第2407話 《虎星》: ロボと鍛錬! Ⅲ

 グランマザーに惑星のテラフォーミングを頼み、1ヶ月程度でそれが完成したと言われた。

 想像以上に早かった。

 最初は俺一人で案内された。


 距離は分からないが、マザーシップで15分ほど。

 超空間航行をするので、具体的な地球からの距離は分からない。

 宇宙から見せられたそれは、地球と同じく青い海洋の多い惑星だった。

 グランマザーが惑星の概要を説明してくれた。

 系の恒星とそこからの距離や他の惑星について。

 また惑星そのものについて。


 「地球と同じ環境にしています。大気組成は元より、気候や生態系も似通ったように改造しました」

 「スゴイな!」


 俺が褒めるとグランマザーは嬉しそうな顔をした。


 「技術的には確立されているものですので」

 「生態系ってどうやってるんだ?」

 「地球と100%同じではありませんが、非常に近いものです」

 「じゃあ、動植物も?」

 「はい」

 「菌やウイルスはどうなっている?」

 「そちらも同様です。ですので、感染症には十分にお気をつけ頂く必要がありますが、もちろん治療法も万全です」

 「そうか」

 「一応、現地での食事はなさらない方が」

 「分かった、ありがとうな」

 「いいえ、とんでもございません」


 「ああ、知的生命体はいるのか?」

 「いいえ、おりません。石神様がお連れする方々のみになるでしょう」

 「そうか」


 俺は《虎星》と名付け、地表に降りることにした。

 確かに大気組成は地球と全く同じようで、呼吸も問題ないはずだ。

 自然に覆われたように見せかけているが、地球人のために別途特別な装置が常に大気組成の厳重な維持管理を行なっているそうだ。

 一応、植物が光合成で酸素を供給しているが、様々な自然現象で大気組成が変わりそうになっても、安全に組成を維持する機構がある。

 また、惑星内部も地球と同様でマントル対流もあり、地磁気が発生している。

 だからバンアレン帯も生成され、有害な宇宙線もシャットアウトしている。

 最初は地表を周回し、山脈や平野、海洋などを眺めた。

 森林や砂漠もあり、両極には極冠もあった。

 もちろん地球の大陸とは形は違うが、そのようなものがちゃんとある。

 俺は広い海岸線に降り、大気を吸ってみた。

 大丈夫なのと、非常に空気が美味い。

 工業汚染など無い惑星のためだ。


 「いいな」

 「御満足頂けて、何よりでございます」


 「花岡」も試した。

 「飛行」も出来るし、「花岡」の技も出せる。

 一通り確認し、俺はこの惑星虎星を使うことにした。


 「魔法陣」の検証だ。






 毎回マザーシップで送ってもらい、そこから俺たち専用の降下船に乗って地表に降りる。

 音声で命令出来るので、最初はグランマザーも一緒だったが、そのうちにロボと二人きりで降りるようになった。

 グランマザーはいろいろとやることが多いので、専念させるためだ。


 「じゃあ、ロボ。今日も頼むな!」

 「にゃー」


 俺は月に数回、ロボと一緒に《虎星》へ出掛けた。

 子どもたちには秘密にしていた。

 もちろん、普段から「魔法陣」の研究も進めていた。

 「魔法陣」は547種の図形と文字で構成されている。

 一つ一つ検証してくつもりだった。

 俺は検証の計画書を作り、パソコンを使って検証の順番を決めて行った。


 最初は、各々の図形か文字を削っての検証。

 ほとんどの場合、出力増大の現象は起きなかった。

 むしろ、大部分が発動しなかった。


 次に図形と文字の入れ替え。

 こちらは時間が掛かった。

 しかし、ルーン文字を入れ替えた時に、出力に大きな違いが出ることを発見した。


 「ロボ、準備頼むな」

 「にゃー」


 毎回ロボに声を掛け、万一大出力で次元の裂け目が出来た場合にロボに塞いでもらう。


 「行くぞー」

 「にゃ!」


 ほとんどの場合、ロボの「ばーん」は必要無かった。

 そうすると、ロボが段々飽きて来る。


 「じゃあ、次なー」

 「……」

 「あれ?」

 「……」


 ロボが俺をジッと見ている。

 つまんないのだ。


 「ちょっと休憩すっか!」

 「にゃー!」


 ロボと遊ぶ。

 駆け回ったり、ピンポン球などでロボを楽しませる。


 「そろそろまたやっかー!」

 「にゃ!」


 すぐに飽きる。

 ご飯をあげる。

 遊ぶ。

 褒め称える。


 ロボにやる気になってもらわねば、検証は出来ない。

 ルーン文字による出力調整が判明するまで、大分苦労した。


 「じゃあ、ロボ、行くぞー!」

 「にゃ!」


 巨大な「虚震花」が上空へ伸びる。

 やはり次元の割れ目が出来て、異次元の怪物が出ようとする。

 ロボが「ばーん」で撃退。



 ドッゴォォォォーーーン!



 その繰り返しだったが、やはり何しろロボが飽きっぽい。

 寝られるとどうしようもないので、時々遊んでやる。

 人間相手であれば引っぱたいてどんどん検証するのだが、ロボは可愛いネコだ。

 ロボがどうしてもやる気にならない時には、仕方なく俺は「花岡」や石神家の剣技の鍛錬をした。

 そっちの方の時間が圧倒的に長いのは仕方がない。


 「ロボいるかー」

 「にゃ」

 「よし! やるぞ」


 

 トコトコ



 「おい、ロボー!」


 ロボが飽きてどこかへ行ってしまった。

 もう発射している。

 幸い時空の裂け目は出来なかった。


 「ふぅー」


 ヤバい。


 またロボが興味を引くこともあった。

 突然海上に飛び、大型の魚を爪で引っ掛けて来たので驚いた。

 

 「これ、マグロに似てんな?」

 「にゃ」


 形はマグロだが、色は真っ黒だ。


 「命名! 《マッグロ》!」

 「にゃー!」


 ロボがなんか喜んだ。

 ロボが爪で切り裂き、食べ始める。

 まあ、ロボならば何食べても危険は無いだろう。

 俺にロボが切り身をくれた。


 「にゃ?」

 「え、俺も喰うかってか?」

 「にゃー」

 「大丈夫かな」

 「にゃー」

 「そう?」


 何言ってるのかは分からんが、食べてみた。

 美味かった。

 それからは包丁と醤油、わさびを持って行くようになった。


 そのうちにグランマザーが、「ばーん」を疑似的に発生させる機械を作ってくれた。

 ロボが遊んでても次元の裂け目を処理できるようになった。

 ただし、兵器としては使えないもので、あくまでも時空の裂け目を修復する機械だった。

 ロボの「ばーん」は解析不能とのことだった。

 へぇー。


 「魔法陣」の検証が格段に進むようになった。

 ただ、万が一の場合があるので、ロボにはいつも同行してもらった。

 ロボもしょっちゅう「ばーん」が撃てるので御機嫌だった。

 すぐに飽きてしまうのだが。


 




 俺は様々な検証と共に、「魔法陣」の描画の高速化や複数出現の技術を養った。

 ルーン文字の入れ替えの他に、幾つか驚愕的な発見もあった。

 間違いなく、「魔法陣」は俺たちの切り札になる。

 その確信を得た。

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