ミステリー小説の死体が誰の悲しみも誘わないように。

るぶん

第1話

 ぱんっ。ぱんっ。

 

 乾いた音が二回。少し間が空いて、

 

 ぱんっ。

 

 もう一度。空気が震える。

 「……鈍ったか」

 その小さな呟きは、大気に静かに溶け込んでいくように消えた。その声には驚愕も落胆も、冷めた諦念すらもなかった。ただその手の上にある血と事実とを、客観的に眺めているだけだった。ミステリー小説の死体が誰の悲しみも誘わないように。

 この血は僕のものなのだろうか。彼のものなのだろうか。どちらでもあるような気がしたし、どちらでもないような気もした。決めてしまわないほうが、あるいはいいのかもしれない。

 二つの血と一つの死骸は、水の底へ沈んでいく。


冬は終わった。次は春が来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミステリー小説の死体が誰の悲しみも誘わないように。 るぶん @rubun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ