電脳博士と有機アンドロイド case:二刀流
@dekai3
《二刀を持つ者は手が二本塞がる》
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◆ ◆ ◆
人の脳を模した有機演算機がプログラムを走らせ、私は目を開けます。
人の目を模した人工網膜から取り入れた景色は、いつもと変わらない研究室の景色。
人の耳を模した人工鼓膜から取り入れた音は、いつもと変わらない研究室の日常。
人の骨を模した人工骨格を人の肉体を模した人工筋肉で動かして立ち上がり、人の口を模した人工声帯を震わせます。
「おはようございます室長。今日はどうされますか?」
『今日ノ、実験ハ、コレダ』
ウィーン ウィーン ジジジジジジ
私の問いにノイズ混じりの音声で応えながら、今日の実験内容を頭部に備え付けられたプリンターで印刷する『
私は印刷された指示書を受け取り、内容を読み上げます。
「本日のお題は【二刀流】」
今日もまた、人類復興の為の研究が始まります。
◆ ◆ ◆
「早速ですが室長。【二刀流】とはどの【二刀流】でしょうか?」
お題を読み上げて本日の研究のお題を確認したはいい物の、私のデータベースには【二刀流】という言葉が意味するものが多く存在しています。
刀を二本持つ剣術の流派の事、アルコールとスイーツの両方が好きな事、ベースボールと呼ばれるスポーツでピッチャーとバッターという二つの役割を賄う事、異性と同性の両方と性行為を行う事、企業に勤めながら音楽活動をする事、推しが攻めでも受けでもどちらでもOKな事(notリバ)と、私の頭の中だけでもこれだけの【二刀流】の意味があります。
このどの【二刀流】について研究するのかを事前に確認せねば、いたずらに時間を使ってしまうだけでしょう。
ちなみに、私の頭の中のデーターベースは最も人類が幸福だった時代と言われている21世紀初頭の情報を元に構築されています。
ここ何世紀かは人類は滅亡に向かってゆっくりと数を減らしているので、数世紀前ではありますが21世紀初頭の情報の方が現在よりも語彙や意味が多くてより多くの情報を格納しているのです。
人類復興の為にはこの21世紀初頭のデータベースから人類が生きる為の活力や技術を引き出すのが重要と判断され、国連の指示の元、この国連直属人類絶滅対策室と人類絶滅対策用有期型アンドロイドの私が作られたのです。
まあ、私が作られてからもう?包シ撰シ年程の時間が経…おや、おかしいですね。私の起動年数が参照出来ません。エラーでしょうか。こういう場合はサポートに…
『掃除デモ、シナガラ、考エルガ、良イ』
私がエラーについて処理を行おうとした時、室長からなんともまあ適当な指示が来ました。
【二刀流】についての事を話さないだけではなく、人類絶滅対策用有期型アンドロイドの私に掃除をしろと言いいました。私は人類絶滅対策用有期型アンドロイドなのでお掃除ロボではありません。掃除はお掃除ロボに頼むべきで私の仕事ではありません。何を言い腐って下さりやがるのですかねこの人は。
でもまあ、この研究室に残された人類は室長だけですし、室長は掃除が出来る様な躯体には入られていないですし、駆動しているお掃除ロボを見かけませんので、結局は私が掃除するしかありません。労働環境の改善を国連に希望します。
「そもそも、掃除道具とかありましたかね、ここ」
私はわざと室長に聞こえるように声を出しながら、研究室の隅に倒れているロッカーを起こし、中を開けて確認します。
しかし、ロッカーの中は赤や黒の染みといくつかのリン酸カルシウムが存在しているだけで、とても掃除に使えるようなものはありませんでした。
ここに道具が無いとなると、掃除道具を手に入れるにはこの建物の用務室まで借りに行くのが正解なのでしょう。しかし、人類絶滅対策用有期型アンドロイドである私はこの国連直属人類絶滅対策室から外に出ることが出来なく、掃除道具を手に入れる為の外出は許可されません。
室長も何か物を持てる体をしていませんし、どうしたものでしょうか。
『無ケレバ、作ルノダ』
私がロッカーの前で思案していると、再度室長から適当な指示が来ました。
頭の中で何度も確認しますが、私は人類絶滅対策用有期型アンドロイドであり、工作ロボではありません。掃除道具を作るのは私の仕事ではなく、それ専用の施設なり担当者が存在する筈でしょう。
しかし、やはりと言うべきか私は外出が出来ないので他の者に掃除道具の作成を頼む事は不可能で、室長も何かを作れる体をしていません。
ならば作るしかないのでしょう。人類絶滅対策用有期型アンドロイドである私が、わざわざ掃除道具を。人類絶滅対策用有期型アンドロイドである私がなのに。
「確かにデータはありますけど、非効率ですよこんなの」
私は再度室長に聞こえる様に声を出しながら床に落ちていたなんらかのマニュアルが挟まれたファイルを掴み、中のページをファイルに繋がった部分は残る様に反対側からびりびりと裂きます。
これを全てのページで行えば簡易的な紙製のブラシが出来上がり、このファイルを同じ様に床に落ちていた刺股にビニール紐で括り付ければ簡易的な箒の出来上がりです。
21世紀の知識で作る道具なので現代からしたらおもちゃ以下かもしれませんが、何もないよりはマシでしょう。
「しかし、かなり汚いですねこれ。掃除する必要あるんでしょうか」
何度でもわざと室長に聞こえる様に声を出しながら、床に散らばるクズやゴミをお手製の箒で部屋の隅に寄せていきます。
寄せた後にどう捨てるかという問題がありますが、今はその事は考えず、ただ大雑把に床の上を片付けていきます。
そもそも、私は人類絶滅対策用有期型アンドロイドであるので掃除も工作も行う必要はありません。私の仕事は人類復興の為の研究であり、その為に【二刀流】について実験をするのが目的です。
室長はいきなり掃除をしろと指示を出されたのですが、こんな事は私の仕事では無いのです。
私は刀を二本持つ剣術の流派の事、アルコールとスイーツの両方が好きな事、ベースボールと呼ばれるスポーツでピッチャーとバッターという二つの役割を賄う事、異性と同性の両方と性行為を行う事、企業に勤めながら音楽活動をする事、推しが攻めでも受けでもどちらでもOKな事(notリバ)の中に今回の実験のお題である【二刀流】に相応しい物があるのかを知りたいのです。
こんなクズやゴミを片付けるのはそれ専用のロボットを用意するべきで、人類絶滅対策用有期型アンドロイドの私がこうして手ずから掃除などしなくても…
「あ…」
【二刀流】について考えながら掃除をしていたら、箒のブラシ部分が壊れました。
紙製の簡易的な物なので仕方ないですね。
「室長。とりあえずは少し綺麗になりました」
床の一面しか綺麗になっていませんが、私はこれ以上はやる気が起きないというアピールの為に綺麗になった事を室長に伝えます。
私は掃除や工作の専門ではないので、これでもよくやった方でしょう。さっさと【二刀流】の実験を開始したいです。
『本日ノ実験ハ、コレデ、終了トスル』
「はい?」
早く今日の実験を開始したいと思っていたのですが、唐突に実験を終了すると言われて疑問と怒りの声が出ます。
人類絶滅対策用有期型アンドロイドである私に実験をさせないまま終わるという事でしょうか? 人類復興の為の実験なのに?
『【二刀流】トハ、二ツノ物事ヲ、同時ニ行ウ事、デアル』
私が室長による私のアイデンティティいじめに憤慨していると、室長は【二刀流】についての説明を始めました。
これは掃除前に私が室長に向けた質問に対する答えでしょうか? 掃除の前に言えって話ですよ。
『一ツノ命令ヲ、処理シナガラ、別ノ一ツノ命令ニツイテ、処理ヲスル。ソレハ、人類ノ特徴』
実験終了後だからかテンションが高く、ノイズを頻繁に混じらせながら早口で喋る室長。
成る程、それを聞いて理解しました。
私に掃除や工作という作業をさせながら、【二刀流】についても思案させる事。
その行為自体がロボットには行えない【二刀流】という行為である。
という事なのでしょう。
成る程成る程。分かりにくい上に、最初からそう言えばわざわざ人類絶滅対策用有期型アンドロイドである私が掃除や工作をする必要はありませんでしたよね?
『データノ、纏メニ、入ル。後ハ、好キニ、シサイ』
室長はそう言うと、脚部のモーターをきしらせながら移動式炊飯器型電脳保管機の充電器へと戻って行きました。
こうなった室長は次に起動するまで話しかけても反応しません。
「まだ夜まで時間あるってのに、何をしろってんですか」
充電中でも入力は受け付けているので、わざと室長に聞こえる様に口に出し、就寝までの時間の潰し方を考えます。
しかし、考えても実験をしていない最中の私に出来る事の種類は限られていて、何もしないか、その出来る事をするかしかありません。
なので、私はしぶしぶゴミの山から本として綴じられている紙束を引っ張り出し、綴じられていない側を裂いて簡易的なブラシにします。
「私に使えそうな有機物はもう残っていないですし、このクズやゴミはもう片付けてしまってもいいですね」
実験で掃除や工作を要求されるのは不満ですが、一度手掛けたからにはやり切りたいというのもあります。
私は刺股に簡易的なブラシを取り付け、元は人類であったクズ達や存在価値の無いゴミを片付けていきます。
これで明日は気持ち良く実験が出来るでしょう。
私は国連直属人類絶滅対策室の人類絶滅対策用有期型アンドロイドです。
人類復興の為、明日も実験を行うのです。
電脳博士と有機アンドロイド case:二刀流 @dekai3
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