お題について構想を練る二人

m-kawa

二刀流のプロットを練ろう!

「さて、今年もこの時期がやってきましたねぇ」


「おい」


「おや、どうかしましたか? 拓海たくみさん」


「どうかしましたか、じゃねぇよ。なんなんだよ、こんなところに呼び出して……」


 不機嫌そうに呟く拓海を見やると肩をすくめる。

 ここは放課後の誰もいない教室だ。冬のこの季節では、赤く染まりだした夕日が窓から教室に入り込んでいる。


「ちょっと拓海にも一緒にネタ出ししてもらおうと思って」


「は? いや意味わかんねーし」


「まぁそう言わずに」


 宥めつつもコンビニ袋からポテチを取り出すと、つまみやすいように背中側から開けて机の上に置く。


「……しゃーねぇなぁ。――で、今回のお題は?」


 しぶしぶ言いつつも前の席の椅子に後ろ向きに座ると、背もたれに肘をつきながらポテチをつまみだした。


「今回は『二刀流』なんだよね」


「へぇ。二刀流ねぇ」


「パッと浮かぶのは日本刀を左右に持った二刀流だけど」


「素直に受け取るとそれが出てくるな。侍を登場させる歴史ものとか、はたまたファンタジーに登場させてみるとか」


「うん。あとはほら、二つの物事を同時に進める方向にしてもいいんじゃないかなと思ったり」


「ああ、そっちの意味の二刀流ね」


「そう。でもそれはそれで難しそうなんだよね」


「四千文字までだろ? 文字数的に厳しいよなぁ」


「だからやっぱり日本刀を二本持たせるほうがいいかなと」


「はは、一刀流VS二刀流みたいな?」


「うん」


「いいんじゃね?」


 言いながらも拓海は腰に当てた左手で鯉口を切り、右手で刀を抜き放つ仕草を見せる。


「抜刀術なんかも好きだけどな。でもどうせなら四刀流とか登場させてもいいんでない?」


「四刀流ぅ?」


「ファンタジーならありっしょ。四本腕の種族とか。なんなら昆虫人間とかに刀を持たせて六刀流とかすれば面白そうじゃん」


「いやいや、昆虫を二足歩行させても四刀流まででしょ」


「あはは! そりゃそうか。じゃあ蜘蛛人間だな」


「まぁそれなら……」


 とはいえ、昆虫を二足歩行させてまで刀を持たせるのはありなのか? まったく絵が浮かんでこないんだけど。


「いや待てよ……、アラクネさんを二足歩行させれば、八刀流もワンチャン……」


 アラクネとは蜘蛛の体に人間の上半身が生えた魔物である。だいたいが蜘蛛の体に対して垂直方向に人間の上半身が生えているからして――


「ちょっ、無理があるでしょ。アラクネさんを二足歩行なんてさせたら人間の体が重すぎて後ろに倒れちゃうじゃん」


「そこは想像を働かせてだな。背中を丸めてなんとか直立を保てるようにだな」


「えー、ちょっとやめたげてよ。アラクネさんを二足歩行させたあげく背中を丸めさせて刀を八本持たせるとか、すごい絵面なんだけど」


「あっはっはっは! 実際に絵になったらすげー面白そうじゃん」


「もはやギャグだね」


「確かに。あ、そうだ」


 ポテチを最後まで食べ切った拓海が、指に付いた塩を舐めつつ俺にニヤリと笑いかける。


百足ムカデを二足歩行させたら九十八刀流ができるな!」


「ぶほっ」


 拓海の言葉に思わず飲んでいたお茶を吹いてしまう。


「うわ、何すんだよ汚ぇな」


「げほっ、げほっ、……いきなり九十八刀流とか言うからだよ。多けりゃいいってもんでもないでしょ」


 というか百足だからって足が百本あるわけじゃなかったような気がするんだよね。


「そうかぁ? ……んじゃぁ、海中のイカ人間の十刀流くらいが限界か? 水中なら二足歩行する必要ねぇだろ」


「なんかもう大喜利みたいになってるね……。でも残念。イカは手が二本に足が八本だから、やっぱり二刀流までだね」


「なん……だと?」


 俺が告げた言葉に拓海が驚愕に目を見開いている。

 いやそこまで大げさにびっくりしなくてもいいと思うんだけど。


「じゃあ逆立ちして八刀流までが限界なのか……?」


 と思ったらあさっての方向へと思考が行っていた。イカを逆立ちさせるとか意味わかんないし。キミはさっきまで昆虫を二足歩行させてたよね?

 うん、そろそろ潮時かもしれないな。拓海に相談した俺がバカだったのかもしれない。もう無難にファンタジー要素を入れて、二刀流VS四刀流でいこうかな。


 こうして拓海とバカな話を続けながら、お題のプロットが固まっていくのであった。

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