第24話 オウルベアーとの戦い



 オウルベアーと遭遇してしまった、何故手負いなのか? なんでこんな人里に近い森の浅いところに来たのか? など疑問はあるが、今は悠長に考えている場合ではない。


見た所、オウルベアーはこちらに対して敵意をむき出しにしている様子ではある。手負いという事もあり、気が立っている。ラッシャーさんが言うにはモンスターではないとの事だが、むこうはやる気のようだ。


オウルベアーは体長1メートル60センチぐらいで頭がふくろうで体が熊の姿をした野生動物だ。警戒すべきはやはり鋭い前足の爪だろうか。あんなものを喰らえば肉をごっそりもっていかれる、注意せねば。


オウルベアーがこちらに向かって歩き出した、一歩ずつ近づいて来る。


「ギダユウさん、オウルベアーがこちらに近づいて来ています、どうしますか? 」


ギダユウさんは腰だめにある鉄の剣を鞘から抜き、身構えながら言った。


「むこうはやる気みたいだ、このまま見逃しちゃあくれないみたいだよ、こっちもやるしかない」


ラッシャーさんも腰に差した小剣のダガーを抜き、構えながらこちらに言葉を掛けた。


「モンスターじゃありやせんが、野生動物ってのは偶に人を襲いやすからねえ、ここで対処しやす」


二人共やる気のようだ、俺もビクビクしながらも腰ベルトからハンマーを抜き、しっかりと持って身構える。


オウルベアーは着実に一歩ずつ近づいて来ている、正直怖いが、ここで迎え撃つしかない。


ギダユウさんが俺達に指示を飛ばす。


「ラッシャー! 俺がヤツを引き付けるから、その間に背後に回りこんで背後バックから致命攻撃スタブを狙っていけ! 」


「へい! 」


「ヨシダさんは下がって俺のアシスト! 他にモンスターが居ないか警戒してくれ! 」


「わ、わかりました! 」


ギダユウさんの的確な指示で体の緊張が少しだけほぐれてきた、俺の足も動く。震えもいくらか収まった。


俺はギダユウさんよりも後ろへと下がり、背後を警戒する。ギダユウさんが前に出て剣を構える。


「さあ、こい! 」


この勢いに乗じたのか、同じタイミングでオウルベアーも動き出した。一気に速度を上げ、勢い良く走り出して来た。


オウルベアーが前足を振りかぶり、ギダユウさんを抉ろうとして急接近し、素早く振り下ろす。


ギダユウさんは後ろへバックステップを踏み、オウルベアーの攻撃を回避する。


「これで、どうだ! 」


ギダユウさんの武器攻撃が届く距離にオウルベアーが接近してきたので、すかさず剣を振り上げ、力を溜め一気に振り下ろす。


「グガァ! 」


オウルベアーにギダユウさんの攻撃が当たり、オウルベアーの横っ腹に剣による切り傷を与え、ギダユウさんは一旦距離を取る。


その間にラッシャーさんがオウルベアーの背後へと回りこみ、様子を伺っている。


オウルベアーの体から血が滴っている、生き物を傷つけているという行為に罪悪感を感じ、震えがくるが、こちらがやられる訳にはいかない、やらなければやられる。相手は野生動物、侮るわけにはいかない。


オウルベアーが更にギダユウさんに襲い掛かろうとして、その場で立ち上がり仁王立ち状態になり、鋭い前足の爪を振りかぶった。ギダユウさんはその場で剣を構え、受け止める覚悟みたいだ。


オウルベアーの鋭い爪の前足が素早く振り下ろされて、ギダユウさんを襲う、しかし、ギダユウさんも振り下ろされた爪を剣で受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いの状態にまでなり、持ち堪えている。


ギダユウさんの体格だって、人並み以上にガタイがいい、力押しなら互角ぐらいだろうか、いや、押されている! 徐々にではあるが、ギダユウさんが後ろへと少しずつ後退している。


俺も何かしなくちゃと思うのだが、今、横槍を入れても大して役に立たないと思う。俺は俺で辺りの警戒をする、それぐらいしか出来ない。


ギダユウさんがオウルベアーと対峙していると、その背後からラッシャーさんが静かに近づいて距離を詰める、そして一気に接近しオウルベアーの背後からダガーを突き入れた。バックスタブだ。これは効いただろう。


「グガアアッ」


オウルベアーは多々良を踏んで態勢を崩した、その隙を見逃さず、ギダユウさんが鉄の剣を素早く振り下ろす。オウルベアーの体に剣の切っ先が当たり、更にダメージを蓄積させていった。


しかし、オウルベアーもただでは転ばなかった、態勢を崩しながらも鋭い爪でギダユウさんの腹に一撃加える。


「ぐっ!? いてえっ」


ギダユウさんはお腹を庇いながらでも、鉄の剣をオウルベアーに突き刺した。


「グガァッ」


更に剣をねじり、剣の傷を深いものにしようと小刻みに捻る。これは痛そうだ。


「こっちだってまだありやすよ! 」


ラッシャーさんがダガーを捻り、更に深手を負わせる。


「グガォァアアァァァ・・・・・・」


オウルベアーは断末魔を上げ、ドサリッ、とその場で倒れ込んだ、オウルベアーはピクリとも動かなくなった。


「はあっ、はあっ、や、やったか? 」


ギダユウさんがその場でへたり込んだ。


「・・・どうやら、倒したみたいでやすねえ」


ラッシャーさんがオウルベアーに近づき、呼吸を確かめていて、そう断言した。


どうやら終わったみたいだ、二人共強いなあ、俺なんか見てただけだったよ。


「いててっ、ちくしょう、腹に一発もらっちまった、血が止まらねえ」


そうだった! ギダユウさんが怪我をしたんだった、俺の回復魔法の出番か。俺はギダユウさんに駆け寄り、ギダユウさんの傷を見る。


「ギダユウさん、ちょっと傷を見せて下さい、俺の回復魔法で癒せるかもしれません」


「え!? ヨシダさん、あんた回復魔法が使えるのかい!? 」


「自信はありませんが、やってみます」


「た、頼むよ・・・」


ギダユウさんの傷はかなりの深手だった、このままじゃ血が止まらない。急がなくては。


俺は魔力を右手の手の平に集めるよう、マナを練り上げる、・・・よし、出来る。聖印ホーリーシンボルも持って来ている、常にポケットの中に入っている。


よーし、マナを練り上げた、手の平が温かくなってきた。これなら。


「癒しの光よ、のものを癒したまえ、・・・《ハーフヒール》」


俺は右手の手の平を、ギダユウさんのお腹の傷にかざし、癒したいと念じる。


すると、ギダユウさんの体がやんわりと光だし、みるみるうちにお腹の傷が塞がっていく。よーし、成功だ。


「お!? おお!? すごいじゃないかヨシダさん、本当に傷が癒えたよ、ありがとう、しかし、ヨシダさんがパールさんのところで魔法を教わっているとは聞いていたが、まさかここまでの魔法とは思わなかったな、大したもんだ」


ギダユウさんはお腹のあたりを擦りながら傷が癒えた事に感心しているようだ。


「ふう~、何とかなりましたね、よかった、ギダユウさんの傷が治せて」


ラッシャーさんも驚いているようだ。


「すごいっすね、ヨシダさん、ホントに回復魔法が使えるんでやすねえ、こいつは恐れ入りやした」


「いや~、魔法って言っても、俺の場合、一日一回の魔法が限度でして、もう今日は魔法が使えないんですよ、これぐらいしかお役に立てなくて」


ギダユウさんはお腹の傷跡を擦りながら、俺に感謝の言葉を述べた。


「ヨシダさん、ありがとう、お陰で助かったよ、こういう傷ってのはほかって置くと酷くなるからね、今治せてよかったよ、ホント、感謝だよ」


「いえいえ、お役に立てて何よりです」


俺達はしばらく休憩をして、この後の事を話し合った。


「オウルベアーは町に持っていけば高値で取引されるんだよ、肉はうまいし、体内にある胆石は錬金術師に持っていけば高く買い取ってくれるしね、早速木に縛り付けて二人掛りで持ち上げて持っていこう、まずは村まで持っていけばいいだろう」


「へい、兄貴」


「わかりました」


俺達は、オウルベアーの手足を一本の木に縛り、俺とラッシャーさんで一旦村まで運ぶ事になった。


オウルベアーを村まで運んで、また森に戻り、今度は伐採した材木を村に運び入れる。


森に戻って材木を持ち上げようとしたその時だった、ラッシャーさんが何やら地面を見て怪訝な顔をした。


「・・・こいつは・・・」


「どうかしましたか? ラッシャーさん」


「ヨシダさん、一旦材木を降ろしてくだせい」


「? はい」


ラッシャーさんが何やら森の地面を屈みながら手で触れて、何かを確かめているみたいだ。一体どうしたっていうんだ? 


「ギダユウの兄貴! ちょっとこちらへ! 」


呼ばれて、ギダユウさんがラッシャーさんの元へ歩み寄る。


「どうした? ラッシャー」


ラッシャーさんは深刻な表情で俺達に説明した。


「こいつを見てくだせい、ゴブリンの足跡でさあ、しかも1匹や2匹じゃありやせん・・・」


「なに!? こんな村から近い森の浅い所でか! 」


「へい、おそらくオウルベアーを手負いにしたのはゴブリンなんじゃないかと思いやす」


「・・・なんてこった、村長に知らせないと」


どうやら只ならぬ事態になりそうな予感がしてきた、ゴブリンの足跡だって? 一体この森で何が起こっているんだろうか、オウルベアーが森の浅い場所にまで出て来た事と関係があるのだろうか。




















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