だから俺は二刀流をやめた

今日から俺が勇者

大事なものを守るために必要だったのは

上級冒険者パーティーがコッカス村に出現した赤竜を討伐したというので、ここ、辺境都市エンテロで宴が開かれることとなった。


俺は新米冒険者であり、つい先日武器を揃えたばかりで懐が心許無かったので喜んで参加させてもらうことにした。


─────酒場“フェカーリス”


今回の宴は件の上級冒険者パーティーが企画したもので、参加者の飲食代は今回の報奨金から出してくれるそうだ。


そのため俺と同じような金欠の新米冒険者は漏れなく全員参加していた。


彼らは皆、討伐戦に参加した先輩冒険者の偉業を聞きながらムシャムシャと飯を食っている。


なるほど、こうして飯にありつくのが良いのか。


自分の功績を自慢げに語る先輩冒険者に当たったら飯を食う暇もなく相槌を打つハメになるだろうことは眼前の一向に飯を食えていない新米が証拠なので、物静かそうな先輩を探す。


すると隅の席で一人舐めるように酒を飲んでいるオジサンを見つけた。


飯もテーブルの上に置かれているにも関わらず、酒にしか手をつけていない。



この人にしよう、一目で決まった。


他の先輩に見つからないようにコソコソと隅の席に近寄る。


「こんばんは。俺、ザックって言います。先輩のお話を聞かせていただけませんか?」


一瞬こちらに視線を寄越したものの、直ぐに顔を背けられた。


その後、断られて尚場から動かない俺に面倒臭そうな顔をするも、背負っている双剣を見ると顔つきが変わった。


忌々しそうな顔つきに。


そして何かを悔いるかのような顔つきに。


俺は顎で示された対面の席に座る。


そしてオジサンが食器をこちらに押し出してきたので、これらを食っても良いという合図と判断した。


生憎と育ちは良くないのでカチャカチャと音を立てながら料理を食べていると、ジッとその様子を観察していたオジサンが口を開いた。


「……オメェ、武器は双剣かァ?」


「……(ゴクン)。ええ、その通りです。」


「……そうかァ。」


グラスに入っている酒を覗き込み、しばらく動きを止めた後、再びオジサンは喋り始めた。


「……オレァよォ、ホントはこんなモンに出る気なんざァ、サラサラなかったんだがよォ。」


ふんふんと相槌を打ちながら続きを促す。


「……そんでもよォ、こんな俺でもよォ、後輩の役に立てりゃあイイかもなってェ、そう思ってたんだァ。」


「……(ゴクゴク)。なるほど。」


「……だがよゥ、そんでも誰もオレに話なんざァ聞きに来ねえからよォ、結局やる気が無くなっちまったァ。……そんでこのグラスの酒ェ飲んだら帰ろうと思ってたんだがよォ、テメェが来やがったァ。」


その後も飯を食いながらオジサンの話を聞き進めた。


「……結局オレが言いてェことなんざァ大して重要じゃァねえよォ。オメェには二刀流は向いてねェぜ。」


「……それは一体どういうことでしょうか?」


「……フンッ、テメェはもう分かってんじゃァねえのかァ?オメェには守りテェと思う奴がァ、ちと多すぎるんじゃァねぇかっつうこったよォ。」


「オメェが切った張ったやってる間に守り通せる敵なんざァ、所詮目の前の敵だけだァ。しかも雑魚限定だァ。」


「……もし敵が大群で攻めてくりャあ、それとも今回のドラゴンみてェなバケモンが現れたら、ひとたまりもねェだろォなァ。」


俺の弱さを指摘しながら、今の武器じゃダメだというオジサン。


「オメェが守りてェ奴はオメェ自身で死ぬ気で守り抜けよ。」


結論として俺にシールダーを推してきた。


今までの話を聞いて心変わりした俺は、背負った二刀流を売り払い、ラウンドシールドを買って冒険に出かけることにした。


「……まいどアリィ」




───────────


一文で纏めると、

『中級冒険者っぽい防具売りのオジサンが新米冒険者を口車に乗せた話』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だから俺は二刀流をやめた 今日から俺が勇者 @YuusyaOre

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ