【星よ神話を語れ】

熊節 大洋

「一章:開く紐、閉じる針」一節:独り言とゼウスとの邂逅

「神って案外ひまなもんなんだよなー」僕は、界球儀を覗き込みながらつぶやく。


<神具【界球儀(かいきゅうぎ)】>

あらゆる生物のあらゆる営みを見ることができる。

神はそれぞれひとつずつ持つ。

形は自由に設定でき、別に形として存在させなくても、思考の中で自在に展開できる。

僕はなんとなく「人」という種族が作った道具の「メガネ」という形態に模して作った。

「それにしても人っていう種族はどうしてこう、同胞殺しが好きかね」

僕は神界の大回廊の37決別地のあたりで寝そべりながらつぶやきを続ける。

「いくら、今は国や地域遺伝作用が違うといったところで、同じ同胞(はらから)だろうに。地球の生態網は流石に46億年の歴史があるから上手くバランスが取れているだろうに。こんな調子じゃ、次のパラダイムシフト<異星生物との接触>に対応出来ないんじゃねえかなぁ?」


そう、生物というのは地球にだけ存在するわけではない。


現時点での地球人の技能レベルではまだ交易不可能な星なんてそれほど「ごまんとある」


他の星の生物の様子を見ていると、もちろんそれぞれに独自の進化をして文化を持ち、交易が始まっている。

少し正確に書くならば「三億年ほど前」に「異星間接触」が起こり、少々戦争が起きたものの「お互いの益の尊重」をもとに神界の干渉もあり、正常な交易が開始された。


その時点から異星間交流は始まり銀河間移動、宇宙次元間移動、時空超越も含め、協定が成され行われている。


その段階で「知的自律進化可能生物」、地球人の言葉でいうなら「知的生命体」と「神界」の間に、生命体側と神界側でコンタクトする存在を置き、交流を取り持つようになった。


そうしたコンタクト者のことを神界側の者を「リンカー」と呼び、生命体側での接触者を「ワース」と呼び習わす。


星と神のワースとリンカーは1対1である必要はなく、それぞれの星の制度を持って決められ、定期的なワースリンカー会議では自由闊達な議論が擁され、これからの宇宙についての種々のことが取り沙汰される。

「とはいっても、この僕【カタデロルス】が地球のリンカーに任命されるとはねえ」僕は立ち上がり、食斎場に向かう。

神ももちろん食事をする。寝る所もトイレだってある。

「だけど、人間にだけは性欲があるんだよなぁ」僕はトボトボと大回廊を歩きながら考える。


もちろんどの星の「人」(この場合人と言う単語は星々の主たる種族を指す)も種の保存をする。

「知的自律進化可能生物」としての条件として「種の保存の本能」をもっているかは重要な要素だ。

生物は本能として「死にたくない」と思う。

だが、その「本能」だけだと「自己中心思考群」になってしまい、今までの数多くの滅んでいった生命体はこれに属する。

他者を餌としてしか、見れなくなり自滅の道しかない。


今現在リンカーとワースの関係性が置かれている、【星】には次の規則が定められている。


「他を自より優先する思考を持ち、種の保存を侵さない。また、異星間においても同様である」


これにより秩序は保たれているといっても過言ではない。


「ん?カタデロルスじゃないか。食事か?」老齢たる声が聴こえる。

振り返ると口髭をしっかりと蓄えた筋骨隆々の男神(だんしん)がいた。

「あぁ、そうだよ。ゼウスのおっさんはどら焼きでも食べているのかい?」僕は皮肉紛れに応える。

「ギリシャ神話の主神にそういう口を相変わらず聞いてくれるのはうれしいね。そして良くワシの好物が分かったな」ゼウスは近づいてきてニヤリとする。

「いんや、あんたの力【雷】からの銅鑼(どら)、【アンコ】という糖エネルギーからの単純な推察に過ぎないさ」僕は全味樹(ぜんみじゅ)から手頃な白桃をもぎ取り、卓に腰掛ける。

「あぁ、なるほどそういう考え方もあるのか。」ゼウスは自身の界球儀【波電の腕輪】に手をかざし記録と更新をして僕の隣に座る。

「ただの論理的帰結だよ」僕は白桃を少しづつ咀嚼しながら応える。

「おお、そうだ。カタデロルス。【地球のリンカー】任命おめでとう」ゼウスは満面の笑みで手を差し出してくる。

僕は会釈をし握手をする。

「これからは忙しくなると思うがな、お前ならやり遂げられる、とワシは信じておるぞ」ゼウスは経験者然として貫禄を保ち、脇においてある命杯をあおる。


「そうなのかねぇ」僕は頬杖をついて、白桃の皮をむしり食べる。

「その盟約ならよっぽどゼウスのおっさんのが適任だとおもうんだけどな。」なんせ神界においては格段の位階をもつゼウスだ。

「ほっほっほ、カタデロルスは世辞がうまいのお、将来が楽しみじゃ」ゼウスはヒゲをさすりそう頷く。

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