二刀流で損する事はない

江戸川台ルーペ

二刀流

 何事に関しても、「二刀流で損する事はない」というのが僕の持論である。右利きよりも両利きの方が何かと便利であろうし、英語とフランス語が両方喋れたらカッコイイ。サッカーも野球も、両方得意であれば二倍モテるかもしれない。日本酒とワイン、両方とも愛する事ができれば人生もさぞ楽しかろう。歌って踊れればアイドルにもなれる。


 以前、男が好きなものとして、何かを一つ徹底的に追求する職人を挙げた事がある。今日日、男が、女が、という話題を出すのも恐る恐るという感じで大変恐縮なのだが、人類が好きなものとして、という風に主語を大きくすると色々とややこしくなってしまうので、今回は男が憧れるものとして【職人】がある、という風に言い切ってしまう。以前、パン職人とか、ビール職人だとか、何につけても「職人」がついていた時期があった。そうした宣伝を見ることで感じられたのは、職人という専門的に何かを追求し、突き詰めていく姿勢、生き様というのは、とても信頼に値するものとして多くの人に受け取られているのだなぁという事だった。確かに、職人が醸造したワインと、四十代販売員が片手間に醸造したワイン、どっちが美味いか想像するまでもない。興味は断然後者ですけど。ですよな?


 社会的にも ──というと新聞を開いたようなおっさん臭さが立ち昇ってしまって申し訳ないのだけど、今は副業も許される時代である。時代である、と書くと大変気持ちがいいゾ。今や、何かを突き詰めてプロフェッショナルになるより、広く浅く齧り回って、いい感じにちょこちょこと楽しんだり、小銭を稼ぐ方が正義であるようなのだ。きっとインターネットが様々な敷居を低くしたのだろう。僕はそれを自宅でたこ焼きを焼いた時に肌で感じた。たこ焼きを焼いた時に、という日本語は合っているか? プロの技を動画で、無料で何度も見る事ができる時代にあっては、物事のちょっとしたコツを短時間で自分のものにしてしまう人が多いのだろう。「これはちょっと無理だ」というのももちろんあるけれど(バク転とか、鉄棒大回転とか、壁を三角飛びで登っていくやつとか)、それは僕にとって無理なだけで、「どうしてもバク転してえぜ!」とか、「ウルトラ鉄棒大回転してえぜ!」と思って、結構良いところまでイケてる人にとっては有意義であるに違いない。たこ焼きも上手に焼けた。


 一方で、どうしても不可能な二刀流はというと、恐らくこれは方言だ。特に大阪弁と東京弁の二刀流は、大勢の人達が挑戦し、その後青春という真っ白なキャンパスに落とした墨のように黒々とした黒歴史を刻んで行った。他ならぬ僕だってそうだ。わいかてそうや。


 あのダウンタウンブームを青春真っ只中に喰らった者として、関西弁を少しでも喋らなかったヒューマン・ビーインはあまり居なかったのではなかろうか? 何しろダウンタウンは滅茶苦茶面白かったし、クラスの大勢がダウンタウンみたいな口調で面白くもない話を面白そうに話そうとして事故って死んだ。いや、死にはせんけど、後遺症が残ってるくらいはあるんじゃないかなと思う。電車で横入りしてくるおばさんや、僕の前を歩いていて突然屁をこくおじさんや、電車でスマホを眺めながら貧乏揺すりが止まらない人達は大体そうです。ダウンタウンの関西弁のせいでああなった。


 関東の人達がしゃべる関西弁の聞き心地の悪さは何にも代え難いものがある。「俺は完璧に関西弁をマスターしたぜ!」と思っている関東生まれ・関東在住の人がもしいるとしたら、それは不可能である事を知っていてほしいと思う。関西弁教室(というのがあるらしい。テレビでやってた)首席卒業者でも、完璧な関西弁、いわゆる「臭みのない方言」は難しいのではないか。


 最近はインターネットの掲示板では関西弁が盛んに使われているし、僕も親しい友人とメッセージを交換する時は自然と関西弁を使ってしまう。友人も字では関西弁を使ってくるのだが、これは全然不自然さを感じない。会って喋る時は関西弁なんか全然使わないのに、文字でやり取りする時に限っては関西弁を許せるのは不思議だ。



 オチはないやで〜















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二刀流で損する事はない 江戸川台ルーペ @cosmo0912

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