僕の秘密に気付いた君と 僕は恋をする
櫻んぼ
第1話 大学生活
幼馴染のヒロトとは大学も学科も同じ。
ほとんどの授業もサークルも同じ。
そんなヒロトは左端の席が好きだった。
「あー悪い。
おれ、1番左の席ね」
長テーブルの左端に座ろうとしたサークル仲間に声をかけ、悪いな、という仕草をしたヒロトが席につく。
「俺、左利きだからさ、
右利きのやつの右に座ると、
お互いの手が当たって不便なんだよ」
小さい頃、親に右利きに矯正されかけたけれど、厳しいしつけに耐えきれなくなり、左利きで落ち着いたらしい。
「左利きって不便っちゃぁ不便なんだけど」
ノートをとる時も、書いた文字に拳が当たるため、常に拳が汚れること、自販機のコイン投入口だって右だし、駅の切符の投入口も右だし。
「それでも左利きは天才って言うからな」
誰がそんなこと言ったんだ、と突っ込まれて楽しげに笑うヒロトは、左利きであることをそんなには苦にしていないようだった。
それから数ヶ月。
みんながサークル唯一の左利き、ヒロトの左端好きに慣れてきた頃。
毎週水曜日。
ヒロトとは昼前の授業が異なるため、昼休みは食堂で待ち合わせる。
先に着いた俺は、サークル仲間のモエとミウに出会った。
一緒に食おうぜ、と、四人がけの席を陣取ることにした。
大きな窓からは園庭の立派な木が眺められる。
俺の前にミウ、右斜め前にモエ。
「おー!
今日はモエもミウも一緒か!」
ヒロトがやってきて、空いた席に座る。
今日はカツカレーの日だ。
いつもより50円お得に食べられる最高の日。
思っていた通り、ヒロトと昼ご飯が被る。
俺たちの昼御飯をまじまじと見つめ、
「二人とも、ほんと仲良しだよね」
と、モエが言う。
「そうか?
カツカレーなんて男子ならみんな好きだろ?」
カツカレーをほおばりながらヒロトが答える。
「だよな?」
言われた俺が答える。
「そりゃそうだ。
しかも今日は安いし」
そんな俺たちを、ミウが不思議そうに眺めていた。
そして小さく
「あっ!」
とかわいく叫ぶ。
「なに?
ミウ、どうしたの?」
モエに言われて、何か言い出そうとしたミウに向かって、俺は右手の人差し指をそっと唇に添えた。
横でヒロトがニヤニヤしている。
大丈夫、モエには気付かれていないだろう。
そしらぬ顔をつくろい、すかさずカツカレーをほおばる。
そして俺の恋が始まった。
きっかけは俺の二刀流。
僕の秘密に気付いた君と 僕は恋をする 櫻んぼ @sa_aku
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