ハングオーバークエスト!~消えた装備と仲間たち~
トガクシ シノブ
1杯目~決戦前夜の宴~
「勇者ハング・オーバーマンよ!よくぞ王家の最後の試練を突破し、その証である英雄の紋章を持って参られた!約束どおり王家に伝わる聖剣を授けよう!!」
魔王城の近郊にあり、常に魔王の脅威にさらされ続けているサケカース王国の王サケカース13世は、勇者に聖剣とこの国の未来を託した。
勇者ハングとその仲間たちは王家の数々の厳しい試練をクリアし「王家の聖剣」またの名を「英雄の剣」を手に入れた。
そしてこの瞬間、勇者ハングは伝説の装備である「英雄の剣」、「覇者の腕輪」、「妖精王の盾」、「戦鬼の兜」、「軍神の鎧」のすべて手に入れたのである。
遂に魔王城での魔王との決戦の時がきた。
その決戦前日の朝、魔王城の近くにある町「ノンダ・クレ」を訪れたハングたちは、町の住民たちから手厚く歓迎された。そして魔王との決戦での士気を高めるため大宴会を開くことにする。
その日の夜、盛大な宴が開かれた。
町はお祭り騒ぎでとてもにぎやかな様子である。
町の誰もが勇者一行の勝利を信じて、皆アツいエールを彼らにおくった。
「さぁ明日は魔王との決戦だ!盛大に今日は飲もう!」
勇者ハング・オーバーマンは剣ではなく大ジョッキを片手に高らかに掲げ叫んだ。
「よっしゃ!今日は食べて飲むぜぇぇぇぇぇっ!!」
武道家ヨーイツ・ブレンは目の前の豪華なご馳走や酒に目を輝かせながらウキウキ
した様子である。
「もう、ハングもヨーイツもテンション高すぎですわよ~。くれぐれもお酒で失敗しないようにホドホドにしてくださいね」
聖女ノンノ・ベエーカーはあきれた様子で二人を見つめる。
「まぁいいじゃないかノンノ。明日は魔王との決戦だ。今日ぐらい少し羽目をはずしても構わないだろ。なーに、心配することはないさ。何かあったら私がすべて責任を持とう。だから君も安心して飲むといいぞ!」
聖騎士マーダ・ノメールは笑顔でそう言った。
「それではカンパーーーイ!!!」
盛大な宴がはじまった。
「ねぇ勇者様!今までの冒険のお話を聞かせてよ~!」
酒を飲んで上機嫌なハングのもとに町のやんちゃな子供たちが集まる。
「そうだな~♪じゃあせっかくだし話してあげよう!…あれは伝説装備の妖精王の盾を手にいれるため、妖精族の隠れ里を訪れた時のことだったな~。快く盾を譲ってくれた妖精王様に、妖精族に伝わる秘薬『妖精の涙』の成分について興味本意でしつこく聞きまくった結果、温和で優しく絶対に怒らないと評判の妖精王様がなぜかブチギレちゃったんだ〜。そしてそのまま唐突にバトルに突入してしまったんだよ!いやー中々に手強かったな~。そのあと一応和解は出来たんだけど、出禁になっちゃったんだ~里にねっ☆あはは♪」
「なんか思ってたのと違う…」
子供たちはひきつった顔で口々にそう言った。
「きゃあああ!ヨーイツさま~っ!」
街の若い娘たちがヨーイツの元に一斉に集まる。
「ヨーイツさま~今宵はお暇ですか~?もしよろしければ、私との『オ・ト・ナのアツい稽古』で、朝までステキな汗を流しませんか~!」
一人の若い娘が豊満な胸を押しつけ誘惑しながらそう言った。
「ちょっと!アンタ何ひとりで抜け駆けしようとしてんのよ!!ヨーイツさまは今夜私とステキな汗を流すのよ!!!」
他の若い娘たちも口々にそう言うと、ヨーイツの逞しい体にしがみつきはじめた。
「おいっ!俺はいま肉と酒をおいしくいただいてる最中なんだよ!もうちっと静かにしてくんないか?これじゃ食べるのに全集中できないぜ~。…まぁあとで皆仲良く
おいしくいただいてやるから待ってな!!」
「きゃあああああ~♪ヨーイツさまステキーーー!しびれちゃうわーーーーーっ!!」
娘たちは目をハートにして悲鳴をあげた。
そんな調子のヨーイツを見て、不満そうにしているのがノンノであった。
「ヨーイツって相変わらず女ったらしで本当に不潔ですわ!男の人っていつもそうですよね!…ったくワタクシのことなんて子供扱いして全然かまってくれないのに…。ワタクシだってもう立派なレディーなのにぃ!ううう、ヒドイ!もうサイテーですわ!信じられない!!もうそういう女心がまったく分かってないところも、本当にだぁいだぁいだぁい……………すきーーーっですわぁぁぁッ!!!」
そう言って大ジョッキのお酒を勢いよく飲み干した。
「まぁまぁ、落ち着け。あんなことは言っているがヨーイツのことだ、どうせ約束をすっぽかすだろう!前にも言ったと思うが、私が見た限りではカレに女遊びの趣味は無いと思うぞ……なぁノンノ、ヨーイツのことがそんなに好きだったら、魔王を無事倒し平和な世界を取り戻してからでも決して遅くはないぞ!平和になった世界で二人で幸せに暮らせばいい。今は魔王の討伐が最優先だろ?なっ!聖女様…」
「それじゃあ遅すぎるんデスヨ~!い・き・お・く・れのおばさんには分からないかもですが、これは『清らかで美しいうら若き恋する乙女のワタクシ』にとって、とても、とーーーっても切実な問題なんですぅぅぅっ!聖女プンプンですわ!!」
「なっ!?『いきおくれのおばさん』……だと?」
その言葉でマーダは凍りついた。酒が入っていたから出てしまった心ない一言なのだろう。しかしその言葉は彼女をとても傷つけた。なぜならそのことをずっと気にしていたからである。
「う・う・う・う・ぶ、無礼者~!ヒドイ!ヒドイヒドイヒドイヒ~ド~イ~!!ずっと気にしていることなのにぃっ!ああそうさ!どうせ私はガサツで不器用な脳筋女騎士だ!縁談の話があってもどうせまた破談だ!そうとも!いまだに男性とキスどころか手すらマトモに握ったことがないからな!当然『アッチの方の経験』なんて・・・あはは、あ・は・は・は・は・・・・酒だ!酒を持ってこーーーい!今夜は飲むぞおおおっ!ちくしょう~!うわーーーん!!兄上ぇーーーーーッ!!!」
どうやら悪いスイッチが入ってしまったようだ。
しばらくし隣の村からも、勇者一行の噂を聞きつけた多くの人たちが集まりはじめ、宴会はさらなる大盛り上がりをみせる。
しばらくすると話を聞き付けた隣村の村長が「とっておきの酒」を持ってハングの元にやってきた。
「勇者様方、今宵はお楽しみのようですね!そんな勇者様方に是非飲んで頂きたい素晴らしい酒を持って参りました」
そう言って村長は不思議な形の瓶に入った酒を取り出した。
「この酒は『魔王殺し』という名の超伝説級の魔酒でございます!この酒を飲み明日の魔王討伐で見事魔王をうち滅ぶしてくださいませ!!」
「超伝説級の酒で名前が魔王殺し!こりゃいいや!みんな集まって!隣村の村長
さんがスゴいお酒を持って来てくれたよ!」
ハングは仲間たちを自分の元に集めた。
「みんな、これは隣村の村長さんが特別に用意してくれたお酒だよ!名前はなんと魔王殺し!明日魔王との決戦を控えている僕たちにはうってつけの名前の酒じゃないか!」
「おおっ!じゃあ早速みんなで飲もうぜ!明日はこいつで必勝だなぁっ!」
「まぁ、変わった名前のお酒ですね♪ワタクシも是非いただきますわ!」
「う・う・う、私はもう結構だ。それは君たちで飲んでくれ。すまんが、ちょっと飲みすぎたようだ。私は先に宿で休ませてもらうとするよ・・・。」
マーダ以外のメンバーは魔王殺しをグラスに注ぎ一気に飲み干した。
「おおっ!こりゃうまい!肉と合うぜぇっ!」
「とってもおいしいですわ~♪この力強くも深みのある味わい、もうクセになりそうですわ!聖女ニッコリんですわ~♪」
「あはは、本当においしいな~。あっ!ヨーイツ、一人でそんなにズルいよ~。ノンノも飲みすぎだって!僕にも、もう少しちょうだ・・・・・あれ?何だか頭がボーッとしてき…………………………」
勇者ハングは意識を失った。そして後に世界を揺るがすことになる波乱に満ちた冒険が始まろうとしていた…。(つづく)
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