第20話

お隣の家に、収穫した梅をお裾わけすることになった。

その家は老夫婦が住んでいて、俺が回覧板を持って行くと、いつもお菓子や果物をくれるいい人たちだ。

呼び鈴を押すと、見たことのない少年が出てきた。

「おまえ、誰?」

歳は同じくらいだろうか。

小柄で茶髪にピアスだ。どう贔屓目に見ても、普通の高校生には見えない。

「…隣の楠木です」

「あら、潤一くん、いらっしゃい」

奥からおばあちゃんが出てきた。梅を差し出すと、あらあらと言って、ちょっと待っててねとまた奥へ行ってしまった。

ヤンキーと取り残されてもどうしていいか分からない。おまけに彼はじろじろと俺を見てるし。

「おまえ、楠木くんの弟?」

楠木くん? 3人とも『楠木くん』なんだけど。

「えーと、まあ、そんな感じ」

自分でも曖昧な返事だな、と思ったけど案の定向こうも奇妙な顔をしている。

「なんだ、それ…」

「潤一くん、おまたせ。これお返しね。ちょっと重いけど男の子だから大丈夫よね?」

うわ、スイカ丸ごと。結構大きい。

袋に入ったスイカを受け取ると、ヤンキーが反対側を持った。

「家まで手伝ってやるよ」

そう言って、玄関を出て行くのにつられて、慌ててお礼を言って歩き出した。

「えーと…ありがとう」

見た目と違って優しいのかな? 今まであまり身近にいなかったタイプなのでどう接していいのか分からない。

「おまえ、いつからここに住んでんの?」

「3月から」

「ふうん」

隣なので、5分もたたずに門前に着いた。

「ん? 表札増えてるじゃん。杉田?」

「俺、杉田潤一」

何言ってんだって顔を向けられても困る。

「弟じゃねぇのかよ」

「楠木家に育ててもらったけど、血のつながりはない」

驚いた顔が、ずいっと近づいた。黒眼が大きいな。

「へぇ…おまえんとこも複雑なんだな」

も?

「それよりさ、おまえ、この家に住んでて何か感じないか?」

「え、何かって何?」

「霊感とかないのかってこと」

ぎょっ、として彼を凝視した。何か知ってんのか。

「あれ、ゆうくん?」

博人くんが玄関に出てきた途端、彼の表情が崩れた。笑うと八重歯が目立つ。

「こんちわ」

「久しぶりだね。上がってく?」

「いや、スイカ皆で食べてって、ばあちゃんが。梅、ありがとう」

「いつもありがとね」

「じゃあな、潤一」

「う……おお」

裕くんと呼ばれた彼は、何事もなかったかのようにあっさりと帰っていった。

何だよ。

「大きいスイカだね。…潤一?どうした?」

「…ううん。なんでもない」

彼は何か気付いているのかな。『瞳子』さんのこと。

「裕くんはね、森村さんとこのお孫さんで、夏休みだけ遊びに来るんだよ。そういえば潤一は会ったことなかったね」

「うん。『楠木くんの弟か』って聞かれたけど、博人くんのこと?」

「ああ、それは真幸のことだね。時々、真幸がお菓子作りを教えたりしてるから」

「え、そうなん?」

以前に手作りの焼き菓子をお裾分けしたら、裕くんがいたく感動して作り方を教えてほしいと言ってきて以来、よく家に来るのだという。

「見た目はあんな感じだけど、素直なイイ子だよ」

博人くんがそういうなら、そうなのかな。

「でも、夏休みにはまだ早いけど、どうしたのかな? たまたま訪ねてきてたのかなぁ」

これが、裕くんとの最初の出会いだった。


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