第8話 クノックスの町へ行ってみよう



 俺とラッシャーさんはクノックスの町を目指して、えっちらおっちら道を歩くこと2時間、ようやく大きな道に出てきた、のだが………。


「ふい~、ようやく街道に出やしたねえ。」


街道は石畳で舗装された歩き易そうな道だった。


「街道ですか? おや? あの水溜りみたいなのって何か動いていませんか? 」


「ああ、あれはスライムでさあ、大丈夫、何もしてきやしませんよ。」


スライム!? あれが! ゲームではお馴染みのあのスライムってやつか? え!? 本当にモンスターっているのか! 知らなかった。


「ラッシャーさん、どうします? 」


「え? 何がでやすか? 」


「スライムですよ、スライム、倒さなくていいんですか。」


「ああ、それならいいんですよ、何もしてきやせんからねえ、それに、スライムってのは掃除屋と呼ばれているんでさあ、冒険者や衛兵が倒したモンスターの死骸を食べて溶かしてくれるんでさあ、もっとも、そうやって捕食していって大きくなったスライムは討伐対象になりやすがね、こいつはまだ小さい方でさあ、ほっておいて先を急ぎやしょう。」


「は、はあ、わかりました。」


 初めて見た。あれがスライムってやつなのか。30センチぐらいで何かゼリーみたいな感じだな、動きも遅い。色は水色かな? 


そうか、何もしてこないんだな、掃除屋か、言いえて妙だな。


「さあ、街道を行きやすよ、東に行くと王都に出やす、あっしらの目的地はクノックスの町ですから、西へ向かって行くんでさあ、ヨシダさん、行きやしょう。」


「はい。」


俺達は歩きながら、ふと、気になった事を聞いてみた。


「そう言えばレクリオ村を出る時、ギダユウさんが薬草の件がどうのと言ってませんでしたか?」


「ああ、その話でやすか、薬草を栽培してるんでさあ、ウチの村で、それを商人ギルドへ持っていって調べてもらうんでさあ、もし品質が良い薬草なら村で栽培するってんで、護衛の王国兵が村に駐留してくれるようになるんでさあ、そうなったらもう、モンスターに脅えずに済みやすからねえ、どこの村も薬草やら毒消し草やらを栽培するのに躍起になっているんでさあ。」


「へえ~、そうだったのですか、うまくいくといいですね。」


「ええ、そうでやすねえ、だけど、ウチの村も領主様に税を納めなきゃならねえんで、ウチで育てている作物を町で売って、その少ない金で税金を納めている訳なんで、作物を育てる畑もあまり薬草ばかりに使えないんでさあ、やりきれねえですよ。」


ふ~む、村の生活も大変なんだな、薬草の栽培か、うまくいくといいな。


「ほら、ヨシダさん、見えてきやしたぜ、あの城壁がクノックスの町でさあ」


 街道を歩いていると前方の遠い所に城壁が見えてきた、あれか? クノックスの町ってのは、何か城壁が町の周りをぐるりと囲っている様だ。


 昔の西洋の町みたいな感じだな。野生動物避けの為かな、それともさっきみたいなモンスターが襲ってきても耐えられるように城壁があるのかな。


「もう少しですね、俺の目的は賢者様に会うことなんですけど、その賢者ルカインさんが居る塔ってのは町の中にあるのですか? 」


「いえ、ルカインの塔は町の外にありやす、と言ってもそんなに離れていやせんけどね、ほら、ここから見えやすでしょ、あの塔がルカインの塔でさあ。」


「あ、あれですか、3階建ての建物ぐらいの高さの。」


「そうでさあ。」


 確かに町の城壁から少し離れた場所に塔が立っている、あれか。


 俺達は街道を歩いて1時間、ようやくクノックスの町にたどり着いた。


 城壁の高さは3メートルぐらいだろうか、その壁がぐるりと町を囲んでいる。


 町の規模もなかなか大きい感じだ。壁門のところまで来ると他にも人が並んでいた、恐らく検問か何かだろう、町の中に入るのに何か手続きが必要なのかもしれない。


 俺とラッシャーさんは人が並んでいる最後尾に並ぶ。しばらくして、俺達の番に回ってきた。


「次の人、どうぞ。」


 門衛に言われて俺達は前に出る、何を調べるのかな? それにしても門衛の人は鉄か何かで出来た鎧を着込んでいる、槍を持っているし、まるでファンタジーの世界みたいだ。頑丈そうな鎧だな。


「どうも、レクリオ村からやって来やした、目的は薬草の鑑定と買い物でやす。」


「ふむ、レクリオ村ね、ん? そっちの方は見覚えがないな、どちら様かな? 」


あ、俺の事か、何か引っ掛かってしまった様だ。一体何を話せば良いのやら。


「え~と、自分はレクリオ村にご厄介になっている者です、名前は吉田と申します。」


「ふむ、ヨシダね、レクリオ村出身じゃないのかい? 」


「いえ、違います、何と説明したら良いのやら。」


「山賊か? 」


「い、いえ、違います、山賊とかじゃありません。」


「それなら身分を証明する物は何かお持ちではないですか? 」


「そ、それが、何も持ってはおりません。」


「ふむ、身分証無し、か、だったら町に入るのに入町税を支払ってもらうけど、いいかな? 」


「はい、お幾らですか? 」


「まあ、待ちたまえ、その前にあなたが何か犯罪を犯していないか調べるから、ちょっと待っていたまえ。」


 そう言って、門衛の人は近くの建物に入っていった。


 な、何かな? 何をするのかな。しばらくして、門衛の人が水晶玉か何かを持って戻って来た。


「待たせたね、さあ、この水晶に手を触れて。」


「え? この水晶玉にですか? 」


「ああ、そうだよ、これで犯罪歴などを調べるのさ、さあ。」


「は、はい。」


 ここで怪しまれる訳にはいかない、ここは素直に指示に従うべきだな。


 俺は門衛の人が持ってきた水晶玉に手を添える、すると、水晶玉がうっすらと光だした。なんだこれ? どうなってんだ? 


「どれどれ、・・・・・・ふむ。」


門衛の人がなにやら水晶玉を見つめている、こんなので何かわかるものなのか?


「うむ、よし、犯罪歴は無し、よさそうだな、もう手を放しても結構ですよ、入町税として銅貨3枚を徴収するよ。」


「え? もうわかったのですか。」


 こんな水晶玉で何かわかるものなのか? 不思議だ、謎アイテムだな。もっと厳しいのかと思った。俺は犯罪歴というと一旦停止無視ぐらいだからな。よかった、詰問されなくて。


 俺はナップサックから財布を取り出し、銅でできた硬貨を3枚取り出した、早速このお金を使う羽目になってしまった、申し訳ない。銅貨を3枚門衛に渡す。


「うむ、確かに、よーし、二人共通っていいですよ、ああ、それからそこの人、この木札を持っていなさい、今日から二日間使える通行証だから、なるべく早く役所に行って身分証を発行してもらいなさい、ようこそクノックスの町へ。」


「ど、どうも。」


俺は衛兵から木札を受け取る。後で役所に行って身分証を発行してもらおう。


俺とラッシャーさんは壁門を潜り、町の中へと入る。


「ふい~、ヨシダさん、肝を冷やしやしたぜ、だけど犯罪歴が無くて正直ほっとしやした。ヨシダさんが真っ当なお方でよかったですよ。」


「はは、どうも、心配を掛けました。」


あの水晶玉ってそんな事もわかっちゃうのか、謎だ。


 クノックスの町は見た感じ古い西洋風の町並みをしていた、木造立てからレンガ造りまで、様々な建物が建ち並んでいる。一見すると鉄筋コンクリート製みたいに見えるが、壁の一部が崩れていて、下地にはレンガが積まれて建てられた物だとわかる。


「随分古い町ですね、歴史を感じますよ。」


「え? そうですかい? そんなに古い町じゃありやせんけどねえ。」


 町の中を歩いていると、どうにも見た事もない町の人達が目に映る。


 耳が長い人や、髭もじゃで体形がずんぐりむっくりした人、動物かなにかの耳や尻尾を着けた人まで、実に様々な人達がいる。


 何かのイベントか何かがあるのかな? 漫画やアニメ、ゲームなんかで登場するエルフやドワーフ、獣人といったようなコスプレっぽい感じのした人達が大勢いた。


「凄いですね、色んな人達がいますね。」


「まあ、この町は交通の要所ですからねえ、様々な人が行き交うんでさあ、ヨシダさん、あっしは商人ギルドへ向かいやすが、ヨシダさんはどうしやすか? 」


「あ、はい、俺はまず、賢者ルカインさんに会いに塔を目指します。」


「そうですかい、それじゃあ、ここで別行動でやすね、用事がすんだらこの町の噴水広場に集合って事で。」


「はい、わかりました、それではこれで。」


 ラッシャーさんは町の中を歩いて行ってしまった。俺も目的地へ向けて歩き出した。


 目指すは賢者様が住んでいるというルカインの塔。まずはそこへ行こう。


 俺は内心、この世界が、本当は俺の知っている世界とは違うんじゃないかと思うのだった。だとしたら、ここは一体?















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る