第26話 別れ26p

「おい、季夜、待て!」

 そう叫ぶと、季夜は俺の方を振り向いて立ち止まった。

 俺は季夜の方へ駆け寄る。

 季夜との距離は大分開いていて、ようやく季夜の側に着いた時には俺は、ぜいぜい言いながら肩で息をしていた。

「遅いよ、住原」

 季夜が言う。

「お前の方こそ、歩くの早いんだよ!」

 俺が言ってやると、季夜が笑った。

「なぁ、住原」

「何だよ」

「約束、守れよ」

「約束?」

「約束、しただろ」

 約束。

 約束って何だ?

 俺は考える。

 しかし、どんな約束だったのか思い出せない。

「約束ってどんな約束だっけ?」

 しょうもなく訊く俺に、季夜は笑顔のままで「約束破ったら針千本だぞ」と言って、また歩き出す。

 俺は季夜の後を追う。

 季夜との距離がどんどん遠くなる。

 季夜はただ歩いているだけなのに、どんどん距離が開いてゆく。

 俺は走り出した。

 しかし、季夜は遠ざかって行く。

「季夜!」

 名前を呼ぶが、もう季夜は振り返ってはくれなかった。





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