第6話「新たな稼ぎ」
翌朝も朝からベルナールに来訪者があった。
「セシール、いい女になったな。ますますセシリアに似てきたよ」
その客は母親譲りの蒼穹の髪色を揺らしながら、ベルナールが開けた扉をくぐり部屋の中に入って来る。
「もうっ! ベルさんはいつも同じセリフね」
「そうだったか?」
ベルナールは知っててとぼけた。実際彼女は母親にそっくりだ。
出会った頃の年齢に向かって、徐々に成長する姿は見ていて楽しみでもある。
「そんなことよりギルドをクビになったんですって?」
「戦力外通告だよ」
「同じじゃない! いったいどうして……」
ベルナールは知っているかぎりの事情を説明する。
「そうなの……、それにしても――」
「まあ、それ以上言うな。今はこれからどうしていくかが問題なんだから」
「そっ、そうね……」
そう言われて、セシールも心当たりを思い出し口をつぐむ。
今更ギルドやその関係者に恨み節をぶつけてみても何も変わらない。
「これ母さんからよ」
そう言ってバスケットをテーブルの上に置く。中にはサンドイッチと果物が入っていた。
「悪いな」
「ううん、今、お茶を入れるから」
セシールはコンロの上の炭火の残りを魔法で加熱する。汲み置きの水を小さな鍋に入れ乗せた。
ポットの茶葉を取り替え、すぐに沸いた湯を注ぎ火種を消す。カップを取り出して
彼女の父親は冒険者ではなかったが、ベルナールもよく知っている真面目な男だった。ベルナールたち、仲間は蒼穹の引退を心の底から祝福した。
「急で悪いけど、母さんから仕事の紹介を持ってきたのよ。これから行きましょう。大丈夫かな?」
「そりゃ助かる。どんな仕事?」
セシールはカップを二つテーブルに置き、ベルナールは椅子に腰を下ろした。サンドイッチを食べてお茶を飲み流し込む。
「鹿と猪狩りのヘルプよ。レイラスさんって覚えている」
「う~~ん――」
セシールは手書きの地図と仕事の概要が書かれた紙片をテーブルの上に置き、ベルナールはそれを摘まんで記憶を探る。
「――どんなヤツだったかなあ……。聞いた気もするが……な」
ベルナールはバスケットからブドウの房を出して摘まむ。
「元冒険者で昔、怪我をして引退したのよ。商売を始めて今は狩りから肉の加工、販売まで手広くやっている人なの」
「ほう……」
そう言われればそんな話を聞いたことがあったと思い出す。引退後の人生が上手くいっているなら幸いだ。
「追い込まれた獲物に止めを刺す役だそうよ」
「俺向きの仕事で嬉しいね……」
かつてダンジョンの深部でS級の魔物を撃退した勇者が、これから食肉用の獣を狩るのだ。
「とことでおまえは何でそんなもの持ってきてるんだ?」
傍らにはセシールが持ってきてた弓と矢筒が置いてある。
「決まってるじゃない。私も参加するのよ!」
「おまえの仕事はどうするんだ? パーティーの連中に――」
「追放されたのよ……」
「……」
一瞬意味が分からず少し間が空いてからベルナールは尋ねる。
「はあ? なんだ、それは??」
「パーティーにはいらないって言われたのよっ!」
「つまりおまえもグビになったってわけだ……」
「グビじゃなくて追放よっ!」
何だかより悪いような気がするが、ベルナールはそれ以上突っ込むのは止めた。
若い連中のパーティーはちょっとした言葉の誤解によるイザコザや、色恋沙汰で揉め事が絶えないのが普通だ。
それを乗り越えてこそのパーティーなのだが。
「早く行きましょう」
「分かった分かった。ちょっと待て」
ベルナールは残ったお茶を飲み干し、バスケットからリンゴをつかんで立ち上がる。
セシールの母親はベルナールたちにとって末っ
思えば自分たちは家族のようなパーティーだったと思い返す。
ベルナールは道中、しばし昔の思い出にふけった。思い出したようにリンゴをかじる。
◆
「高名な勇者様にこんな仕事を頼むなんて気が引けますがねえ……」
そう冗談っぽく言う男の顔には見覚えがあると、ベルナールは思い出した。
「いや、元勇者で、元冒険者さ。気にすんなよ」
「久々に勇者の剣技を見せてもらいますよ」
「もうロートルさ」
ベルナールはそう言って苦笑した。昔の自分を知っている者のセリフだな、と。
「あっ、俺もギリギリの年齢でクビになりました。同じ元冒険者ですよ」
ベルナールはもう一度苦笑する。
地図を広げてから、レイラスは二人に手順を説明する。
「二人はここと、ここの配置に就いて下さい」
「分かった」
その場所は剣の前衛、弓矢の後衛になっていた。扇形に戦力を投射すれば良い。
「獲物はこのルートで追い込みますから」
地図のルートを指でなぞりながら言う。
「俺はここの配置に着きますよ」
レイラスは左側の配置だ。つまりベルナールたちは右翼を厚く担当すれば良い。
左は街道に近い。仕留めた獲物の搬出も考えているようだ。冒険者同士は話と理解が早い。
「分かった。お前さんも戦うのかい?」
「ええ、獣相手ですから。魔物とは違う。いつもは俺みたいなのが十人以上でやるんですがねえー」
それをこの三人でやるのだ。責任重大だと、ベルナールは気を引き締めた。
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