うちの裏山に魔王が封印されていた件
丸山はこ
第1話 うちの裏山に魔王が封印されていたらしい
「緊急ニュース速報です。昨日アイゼン王国レイシャル山の中腹で発見された魔王の封印と見られる古代遺跡が、本日未明、狩猟中の民間人によって誤って破壊されたとの情報が入りました。専門家によれば、この事故により魔王の封印が解けた可能性が非常に高いとのことです。現在捜査当局によって厳戒態勢で調査が行われています。
この影響でレイシャル山付近一帯には避難指示が出されており、立入禁止区域が新たに設けられました。住人の皆様は出来るだけ早急に避難指示に従ってください。繰り返し緊急ニュース速報をお伝えします――」
いつものように兄弟と盛大に昼ごはんを奪い合っていると、魔導ヴィジョンから切羽詰まった声のニュースキャスターが避難を呼びかけるのが耳に入ってきた。
「
全く
精悍な顔立ちをしているイチノー兄さんは、街の女性陣に大層人気があるのだが、今はその焦げ茶色の髪についた寝癖と顔についた食べカスが、全てを台無しにしている。
「捜査当局の人ら大変だよな〜? この時季に山に入るとか、大丈夫かな〜?」
二番目の兄、ニイラン兄さん(18)がそう続く。
ニイラン兄さんは、栗色の地毛を派手な金髪に染め、チャラけた恰好をしていて、いかにも『反抗期』な外見だが、心根の優しい青年で、反抗心は格好だけ。
その『反抗期』も『思春期に反抗しとかないと、心配かけそうだから』という、斜め上な発想からだ。
イチノー兄さんがニイラン兄さんから『俺、明日から反抗期入るね〜』と事前報告を受けたと聞いている。
そんな慈愛の人、ニイラン兄さんは、魔獣の活動が最も活発になっている秋というこの時季に山へ入ろうとしている都会っ子捜査官達を、割と本気で心配しているようだ。
「でもさ! 魔王って聞くとなんかちょっとテンション上がるよね!」
中性的な美貌を持つ末の弟のヨンス(13)が、青い瞳と長い白金の髪をキラキラ輝かせながら、なにやら夢見ている。
「……おかわりは?」
我関せずといった態度でおかわりの有無を尋ねているのが料理オタクな三番目の兄、サンル兄さん(18)。
朝日に照らされた黒髪が艷やかで、神々しささえ感じるが、ニュースには全く興味がない様子だ。
「「「(おかわり)いる!!!」」」
兄弟三人が勢いよく三番目の兄、サンル兄さんの方を向く。
おかわりは魔王よりも強いようだ。
「……ねぇ、避難しなくていいの?」
紅一点の私(16)は、一抹の不安を抱きながら、そんな兄弟たちに質問を投げかけた。
私達の暮らすこの家は
そして、避難指示どころか立入禁止区域にばっちり入っている。
当たり前だが私は避難したい。全力でだ。
四日前から山へ狩りに出かけ、ニュースやら魔王やらについて全く知らない中、なんだか不思議な遺跡を見つけ、魔王の封印をうっかり踏み抜き、捜査当局の面々にしこたま叱られたのが私だ。
……もうやだ怖い。知らなかったんだよ封印とかさぁ。
だって気になるでしょう? いきなり家の裏山に変な遺跡が出現するとか!
だから避難したい! もう叱られたくない!
なのに兄弟たちは。
「面倒だ」
「道案内役くらい残っとかなきゃ、捜査官達が遭難しちゃうだろ〜?」
「こんな面白そうなこと、楽しまなきゃ損だよアンちゃんっ!」
「……もうそろそろキノコがなくなるな。久しぶりに採取にでも行くか」
上からイチノー兄さん、ニイラン兄さん、ヨンス、サンル兄さんだ。
それぞれが、己の欲望に忠実すぎて避難などしそうにもない。
「わ、私は避難したいんだけど……」
私は半泣きで訴えるが非情な兄弟たちは聞く耳をもたない。
「アンちゃん、そんなに叱られるのが怖いんなら、褒められるようなことすればいいんだよ! そうだ! みんなで魔王を封印しに行かない? 多分『王』って付くくらいだから、財宝とかもあるだろうし、封印ついでにお宝貰って、町の食堂でたらふく美味しいもの食べればいいじゃん!」
一石二鳥だよ! と元気に吠える弟を今すぐ黙らせたい。
だけど、耳ざとい兄たちが、たらふく美味しいものを食べるという言葉を聞き漏らすはずがなかった。
この町にある唯一の食堂は本名(?)リストランテ・マルゲリータといい、我々兄弟が小さい頃からお世話になっている激ウマ食堂なのだ。
あまりの美味しさに、国王が料理長を宮廷料理人に任命しようとしたが「新鮮な食材が手に入らにゃあ美味いもんは作れねぇ」という一言で断ったことはこの周辺では有名な話だ。
ちなみに、サンル兄さんはこの料理長を崇拝している。
……というわけで、なぜか兄弟全員で魔王を再封印しに行くことが決定してしまった。そう、『全員』で。
私は、魔王の根城までの行き方をバッチリ覚えてしまっているのだ。私に拒否権はなかった。くそぅ。
こうして私達は美味しいごはんを食べるために魔王封印の旅に出た。…………行き先、裏山だけど。
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