Switch(スイッチ)

化野生姜

「未分類・観察ログ」

「打ちつける魚雨の中で」

 岩礁と大海原の広がる空間。ガラスばりの半地下。

 避難所となった建物の壁に絶え間なく魚がぶつかっていく。


 降りしきる雨の中、水中から宙空へと飛び出す刹那。

 羽毛や触覚、節くれた手足を生やし、それらは壁めがけて衝突する。


「すごい。どの魚も瞬時に遺伝子配列が変わっていく」


 驚きとも感動ともつかない声をあげるのは惑星生態学者の助手ザクロ。


 大きな手には外壁と感覚を同調させた半透明のモニターディスプレイが握られ、接触して崩れていく魚のデータが瞬時に更新されていく。


「見たところ、避難しているのは昨日今日来たばかりの日雇いスタッフばかり…上の金持ち連中は未だにプレ・オープンの会場にいるようだな」


 避難した面々の顔を見ながら惑星生態学者のクラハシ博士は腕を組む。


起点スイッチ後の進化速度も顕著。連中がこの外壁を破る形態になるのも、時間の問題かな…どうだ、ホタルくん。この様子をちゃんと撮れているかい?」


 クラハシの質問にカメラで周囲を撮影するホタルは「うーん」と唸る。


「っていうか、あのクソ親父。この非常事態に何しているのよ!」

 

 この場にいない身内の残した本を握りしめ、思わず宙空に吠えるホタル。

 …その時、高層ホテルから一台の宇宙艇が空に飛び立つのが見えた。

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