第32話・仕組まれた会見
リカルドから、ディスタルから手紙が届き、三日後にフレルデントに一番近いウクブレストの小さな村に呼び出されたという事を聞いたアリアは、自分でも驚くほど冷静にリカルドの話を聞いていた。
話を聞いたアリアが取り乱すかもしれないと思ったのか、それは親族全員が集まった場で告げられた。
「もちろん、フレルデントはウクブレストに降伏するつもりなどない。僕は父上に代わり、ディスタルにそれを伝えに行ってくる。必ず戻ってくるから、心配しないで」
リカルドのその言葉に、アリアは、ふう、と息をついた。
心配なんてするに決まっていると思う。
それを口にすると、確かにね、とリカルドは苦笑いした。
「でも、必ず戻ってくるから、僕を信じて待っていてほしい」
「リカルド様の事は、もちろん信じています。信じられないのは、ウクブレスト側です」
アリアはディスタルやスザンヌが、どれだけ卑怯でどれだけ残忍かということを、身をもって知っていた。
だから、戦争が始まるかもしれない今、そんな相手の元に、リカルドを行かせたくなかったのだ。
もちろん、一人ではなく、ステファンや兵士を連れていくだろう。
だけど、ディスタルとスザンヌは何をするかわからないとアリアは思っていた。
「リカルド様、お願いがあります」
「なんだい、アリア」
「私も、連れて行ってください」
「え?」
リカルドだけでなく、アリア以外の全員が驚いた。
「ちょ、ちょっと待って、アリア。君、何を言っているかわかってるの?」
「分かってます。ディスタル様と会われる時に、私も一緒に行くと言っているんです」
「危ないよ。遊びに行くわけじゃないんだ。君にもしもの事があったら、僕はおかしくなってしまうんだよ?」
「それは私も一緒です。それに、女がついていった方が、あちらも多少は油断するだろうし、おかしな事をしてこないかもしれません」
「アリア……」
リカルドは困った表情でアリアを見つめた。
リカルドを含め、誰もアリアに強く言えないのは、アリアの言葉にも一理あるからだろう。
危険な場所に大切な人を行かせたくない気持ちは、同じなのだ。
「坊、連れってっておやりよ」
そう言って助け舟を出してくれたのは、ロザリンドだった。
「でも、大ばば様……」
「アリアは引く気はないようだし……それに……」
「え?」
「アリアが居て良かったと思える事になるかもしれないだろう?」
自分が居て良かったと思える事……それがどんな状況下なのかは、アリアにはわからなかったけれど、リカルドは渋々頷いてくれた。
「絶対に僕から離れない事……約束できる?」
「はい、もちろんです。絶対に離れません」
「あともう一つ……僕についていくると、ディスタルとスザンヌに会う事になるけれど、大丈夫なのかい?」
「はい……大丈夫です」
確かにディスタルやスザンヌに会うのは気が重いが、今の自分はあの二人に以前傷つけられた自分ではないとアリアは思った。
リカルドと一緒なら、これから何があっても乗り越えていけると思うのだ。
「わかった、行こう」
「はい! ありがとうございます!」
腕を広げたリカルドに、アリアは飛び込んで抱きついた。
彼を失っては、多分自分は生きていけないだろう。
だからできるだけ傍に居て、彼と共に生き、守りかかった。
ウクブレストとの会見の場である小さな村に現れたリカルドを見て、ディスタルは驚いたようだった。
リカルドは会見の場に馬車で現れ、馬車はリカルドたちを降ろした後、戻って行ってしまった。
人数は、三人。
リカルド本人と、右腕であるステファン。
そしてアリアだけだったのだ。
「リカルド、えらく身軽で来たものだな」
「いけなかったかい?」
「いや、相変わらず面白いやつだと思っただけだ。それに……」
ディスタルはちらりとアリアへと目を向けた。
「懐かしい顔だな。どうしてここへ? ファインズの息子の方ならともかく、この娘がここに現れると思っていなかった!」
「アリアは僕の妻になったんだ。ターニアから聞いていないかい?」
「あぁ、そう言えばそんな事を言っていたような気がするが、興味がなかったものでな」
「そうかい。まぁ、興味を持たれても、招待する予定ではなかったけどね」
リカルドとディスタルの会話を、アリアは黙って聞いていた。
二人の会話は、仲が良い者同士の軽口の応酬にも聞こえるが、憎しみ合った者同士の言い合いにも聞こえる。
「ところでリカルド……こんな少人数でここを訪れるという事は、俺の望み通り、フレルデントはウクブレストに降伏するという事でいいか?」
そう言ったディスタルに、リカルドは首を横に振り、
「まさか」
と言う。
「その反対だよ、ディスタル。フレルデントは、決して降伏などしない。今日はそれを伝えに来たんだ。他国を攻めるなんて馬鹿な事は、もう止めるんだ」
「それを、俺が聞くとでも思っているのか?」
リカルドの言葉を聞いて、ディスタルは呆れたように言った。
「聞いた方がいい。さもなくば……」
「さもなくば?」
「フレルデントとウクブレストで、戦わなくてはならない事になる」
「ははっ、面白すぎるぞ、リカルド!」
ディスタルは笑い出した。
「リカルド、それこそが俺が求めている事だと、わかっているんだろう?」
ディスタルが右手を上げると、建物の影に身を潜めていたらしい兵士たちと、スザンヌが現れた。
兵士たちは剣や槍、銃をリカルドたち三人に向け、スザンヌはゆっくりとした足取りで、ディスタルの元へと向かう。
「ふふふ、馬鹿な男と、同じくらい馬鹿な女、ですわね。何をしに来たのかしら」
スザンヌはディスタルにしなだれかかりながら、アリアを見て馬鹿にしたように笑う。
「本当だ、リカルド。こんな少人数でここに来るなど、殺してくれと言っているようなものだ。お前はもう少し、賢いと思っていたのだがな……」
「ふふふっ、でも、お別れですわね!」
「そうだな」
ディスタルがもう一度右手を上げると、銃声が鳴り響いた。
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