5杯目~宿屋ボンボヤージュ~

~前杯までのあらすじ~

丸腰の状態から遂に武器と防具を手に入れたハング・オーバーマン。そんな彼の元にに、道具屋兼情報屋の看板娘タクア・ノミスが現れる。

パワー溢れる彼女の言動に翻弄されながらも、便利なアイテムと宿屋の情報を得たハングは宿屋へと向かうのであった。



もらった情報を頼りにハングは宿屋へ訪れる。


「うわ~、立派な宿屋だな~。高そうだけど大丈夫かな?…考えていても仕方ないか。よし、いくぞ!」


ハングが店内に入ると、壁に飾られている大きな斧とハンマーに目がいった。


(立派な斧とハンマーだな、しかも物凄く大きい!僕じゃとても扱えそうにないな…。

店の入口になんでこんな物が飾ってあるんだろう?)


「おっ!いらっしゃい旅の方!ようこそ宿屋ボンボヤージュへ!!」 


豪快な声と共に、店の奥から店主の男が顔を出した。


「あっ、すみません。しばらくこの宿でお世話になりたいのですが、一泊いくらでしょうか?」


「んっ?…お客さんもしかして『噂の勇者ハング・オーバーマン』かい?」


店主はハングの顔を真剣な眼差しで見つめてくる。


(これは話が早いかもしれないな。もしかしたら力になってもらえるかも)


「はい!僕がその噂の勇者、ハング・オーバーマンです!魔王ワルヨイ・カラムを倒し、この世に平和をもたらすため、仲間たちと共に旅をして参りました!」


「……その仲間たちの姿は見えないようだが、それに勇者を名乗る偽者は最近多いからな…。俺は村の連中と違ってそう易々とは信じないぜ・・・。そもそもなんだその装備は?そんな装備でアイツを倒せると本気で思ってるのか?」


(うっ!痛いところを突かれてしまったな…なんとかして信じてもらわないと!)


ハングは今まであったことのすべてを説明した。仲間たちとの厳しい旅のこと、

魔王との決戦前夜の宴のこと、そしてその翌朝、すべての伝説装備と仲間たちの姿が消えてしまったことを。


「…なるほどな、嘘を言ってるようには見えねーし、まぁ……信じてやるかっ!

疑って悪かった!俺はバートン・ボンボヤージュ!ここの宿屋を営んでいる者だ!

よろしくな勇者さんよ!!」


バートンは豪快に自己紹介した。


(よかった、思いの外あっさりと信じてもらえたようだ・・・)


「実は俺も昔は冒険者だったんだぜ!これも何かの縁だ、勇者さんの魔王退治に協力させてもらうぜ!そうだな、ウチで一番い高い部屋を安く貸してやるよ!!

一泊1000ゴールドのところ、100ゴールドでどうだい?」


「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」


「よし、そうと決まれば話は早い!俺に着いてきな!!」


ハングの案内された部屋は、高そうな絵や壺などが飾ってある、とてもキレイで豪華な部屋だった。


「う、うわ~、スゴくキレイで立派なお部屋ですね!ベッドもすごくふかふかだあ〜♪本当にこの部屋を一泊100ゴールドでいいんですか?」


「おう!男に二言はねぇよっ!ところでよ、今日は大変なことがありすぎて疲れてないか?顔色があまりよくねーぞ。とりあえずゆっくり休みなっ!また飯の時間になったら呼びにくるからよ…」


そう言ってバートンは部屋を出ていく。


「ふぅ~、確かに疲れがヒドイな。頭もまだ少しガンガンするし。…皆は、そして僕の装備はどこに消えてしまったんだろう…」


考え事していると疲れからだろう、猛烈な睡魔に襲われるハング。


「あっ、これはヤバいな…。ちょっと一眠りするとしようか………」


ハングは深い眠りについた。




「……もーし、もしもーし!ボウヤ、夕御飯が出来たわよ~。起きて!ほら起てっ!!」


ハングは女性の声で目を覚ました。


「う…ん?…あれっ!?僕どれくらい寝てたんだろう!うわっ!外がもう真っ暗だ!

えっと…ところで、アナタは?」


「ウフフ、ボクはバートンの奥さんのシェリーだよ!それにしてもカワユイ寝顔だったねぇ~ボウヤ!もうおばさんキュンキュンしちゃったわあん♪」


(バートンさんの奥さん!?えっ…か、かわいい!娘さんじゃなくて、奥さんだなんて…とても信じられないよ……)


「ほらほら♪せっかくのご飯が冷めちゃうぞお〜!早くいこっ!」


そう言ってシェリーは、ハングの逞しい腕に抱きつきながら、半ば強引に彼を引っ張る。


(む、胸の感触が…。ス、スゴく柔らかい、そして……大きいっ!!!)


「あれあれ~?ボウヤどしたの~?もしかしてテレてるのかな?かな〜?」


「なっ、なっ…か、からかわないでくださいよっ!!!」


「 本当に素直でカワユイ反応をするねキミは~♪…さっ!バートンが待ってるからいくわよ!!あっ、そうそう聞いて!バートンったらね、超張り切ってご飯作ってたの!あんなに嬉しそうにしてる彼を見るのは、超久々かな!…ありがとねボウヤ」


食堂に着くとバートンがニコニコしながら待っていた。そしてテーブルの上には大量のご馳走と酒が用意されている。


「おっ!来たか勇者さん!今日は久々に超本気で料理を作っちまったぜ!ガンガン食ってくれよな!」


「うわ~♪スゴいご馳走ですね!」


目の前のご馳走に目を輝やかしていると、ハングのお腹の虫が「グーッ!」と鳴ってしまう。朝から何も食べていなかったので当然といえば当然だろう。


「ウフフ、お腹の虫さんはもうガマン出来そうにないみたいだね♪じゃあ食べよっか!!」


「いただきまーす!!!」


ハングは夢中で料理を食べ始める。


「このオムレツ美味しいです!チーズが中に入っていて、ふわふわのタマゴとよく

からみあってサイコーですっ!!僕こんなおいしいオムレツ食べるの生まれてはじめてですよ!!!」


「おっ!わかるか勇者さん!それはウチの人気メニューの『とろける愛のチーズオムレツ』だ。わざわざこれだけを食いに、遠くからやって来るお客もいるくらいなんだぜ!どうだスゲ〜だろっ!!」


「ウフフ、喜んでもらえて嬉しいな♪この料理はね、ボクたち夫婦の『愛の結晶』なのさっ!」


「おいおい!愛の結晶なんて大袈裟な言い方はよせよ!まぁ…つまりアレだな。『愛の合作』ってヤツだよ!」


「はあ、懐かしいな~。『みんな』もボクたち2人の料理を、ホントによろこんで

食べてくれてたよね♪」


「…そーだな、よろこんでくれていたな……」


(『みんな』も?そういえばバートンさん、昔は冒険者だったみたいだし、その時いっしょに冒険していた仲間たちのことかな?)


「ねーねー、ボウヤの旅のお話も聞かせてよ~♪実はねボク、こう見えて昔はね、

けっこう名の知れた魔法使いだったんだよ!(ドヤッ)でねでね、バートンとはその時いっしょのパーティで旅をしていたのさ!!いや~色々あったな~。ボクさ、超超モテモテだったんだよっ!きゃあ♪ねっ!ねっ!一緒に冒険してる仲間の中にさ、好きな子とかいないの~?」


「いや、僕にそんな浮いた話はありませんよ…。一応2人の女性と旅をしてますがね、あはは」


「えっ!ええっ!?ちょっと詳しく聞かせなさいよっ!!男女が一緒に冒険をしてればさ~、そりゃ『間違い』の一つや二つや三つや四つや五つや六つや七つや八つや九つや十ぐらいあるでしょ~♪」


(いやいや、間違いがありすぎですよ…)


「まぁアレだな!夜はまだまだなげーんだしよ〜、今日は付き合ってくれるよな?なっ!勇者さんよ〜!!」


そう言って酒をすすめてくるバートン。


「あーっ!バートン!ボクにもちょうだいよ~♪ボウヤもガンガン飲みましょ!ほらほら~飲んで!飲んでっ!!ボウヤのいいとこ見てみたい!あっそれ!イッキ!

イッキ!!イッキ!!!」


「あっ、ちょっと!そんなにたくさん。僕にも僕の飲むペースというモノがですね……」


「それでは!勇者ハング・オーバーマンの新たな冒険の旅のはじまりを祝して、

カンパーイ!!!」


3人はカンパイすると、勢いよく酒を飲みほした。


そして数時間後・・・。


「うぇっへっへっへ~、それれね~!バートンったられ~、ホント~にブキヨウなヤツれさ~。いきなりボクに壁ドンして、『惚れるんなら俺に惚れろ!似合いだぜ、俺たちなら』とか言っちゃてね~。でさでさ~そのトキれ~、緊張してチカラが入り過ぎちゃって、うしろの壁をズドーン!なんと粉々にふっとばしてしまったのさ~。でね、バッドなことにその時ボク、おしっこをガマンしてれさ~、超ビックリしてお漏らししちゃったの~♪イヤあーん♪もう、ハズカシイよぉ~~~~~っ!これが壁ドンならぬ『壁☆ズドーン』だね~!あははははははは、超ウケる~~~~~!!」


「おい、それはもう昔の話だろっ!カンベンしてくれ!そもそもアレは、『壁ドンして甘い言葉を言えば、どんな女の子もメロメロでエロエロのしゅきしゅきだいしゅきーモードになりますわ☆』ってアクアのヤツが言ったんだよっ!だから俺は悪くない…ってもうこんな時間か、勇者さんよだいぶ付き合わせちまったな!そろそろお開きにするかい?」


「そうですね。シェリーさんもだいぶ出来上がっちゃってますし、そろそろお開きにしますか!」


「な~によ~~~、まだボウヤのエッチなことを聞いてないわよ~。まらまらお話いっぱいするなのら~~~。ヤダヤダ~、オネガーイ!バートン!!ボウヤーーーんっ!!!」


子供のように駄々をこねるシェリーを、バートンはお姫様抱っこし、優しくなだめる。


「おいおい、勇者さんが困ってるだろ!それにそんなに『エッチなこと』がご希望なら、今からその…なっ!朝までオトナの大冒険しようぜ!!いざっ、まぼろしの秘境の奥深くに眠る、いにしえの大秘宝を求めてぇぇぇっ!!!」


「…もう、バートンのエッチ、スケッチ、ワンタッチ~♪」


(エッチ、スケッチ、ワンタッチ…何を言ってるんだこの人?)


「じゃあな勇者さん、遅くまで本当にありがとよ!グッドナイト!!

俺は今から一狩り…じゃなくて、一冒険してくるぜっ!!!」


そう言ってバートンは、シェリーを抱えて寝室へと向かう。


「あっ、お二人の寝室は僕の部屋の隣なんだな……」


ハングも部屋へと向かう。ベッドで横になるとハングは、今日の出来事について色々と思い返していた。


(ホロヨイ村の人たちは少し変わってるけど、みんな優しい人そうだし、本当によかったよ。特に看板娘の三人は、キャラこそスゴく強烈だったけど、本当に可愛いかったな~。バートンさんとシェリーさんもとても親切だし、本当に僕はラッキーボーイなのかも知れないね)


「さて、あしたの朝から本格的に活動を開始しないと。みんな、そして伝説装備、

待っていてね!絶対に見つけだすから!そして必ず魔王を倒し、この世界に平和を

取り戻すんだっ!!僕の消えた装備と仲間たちを探す冒険の旅が…今、はじまるんだあッ!!!」


ハングはみなぎるアツい闘志を燃やしながら、そう力強く誓うのであった…。


「よし!そうと決まれば、明日に備えてしっかり寝るぞっ!!」


その直後である。隣の部屋から激しい音と男女の苦しそうな声が聞こえてくる。


「いや、あの、ちょっと、えええっ………(困惑)か、壁、…薄すぎですよぉおおっ!!!」


ハングの消えた装備と仲間たちを探す冒険の旅がはじまる前に「朝まで決して終わらないであろうアツく激しい眠れぬ夜」が、はじまってしまったようだ…。


「ああああああああ~もうっ!激し過ぎだって…!ね、眠れないよぉ!!くそう!朝になったら…クレームを言ってやる〜〜〜っ!!!」(つづく)












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