第7話 レクリオ村の朝



 朝、俺は妙に煙草のヤニ臭い部屋で目を覚ます。ああ、そうか、ここはミランダさんの旦那さんの部屋だったか。


 俺はベットから起きて、顔を洗おうと部屋を出る。部屋を出たらリビングが目の前に広がっていた。そこには既にミランダさんが起きていて、朝食の準備に取り掛かっていた。


「おはようございます、ミランダさん。」


「あら、お早いですわね、ヨシダさん、おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」


「はい、おかげ様でぐっすりと、あの~、顔を洗いたいのですが。」


「井戸なら外に出て左手にありますよ。」


「どうも。」


 俺は玄関のドアを開け、外に出る。村全体に朝もやが掛かっていて、朝日が村を幻想的に照らしている。


あちらこちらから動物の鳴き声が聞こえてきて、一日の始まりを告げている。


「動物の鳴き声って事は、村で飼っている牛か鶏か何かかな? それとも牧畜でもしているのかな、日本の田舎を思い出すなあ。」


 雀か何かの鳥の鳴き声も聞こえてくる、朝の光景はどこにいても変わらないものなのかもしれないな。


 おっと、顔を洗わなきゃ、俺は玄関から出て左にある井戸に行き、水を汲む。井戸は昔ながらの桶を落として水を汲み上げる方式のヤツだ。ロープを使い、水を汲む。


「冷たっ、井戸水ってこんなに冷たいのか、こりゃあ一気に目が覚めるな。」


水を掬った桶に手を入れて顔をバシャバシャと擦る、冷たい水で一気に目が覚める。


「ふう~、冷たいけど、お陰で目が覚めたな。」


 水滴を干しかけてあった布で拭いて、さっぱりした。


 玄関のドアを開け、中に入るとイイ匂いが漂ってきた、昨日の残りの食べ物を温め直してくれたみたいだ。ちょうどその時、カチュアちゃんも起きて来た。


「おはよう、カチュア、顔を洗ってらっしゃい。」


「は~い。」


「おはよう、カチュアちゃん。」


「おはよう、ヨシダさん、早いのね~。」


「まあ、寝るのが早かったからね。」


 カチュアちゃんは井戸がある方へと向かって外へ出て行った。ミランダさんが俺に話し掛けてきた。


「ヨシダさん、今日のご予定はありますか?」


「あ、はい、ルカインという賢者様に会いに、クノックスの町まで行こうかと。」


「まあ、クノックスへ、それなら丁度よかったわ、実はお塩と食用油がそろそろ切れそうだったんです、町に行ったらヨシダさんの用事が済んでからでいいので買って来ては下さいませんか。」


「ええ、いいですよ、塩と油ですね。」


「お塩は紙袋一つ買って来て下さい、食用油はこの瓶に入れてくれればいいので。」


そう言って、ミランダさんは一つの空き瓶を渡してきた。


「この空き瓶に油を入れてくればいいのですね。」


「はい、お願い出来ますか?」


「勿論ですよ、世話になっていますからね、それぐらいはお安い御用です。」


ミランダさんは食器棚の引き出しからナップサックを取り出した。


「これで運んで下さればいいので、この中にお金もありますから。」


「わかりました。」


「あ、それと、お塩と食用油を買ったお釣りはヨシダさんの自由にお使い下さい。」


「え!? それはいけませんよ、お金は大切に使わないと。」


「ヨシダさんの使いたい物にお金を使えばいいんですよ?」


「いや、しかし、そこまでお世話になる訳にはいきませんよ。」


「大丈夫ですよ、私のところの生活費ぐらいはちゃーんと残してありますから、遠慮しないでお使い下さい。」


「しかし、よろしいのですか?」


「はい、構いませんよ、と言っても、お釣りは大した金額じゃありませんけどね。」


 なんて親切な人なんだ、今時こんな人と出会えるなんて、俺は感謝ぐらいしかできない。ミランダさんに出会えて良かった。


「ありがとうございます、ミランダさん、大切に使わせて貰います。」


 ミランダさんに感謝しつつ、朝食をみんなで食べる、うん、うまい。


 昨日の残りとはいえ、温められた食事はやはり美味しかった。朝はトマトスープが最高にうまかった。


「「「 ご馳走様でした。 」」」


手を合わせて食事を終える。昨日作った料理は今日の朝ご飯で食べきってしまった。


「ふう~、お腹いっぱいです、おいしかったですよ、ミランダさん。」


「うふふ、どうもお粗末さまでした。」


「お母さん、私今日もパールさんの所に行って来るわね。」


 カチュアちゃんは朝ご飯を食べ終わると、急いで身支度をして何処かへ出かけるみたいだ。


「あら、この子ってば、またパールさんの所へ行くの? 一体何しに行くのかしら。」


「えへへ、まだ内緒、それじゃあ行って来るわね。」


カチュアちゃんは元気よく玄関のドアを開け、走り出して行ってしまった。


「あの子ってば、いつもパールさんの所に行って何をしているのかしら?」


「ミランダさん、そのパールさんという人は?」


「ああ、パールさんですか、元冒険者の村長さんが連れてきた奴隷の方で、今は村長さんの所で住み込みで働いていると聞いておりますが。」


「ど、奴隷? え? 奴隷っていいんですか? 日本じゃ即ポリスですよ!」


「ぽりす? よくわかりませんけど、この国では奴隷を買うのは合法ですよ、ちゃんと面倒を見ないといけませんけどね。」


なんてこった、この国では奴隷っていいのか? どうなってんだこの国は。


食後のまったりした時間を満喫していた時、外から大きな声で呼びかけられた。


「おはようございやす~~、ヨシダさんは居やすか~?」


「この声、きっとラッシャーさんですわ。」


「ラッシャーさん? ああ、ギダユウさんと一緒に居た、あの年若い男の人ですよね、一体何かな?」


 俺は玄関のドアを開けて、外の様子を伺う。そこにはやはりラッシャーさんが一人で居た、何か大荷物を背負い込んでいるみたいだ。


「おはようございます、ラッシャーさん、どうしましたか?」


「へい、村長さんから聞きやしたぜ、何でもクノックスの町に行かれるとか、あっしもお供しやすぜ、一緒に行きやしょう。」


 ああ、そういう事か、俺はクノックスの町までの道がわからないからな。


 そう言えばそうか、道案内して貰えるなら有り難い事だ。よし、ラッシャーさんと一緒に行くか。


「それじゃあミランダさん、俺はクノックスの町に行ってきます。」


「そうですか、くれぐれも気を付けて行って来て下さいね。」


「はい、それでは。」


 俺はテーブルに置いてあるナップサックを背負い、外へ出る。いい天気だ。クノックスの町までどれくらいの距離だろうか?


「ラッシャーさん、道中よろしくお願いします。」


「へい、任しといてくだせい、途中、出くわすモンスターはあっしが対処いたしやすから。」


「それは心強いです、だけどあまり無茶はしなくても、逃げればいいので、気を付けて参りましょう。」


「へっへっへ、わかっていやすよ、クノックスの町までここから歩いて3時間ってとこですかねえ、膳は急げ、早速行きやしょう。」


「はい、それじゃあミランダさん、俺は行ってきますね。」


「お気を付けて。」


 俺とラッシャーさんは二人並んで村の中の道を歩き出した、途中、門番をしているギダユウさんと会い、レクリオ村を後にする。


「お、ラッシャーにヨシダさん、町にこれから行くのかい? 道中気を付けてな、おいラッシャー、薬草の件はくれぐれも頼むぞ。」


「へい! 任しといてくだせい、それじゃあギダユウの兄貴、行ってきやす。」


「おう! ヨシダさんも気を付けてな。」


「はい、それでは行ってきます。」


 こうして、俺とラッシャーさんはレクリオ村を後にして、一路、クノックスの町へ向けて歩くのだった。


 その町の近くに住むという賢者様に会いに、あと、お使いも頼まれていたっけ。


 俺達は舗装されていない土がむき出しの道を歩く。目指すはクノックスの町。


 日本に帰る手がかりがあるといいなあ。






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