手で他の楽器もできるよ、と

バンドのメンバーは、ポカンとした顔をして見てたけど、右手はキーボード、左手でタンバリンで演奏をしてみせた

いや、スゴいけど、キーボードだけでいいかな…

と、メンバーは苦笑いだった

それじゃあ、意味がない

僕じゃなくてもいいじゃないか


せっかくの僕の才能

いかさないなんて、ただの器用貧乏だ

それからも僕はありとあらゆるチャレンジをした


ジャグリングやマジック、工場で手作業なんてのも

趣味や遊びとしてなら、喜ばれるけど、仕事となると僕の才能はなかなか理解されなかった

どうしても不真面目に見えるらしい

一生懸命やってるのに…


で、結局どうなったかって?

僕は、最高の僕だけの居場所を見つけたよ

美容院のバイトで知り合った、年上の彼女との間に子どもができてね

彼女が美容師の仕事を続けたいから、僕が専業主夫になったんだ

家事と育児は、時短と同時進行ができることは最強なんだ


それこそ、皆やってるって?

いやいや、これは僕の才能がなければ、ひとりではきっと無理だね

なんせ、うちの双子ちゃんたちはやんちゃだからね

妻も、本当にスゴいっていつも感謝してくれる

二人とも待たせずにお世話ができるのは、僕だけさ

両手じゃ、足りないくらいだ

二刀流で本当によかった


















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僕だけの居場所 NADA @monokaki

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