憧れの二刀流

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

 二刀流。なんと魅惑的な響きだろうか。俺は憧れの感情をダダ洩れされせて頬を赤く染めた。


「そ、それは……まさか……」


「その、まさか、だ」


 目の前の小男は得意げに胸を張った。その両手には、鋭く冷たい光を放つ剣が握られていた。




 –– まさか、コイツが……すっかり油断していたぜ ––




「ふふんっ! どうだ? なかなかいい剣だろう?」


「……まあ、そうかもしれんな」


「でも、この剣の真の力はそんなものではないっ!」


「……ほう?」


 オレは目を細めてジッと小男、ダリを見る。


「コイツには『魔剣』のスキルが備わっているんだ」


「魔剣か……それはまた凄いな」


 オレは奥歯をギリッと噛みしめた。


 悔しさが隠し切れない。


  魔剣とはその名の通り、魔法が付与されている武器の事である。付与されている魔法によって、腕前よりも強力な攻撃が可能になるということだ。ありふれた武器ではない。希少性が高く、滅多なことではお目にかかれないのだ。実際、オレも目にするのは初めてだった。そんな貴重なお宝が目前に二本ある。他人の物ではあるが、オレのテンションは上がった。



「すごぉーい」


 まるで小娘のような高い歓声を上げる。自分を抑えようと思ったが、無理だ。魔剣だぞ、魔剣。しかも二本。そんなん我慢しようったって無理だろ。実際オレは無理だった。


「へへんっ! もっと褒めてもいいんだぞ?」


 あまりに自慢されると、少し冷める。実際、オレは少し冷静になった。


「ああ、すごいすごい」


「うわー! 全然心がこもってない!!」


 大袈裟にわめくダリを無視して、オレはゴーグルの鑑定用モードを起動する。見た目は特にこれといって特徴のない、普通の剣。が……魔力を流し込む事で魔法の発動ができるようだ。


(確かに魔剣みたいだな。でも……ダリは魔法剣士なのか?)


 俺がそんな疑問を抱いていると、ダリは得意げに説明を始めた。


「これは魔剣の中でもかなり珍しいタイプのものでね。普段は普通の剣として使う事ができるんだ」


「ほぅ」


「そして、ここが一番大事な所なんだが、この剣に使う魔力は、相手から奪うこともできるんだ」


「なるほど……つまり、相手から放たれた魔力を攻撃に使えるということだね」


「そうだ。だから、オレみたいに魔力がないヤツでも魔法が使えるようになるのさ。ただし、斬撃を放つためには魔力を大量に込めないといけない」


「ほう」


「だからって、魔力がなくて魔法が使えないオレみたいなヤツが強いヤツと戦うのは無謀だろ?」


「そうだな」


「だからさ。雑魚の魔力を奪って溜めておくのさ。強いヤツとやりあって死ぬより、細かく刻んで手堅く武器を磨いていく。オレって賢ーい」


「そういうことか……」


「ところで、お前の剣は? まだ完成しないのか?」


「ああ、それならもうすぐできるはずだよ」


 オレはニヤリと笑って見せた。




 (お前の剣が魔力を溜めきった時。それがオレの剣になるのさ。なにせオレは、魔法剣士だからな)




 オレの企みを彼は知らない。オレは口笛を吹きながら、能天気なダリの隣に並んで森の中を進んでいった。

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