二刀流の魔法使いクロム

オレンジ

第1話

 ある田舎の村に、杖を二本持つ魔法使いがいた。

 名前は、クロム。27歳の男性だ。

 クロムは、日々生活する中で、一本の杖しかほとんど使わなかった。

 その杖は人や動物の怪我を癒やす力を持っていた。クロムはその杖を癒しの杖と呼んだ。

 クロムはその杖を用い、医師や獣医として活躍していた。


 ある日のことだった。

 朝、目が覚めてみると部屋の様子がなんとなくいつもと違う気がした。しかしクロムは気のせいだろうと思って朝の支度をした。そして机の引き出しを開け、いつもの通り癒やしの杖を取り出そうとしたときだった。

 もう一本の杖が、ない。

 引き出しの中にいつも入れている、もう一本の杖が、ないのだ。おそらく、夜中に家に入り込んだ者に盗まれたのだ。

 大変なことになった。

 クロムは、そう思った。

 今すぐに、杖を探し出さなければならない。

 クロムは盗まれ杖を探すため、友人のエスの力を借りることにした。

 エスの杖は、もの探しに向いていた。一方、クロムの癒しの杖はもの探しには向いていなかったのだ。

 エスは魔法を使って目的の杖のおおよその位置を割り出した。

「東の方角、ここからまだそう遠くないメラの村に杖はある」

エスはそう言った。

「ありがとう、エス。私は杖を探しにしばらく留守にする。村のことは、しばらく頼むよ」

とクロムが言うと、

「待て、お前一人で行くのか」

とエス。

「ああ」

とクロム。

「一緒に行くよ」

「駄目だ。村に誰か魔法使いがいなきゃ困るだろう。お前は残れ、エス」

 エスはしばらく黙って悩んだあと、

「じゃあ、こいつを持っていけ」

と言って、ある小包をクロムに手渡した。

「なんだコレ」

「そのうち役に立つ。それより、先を急げ」

「そうだな」

 クロムは、エスに別れを告げ、村を後にしたのだった。

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