第17話 番外編 酒場に集う男達



 ここはとある町のとある酒場、今夜もここの酒場には男達が酒を呑みに、ある者は男を決めに集う。


この店の常連客の一人、髪型がアフロヘアーの男、ボンバーヘッドが店のマスターに問いかける。


「なあ、マスター、好きな女の為に自分のポリシー変える奴、どう思う? 」


この酒場のマスターはグラスを布で拭きながら、ボンバーヘッドの問いに聞き返す。


「どうしたい? やぶから棒に、・・・」


ボンバーヘッドはグラスを傾け、煽る様に酒を呑む、そして、質問の内容を噛み砕いて説明する。


「いや、実はな、惚れた女に告白しようとして色々話ていたのさ、そしたらその女が「あんたの髪型が気に入らない」、とさ、参ったよ、この髪型は俺が子供の頃から決めているアフロなんだぜ、それを気に入らねえとさ、俺は一体どうすりゃいいんだよ」


酒場のマスターは落ち着いた様子で、客に話を聞いてみる。


「ふーん、その女に惚れていて、プロポーズでもするのかい? 」


「・・・いや、そこまでは考えてねえよ、・・・まだな、」


ボンバーヘッドはグラスに入った酒を眺め、溜息を一つ、そしてもう一度マスターに問いかける。


「もう一度聞くぜ、マスター、惚れた女の為に自分のポリシー変える奴を、どう思う、」


酒場のマスターは髭をしごきながら、ボンバーヘッドの問いに答える。


「うーん、そうさな、個人的には好きじゃねえが、まあ、今の世の中、それ位の柔軟性がなきゃ生きていくのに疲れるだけかもな」


マスターの答えを聞き、ボンバーヘッドが答えを聞き返す。


「俺の髪型を変えろ、てか? 何だよ、マスターは俺の味方だと思ってたのによ、」


「その言い方、もう自分で答えを決めていたんじゃねえのかい、だったら聞くなよ」


何の事もない、酒場のマスターは呆れた顔をして、次のグラスを拭き始める。


その時、隣のカウンター席に座っていた七三しちさん分けの髪型の男が、話に割って入ってきた。


「ちょっと宜しいですか、先程から話を聞いていたのですが、どうも他人事には思えなくて、」


酒場のマスターもボンバーヘッドも七三分けの男の方を向く、何やら意見があるらしい。


「なんだい? 俺の髪型を変えろってのかい、あんたもマスターの意見に賛成なのかい」


「いえ、違います」


七三分けの男はグラスの酒を一口飲み、ゆっくりと味わいながらこう切り出した。


「いいですか、髪形なんてものは自分自身では見れませんよね、寧ろ相手からしか見る事ができない、これはつまり、髪型などはただの自分という形を相手に印象付ける、言ってみればトレードマークみたいなものです、それを決めるのは寧ろ自分だけだと思います、自分の髪型は自分で決める、いいと思います」


七三分けの男はグラスに入った酒を少しずつ飲み干し、自分の意見を口に出した。


ボンバーヘッドはその意見に快くしたのか、笑顔になり、もう一杯、酒を注文する。


「マスター、酒のおかわり、・・・なるほどな、そういう見方もあるって訳か、だったら俺のこのアフロは変えずにいればいいんだな」


「ええ、そう思います」


そこで、酒場のマスターがこんな事を言った。


「だけど、その女がその髪型が気に入らないと言ったんだろ、それに髪型は自分じゃ見れないんだったら他人の意見も聞く必要があるんじゃないのかい、惚れた女がその髪型でいいのかどうか、とか」


「そんな事言ったら、俺はどうすりゃいいんだよ、このままでいるのか、髪型を変えるか、どっちなんだよ」


七三分けの男は自分を貫けと言っている、酒場のマスターは柔軟なものの考え方をしろと言う。ボンバーヘッドはどうするべきか悩んでいた。しかし、自分の中では既に答えは決まっていた。


「まあ、兎に角だ、折角惚れた女が見つかった訳なんだし、ここは思い切ってプロポーズするってのもありなんじゃないのか、」


「マスターはそう言うけどさあ、簡単じゃねえのよ、これが、この髪型でいくつもりなんだがなあ、断られたらどうしようってなるんだわ、はあ~、」


そこで、七三分けの男が胸の中心に親指をトントンと当てる。


「大事なのはここ、ここですよ」


「ハートか、確かに、」


これには酒場のマスターも納得だ、ボンバーヘッドもその仕草に男気を感じた。


「そう、そうだよな、大事なのはハート、ハートだよな、よーし、俺は一丁やるぜ、惚れた女にアタックするぜ、この髪型でな」


そう言って、ボンバーヘッドは席を立ち、酒場を出ようとした。


「おいおい、またツケで呑んでいくつもりかい、いい加減ツケを払っていってくれよな」


「何言ってんのマスター、俺がうまくいきゃあツケなんて幾らでも払ってやるさ、それじゃあな、行って来る」


そう言いながら、ボンバーヘッドは酒場を後にする、意気揚々と惚れた女にプロポーズする為に。


「・・・俺としちゃあ、ちゃんとツケを払ってくれりゃあいいんだがね」


「マスター、私も今日はここまでにしておきます、お勘定を」


「はい、ありがとうございました、またのお越しを」


七三分けの男も酒場を出て行く。


「さーて、どう、合い、成り、ます、やらだ、」


今夜も酒場には、男達が他合いも無い話をしに集うのであった。









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