七時
「今の人が主催者かー?!」
ニット帽の男は映像が終わると大きな声で叫んだ。
「そ、そうみたい…」
カチューシャを付けた女は少し怯えている様子。
「お、俺、もう怖い、に、逃げてもいいんだった…よな…!」
猫背の男は怖気付いた様子で一目散に部屋を飛び出して行った。
「ちっ、あいつ逃げ出したぜ、だっせえのっ」
鼻ピアスの男は呆れたように猫背の男が飛び出して行った扉を眺めた。
「あの…とりあえず他の部屋も…見てみましょうよ…皆さん…」
メガネをかけた女は届くか届かないか分からないような声量で全員に呼びかけた。
「行くしかないよな~へぇ~だりぃ~」
腹の見えているタンクトップ姿の太った男は正面の部屋に入った。
「じゃあ私も」
スーツ姿の女はもう片方の扉へ入った。
それに釣られて他の参加者も部屋に向かった。
それぞれ男はタンクトップの男に、女はスーツの女に着いて行った。
「へぇ、ここが第二の部屋かぁ、さっきの部屋もそうだったが立派な部屋だなぁ」
タンクトップの男はすぐソファに座り込む。
「呑気にしてんじゃねえよおっさん、命かかってんだよこっちは」
「あぁ?それなら俺もだぞぉ?このガキぃ」
鼻ピアスの男とタンクトップの男は開始早々喧嘩をしている。
「ちょっと待てよおふたりさーん、まずルールを探さないとだぜー?」
ニット帽の男は明るく喧嘩を止めに入った。
「おめぇも黙ってろよクソガキ共がぁ」
ニット帽の男は呆気なくタンクトップの男に弾き返される。
「ここで争っても誰か死ぬんだ、最悪この三人全員死ぬ、だから今はあっちの女に負けないように探そうぜ」
「へっ、ガキが仕切りやがって、ほら、行くぞ」
「お、ちょっと雰囲気いい感じー?」
「ここは第四の部屋、第一の部屋から一気に第四なんておかしいわね、さっきの醜い男達が入っていった方が第二の部屋だったのかしら」
「あの…お姉さん…」
「何?邪魔しないでくれるかしら?」
「あ…ごめんなさい…」
メガネの女は話しかけたがすぐきつく返された。
「あと、あなたも震えてないで探すなら探しなさいよ、ルールになりそうなものを」
「えっと、その、そこの隅に時計があります」
「時計?」
スーツの女は天井を見上げると隅に鳩時計らしきものを見つけた。
「今は七時十分、まだそんなに経ってないわね、よくやったわ」
「へへへー」
カチューシャの女は照れたように頭を搔いた。
「なあ、おめぇらはなんでこんな危ねぇゲームに参加したんだぁ?」
「俺は楽して稼ぎたいから」
鼻ピアスの男は部屋を調べながら言った。
「俺はっすねぇー、ちょっと借金で~!あははっ!」
ニット帽の男は頭の後ろに手を回し、笑顔で答えた。
「ははっ!じゃねえよぉ、そんな若い頃から借金してると、ろくな目に合わねえぞぉ?」
「これでも三十三っす!」
「えぇ?見た目は若いのになぁ」
「おっさんはなんでなんだよ」
「俺は、まあ、その、嫁さんにご馳走食わせてやりてぇんだよ…」
「え、そんな優しい理由なのにー、こんな死ぬかもしれないやつに参加したんすかー?」
「う、うるせぇなぁ、俺は嫁さんに迷惑ばっかかけてきたんだぁ、不器用だがこんなやり方じゃねえと稼げねぇんだよぉ」
「申し訳ないが俺も死ぬ訳にはいかねえ、どんな理由だろうと容赦はしないぞ、おっさん」
「へっ、ぜってえ先にルール見つけてお前らより生きたるわぁ!」
「おっさんそのちょーしっ!」
「この部屋はとりあえず調べれたわ、次の部屋に行きましょう」
「は…はい…」
「了解です!」
スーツの女は扉を開けた。
「さっきの部屋は結構オシャレで洋風だったけど、ここはなんか和風ね」
「でも最初の部屋の全部コンクリートよりは全然落ち着きますね!」
「あの…また時計が…ありますね…」
「え、本当だ、他の部屋にもあるのかしら」
「しかもこの時計がある場所って、さっきの部屋の時計と位置が真隣です!」
「本当だわ、これも何か関係が…?」
「あの…時計見てください…」
「だから、時計は見たわよ」
「違います…時間です…」
「えっと?え、もう四十分なの?」
「あと二十分で誰かが、死ぬ」
「なんか怖い…です…」
「まだルールらしきものは分からずね」
「じゃあまた次の部屋行きましょう!」
「それもそうね」
「あ、スーツの女」
「あ、汚い男」
二人は同時に声を発した。
「なあおい、今汚いって言わなかったかぁ?」
「言ってないです、ところでそこには何の部屋と書かれてた?」
「えとねーっ、第二の部屋だよーん」
「そう、私たちが今来た部屋は第三の部屋、そして最初に入った部屋は第四の部屋だったわ」
「そうか、情報ありがとな、スーツの人」
「スーツで統一されてるのね、まあいいわ、少し私もこの部屋を調べさせてもらうわ」
「じゃあ俺たちは第三の部屋に行こうかねぇ」
「あら、入れ替わりね」
「じゃあなぁ!スーツのおばはん…」
「ん?今なんて?」
「なんでもねえよっ、スーツのお姉さん」
「お姉さんって…気持ち悪っ」
「第一の部屋はコンクリート、第二の部屋はソファとか色々家具が揃っていてリビングのような部屋、第三の部屋は和風、第四の部屋は洋風って感じね」
「あと十分…です…」
「そういえば、時計の位置は全部同じ隅にあるわね、第一の部屋もそうなのかしら」
「私見てきます!」
「頼むわ、ありがとう」
「今…ルールらしきもの…ありました?」
「特にって感じかしら、まあ思い当たるのがあっても言わないけれど」
「え…どうして…」
「だって私たち敵よ?一千万円よ?」
「そう…だった…」
「あの!第一の部屋も時計は同じ隅でした!」
「分かったわ、ありがとう」
「へへへー」
カチューシャの女はさっきと同じように照れた。
「なあ時計見てみろよおっさん」
「お?時計?うお、あと五分で八時じゃねえか」
「やばーっ!はやーっ!」
「なあ、お前さん全然緊張感ねぇけど、怖くないのかぁ?」
「俺っすかー?全然っすねー、なんか楽しくて~、ワクワクぅ~っ的な!」
「すげぇな、なあ、ピアスの小僧、お前さんは歳いくつだ」
「俺は二十四だ」
「若いなぁ、ていうかこんなハイテンションなやつより歳下かぁ、お前さんもちっとは落ち着けよぉ?」
「元気なのは良いことっすから~っ!」
「おい、待て、あと一分だ」
「やばいぞ、落ち着けぇ、お前らぁ」
「おっさんが落ち着いて~っ!」
「どうしよう…私…怖い…」
「私は怖くない、別に、怖くないから、本当に」
「私もちょっとしか怖くないです!」
カチッ
クルッポー、クルッポー。
…
「あれーっ?全然何にも起きな…」
「えっ、おい、ニット帽の小僧!、大丈夫かぁ!」
タンクトップの男が気づいた時にはニット帽の男は胸元から血を流して倒れていた。
鳩時計を見ると鳩の口から煙が出ていた。
「早くルールを探さないと…早く…早く…」
「おい、焦るなよ、ピアスの小僧ぉ、次はまた一時間後だぁ、まだ時間はあるぞ」
「俺はそんなに焦っちゃいない、でもおっさん、お前泣いてるぞ」
「へ?」
タンクトップの男は自分でも涙が出ていることに気づいていなかった。
それほどに動揺していたのだ。
「あれ?時間になったのに何も無いわ、なんなら鳩時計も鳴らない」
「きゃあ!あっちから銃声が!」
「まさか…あっちで…」
「ていうことは、ちょっとあっちを見てみましょう、みんな着いてきなさい」
「は、はい!」
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