恋人理論

OFF=SET

第1話

 魅力的でなくても良い――――


 容姿が優れていなくても良い――――


 周りが付き合ってさえいれば、ただ、なんとなくの流れで、付き合うことができる――――



 これが、俺の恋人理論だ。

 この理論は、他言無用、門外不出と決めている。


 とはいえ、この理論を知っている者はまだ俺しかいないのだが、果たしてこの恋人理論が正しいものかを実験しなくてはならない。




「おい、将斗まさと


「ん?」



 放課後の教室、参考書を読むふりをしていた俺に、間泰生はざまたいせい永山優美ながやまゆうみが手を繋いで声をかけてきた。


 泰生とはこの高校に入ってからの友達だ、まだ数ヶ月しか経ってはいないが、中学からの友達だったような親しみやすさがあった。



安田やすだ君、勉強?」



 泰生の隣にいるのは永山さんだ、彼女は仲良し女子三人のグループの中の一人で、俺と泰生、それともう一人の友人、安堂健太あんどうけんたの三人とは、グループ同士で少し話す程度の仲だったのたが……



「わりぃ、一足先に、彼女、出来ちゃいましたー」


「もう、何? 競争でもしてたの?」


「いやいや、そんなんじゃないよ」


「本当に?」


「本当にだよ、帰りにパフェ奢ってあげるから許して」



 見ていてこちらが恥ずかしくなるような会話と笑い声を、俺は表情ひとつ変えることなく眺めていた。

 「じゃあな」と、教室を出る泰生と永山さん、俺は参考書を閉じると、鞄の中に突っ込んだ。



「第一布石、完了……と」



 我が恋人理論は布石に始まる、布石を投じることにより、より我が恋人があちらから近づいて来るというわけだ。



「さて、と、次なる計画を実行に移すとするか……」



 俺は立ち上がり、夕焼けに染まる教室を後にした――――

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