田原総一朗VS山の危険生物。自然も言論も好き勝ってにさせねえ!超絶バトルの開幕~PART2~

小林勤務

第1話 登場

「うう~ん、風がきもちいいい~」


 川のせせらぎ、濃い緑、土の香りを風が運ぶ。マイナスイオンってまさにこれかしら。

 そう。

 ここは――深い山の奥、隠れ家的なキャンプ場。

 バイト代を貯めて、キャンプ道具まで買い揃えちゃって、こんなとこまで来てしまった。


「やっぱり、傷心を癒すのは、いつだって、山。これだよね……」


 ぽつりと漏らすわたし。

 実は、わたし、こんな自然豊かな場所にひとりっきり。別に友達がいないわけじゃないからね。よっちゃんと、みっちゃんとは、ラインでやり取りするし、まーちゃんだって、たまにカラオケに行くし。

 でも、なんでわざわざレンタカーまで借りて、都内からこんな山深いキャンプ場に一人できたかと言えば――


 ずばり、彼と別れたから。ちーん。


 大学で知り合った彼と途中までいい感じだったのに、彼がアブノーマルな趣味を持っていたことが判明して、それがイヤでお互い気まずくなり、そのまま別れてしまった。


 どうやら、乱交が好きだったみたい。見ず知らずの人とエッチするなんて……


 そんな趣味、わたしに求められても困るし。まじ最悪よ。


 そんなわけで、傷心を癒そうと、わざわざ自然を求めてこんな山奥まできてしまった。でも、この爽やかな自然の風を一身に浴びていると、なんだか、素敵な出会いがありそうな気がする。


 ううう~ん、早く素敵な王子様が現れないかしら。なんちゃって。


「あれ~、なんかニヤニヤして、もしかしておねーさん、一人かなあ?」


 げ。

 素敵な人とは程遠い、ヤンキー達に声掛けられたし。どうして、陽キャなヤンキーってアウトドアが好きなのかしら。


「ナンパ目的ってやつかなあ? それなら俺たちと川でいいことしようよお」


 あのさ。なめてもらっちゃ困るわけよ。こう見えて、わたしは早稲田大学第一文学部の弁論サークルの女子人気投票11位だったし。この前のランキングでは12位だったけど、その子のよくない噂とか流したら、ちょっと順位上がったし。まあ、フェイクニュースってやつ? そんなの常識でしょ。


「ちょっと~、無視しないでよお」


 ああ、しつこい。早く、この場から逃げよっと。

 踵を返して、さっさと反対方向へと逃げようとした、その時――



 ぶぶぶぶぶ~~~ん!!



 と、明らかにやばそうな大量の羽音が鳴り響き、時を同じくして四方から「キャー!」とか、「うわー!」とか、映画でよくみる絶叫がこだました。


 こ、これ、もしかして。


 わたしの嫌な予感は当たった。森のいたるところから、どうみてもどう猛なスズメバチの大群が、わらわらとこちらに向かってやってきた。


「に、にげろー」


 気が付くと、さっきわたしをナンパしたヤンキーたちも風とともに去りぬ状態。ぴゅーっとミツバチのように軽やかに去っていた。

 

 スズメバチの大群は逃げ遅れたわたしを発見すると、一斉に毒針を向けて、有無を言わせずそのまま襲い掛かった。


 い、イヤ―――っ!!


 目を瞑り、全てを覚悟した次の瞬間。

 目にも止まらぬ速さで、一人の男性がわたしの前に現れた。まるで、皮を剥いたえだ豆を箸で器用につまむように、次々と素早く旋回するスズメバチを指で捕まえていく。ご丁寧に毒針のみをポキッと折り、ぽいぽいっとその辺に投げ捨てた。


 こ、こんな神業ができる人なんて――


 どこか少年を思わせるボブヘアー。光り輝く銀髪。そして、チャーミングに垂れ下がった目尻。


「あ、あなたは……」


 そう――彼の名は。


「俺か? 田原総一朗だよ」


 

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