第2406話 《虎星》: ロボと鍛錬! Ⅱ

 マザーから途轍もない事象を見せられても、当初は俺に何かをする思いは無かった。

 俺に出来ることは、俺たちのの戦いに備え、準備するだけだ。

 しかし、その戦いに於いて、「業」の軍勢が莫大な数に上ることが分かって来た。

 地球の全人口を遙かに超える、千兆を超えて京に上る以上の数もあり得る。

 「業」と同化した《大羅天王》は、凄まじい数の妖魔をその身に宿しているらしい。


 俺たちはロシアでの移民移送作戦で、数億の妖魔を差し向けられた。

 あの戦いで、俺は数の脅威を身をもって知った。

 いくら俺たち一人一人の戦力が高くとも、数に押された場合にどれほど苦戦するのかを。

 だから俺は考えを改めた。

 数の差の問題はもうどうしようもない故に、今の戦力を大きく高める必要がある。

 千石仁生の加入は、大いに有難かった。

 千石の他者へ技を伝える能力は、「虎」の軍の底上げになった。

 そしてもう一つが石神家本家の参戦だ。

 最強の剣技で、妖魔相手に戦える集団が加わったことは、俺にとって僥倖だった。

 全世界から「虎」の軍へ入りたいと言う希望者が増えたことももちろんだ。

 

 だが、まだまだ数の問題は解決出来ていない。







 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







 佐野さんを送って家に戻ると、丁度お茶の時間になった。

 今日は双子の花壇のスイカをみんなで食べながらアイスコーヒーを飲む。

 双子が石神家での出来事を亜紀ちゃんと柳に話していく。


 「私たちね! 「虎相」が出せたんだよ!」

 「ほんとに! えぇ、私も出来るかな!」

 「うん。でも、真白さんの施術がやっぱり必要かなぁー」

 「そうなんだ」


 亜紀ちゃんが出来るようになりたいようだ。

 まあ、「虎相」が出せたからどうということも無いのだが。

 あれは石神家の剣技に関わる技だ。

 むしろ「花岡」などの技は、異なったエネルギーを纏うために邪魔にもなることが多い。

 俺がそう話すと亜紀ちゃんは諦めたが、柳がどうしても欲しいと言った。


 「スーパーミドウ人になるんです!」


 柳は『ドラゴンボール』が好きだった。

 スーパーサイヤ人に似た、石神家の「虎相」を身に纏いたいのだろう。

 なるほどね。


 「じゃあ、いつかな」

 「ほんとですか!」

 「ああ」


 いつになるか分からんが、柳が喜んだ。

 そう言えば、前に夢で先祖の虎之介が御堂家の娘を嫁に貰うとかなってた。

 あれが現実のことかは分からんが、もしかしたら御堂家にも石神家の血が入っているかもしれない。


 俺は少し眠ることにした。

 ロボが付いて来て一緒に寝る。






 夕飯はカレー大会だった。

 また秋になると御堂家から大量の米が届くので、今から減らしておかなければならない。

 いつもながらにうちのカレーは美味い。

 子どもたちはガンガンカレーを食べて行った。

 よしよし。


 食事を終えて風呂を済ませ、今日はのんびりとリヴィングで酒を飲んだ。

 子どもたちも全員が一緒に飲む。

 俺と亜紀ちゃんは冷酒を飲み、柳と双子はビールだ。

 つまみは各種刺身とナスの煮びたし、生ハム、それに大量の唐揚げだ。

 ロボもマグロの刺身で冷酒を呑む。


 「タカさん、あの」


 亜紀ちゃんが申し訳なさそうに俺に聞いてくる。


 「なんだ?」

 「あのですね、お庭のアレなんですけど」

 「ああ、俺が何とかするよ」

 「本当にすみません」

 「いいよ。もしかすると役立つ物なのかもしれん」

 「そうなんですか?」


 《トゥアハ・デ・ダナーン》と聞いた時から、俺に一つ宛が出来た。

 それはグランマザーとの関りだ。

 子どもたちにはまだ話していない。


 亜紀ちゃんと柳が多少暗くなったので、双子が話題を変えてまた石神家本家の話をした。

 御坂や千鶴の奮闘を話し、亜紀ちゃんと柳もようやく笑っていた。

 それに俺が話した斬の凄まじい鍛錬の話もして、亜紀ちゃんと柳は目を輝かせた。


 「あのね、そういえばタカさんって「花岡」をいつの間にか身に付けてたんじゃないかって言ったんだよね?」

 

 そういう話も出た。


 「タカさん、私たちが「花岡」を解析する前から、自分で何か分かってたんじゃないの?」

 「ああ」

 「ねぇ、ほんとにどうだったのかなー」

 「まあ、俺も自分で考えながらやってたよ」

 「やっぱ!」

 「そうだったんだね!」

 

 双子が興奮し、亜紀ちゃんと柳は驚いていた。


 「相当ヤバい拳法だったからな。対抗手段を持たなきゃならないとは思ったよ」

 「だからだぁ! タカさん、すぐに覚えたっていうか、最初から何か出来てたよね!」

 「まあな」


 もう隠す必要は無い。

 本来は子どもたちを守るために、俺自身が考え練習していたことは確かにある。

 

 「もちろん、お前らの解析が大いに役立ったのは事実だ。あれが無ければこれほど早くは身に付かなかったからな」

 「でも、タカさんはいつも私たちよりも上だったじゃないですか」

 「それはお前らよりも鍛錬したからだよ」

 「そんな! いつやってたんですか!」

 「どうでもいいだろう」

 「えぇー!」


 親父としての威厳だ。

 俺はこいつらの壁になってやらなければならん。


 「あぁ、そうだぁ!」

 「どうしたのハー?」

 「タカさん、魔法陣の解析ってどうやったの!」

 「えぇ!」


 虎白さんに強制されて、《地獄の悪魔》を斃せる技を考えろと言われた。

 咄嗟に「魔法陣」を使うことを思いついた。


 「ルーン文字を入れ替えて出力調整って言ってたよね!」

 「あぁ! そうだった!」

 「あんなこと、相当検証しなきゃ出来ないよ!」

 「そうだ! でも、検証ってどうやって?」

 「出来ないよ!」

 「異次元の怪物が出るもんね!」


 双子が大騒ぎし、亜紀ちゃんたちもようやくその騒ぐ理由に気付く。


 「タカさん! 一体どうやったの!」

 「いつやったの!」

 「うるせぇな」


 「「「タカさーん!」」」

 「石神さん!」


 全員が俺に叫ぶ。


 「「業」との戦いは俺が始めたことだ。お前たちを巻き込んではいるが、本来は俺が何とかしなければならない戦いなんだ」

 「でも、私たちだって!」

 「分かってるよ。だけど、戦いの根幹は俺が常に考えてなきゃいけない。だから有用な戦い方や技術は俺も本気でやってるだけだ」

 「それをいつ、どこで……」

 「はぁー」


 子どもたちにも、そろそろ話していいかもしれない。

 もう「魔法陣」の検証は済んでいるので、これからこいつらも覚えて行っていいだろう。


 「グランマザーに頼んでる」

 「「「「エェェェェェーーー!」」」」

 「ルーとハーが偶然に見つけた「魔法陣」は、途轍もない威力がある。だから一度は封印したが、「業」との戦いであれが必要だと考えるようになったんだ」

 「石神家でも、《地獄の悪魔》や《神》まで殺せる威力になったよね!」

 「タカさんが「魔法陣」をものにしてたからだよね!」

 「そうだ。もう信頼できる人間には公開してもいいと思う。お前らにもそろそろな」

 

 子どもたちが興奮する。

 柳は「オロチストライク」に使えるのではないかと考えているだろう。


 「前に「大銀河連合」の《天下一ぶ……》に出ただろう?」

 「はい、優勝しましたよね!」

 「そうだ。あの時に賞品として惑星のテラフォームを提案されたのを覚えているか?」

 「もちろん! タカさんは断りましたけど」

 「あれをもらった」


 「「「「エェェェェェーーー!」」」」


 とんでもなく驚く。


 「俺が「魔法陣」の研究をするためだ」

 「そんな! じゃあ、地球上では危険だから……」

 「そういうことだ。《虎星》と名付けた場所で、俺がロボと一緒にやってきたんだ」

 「知らなかった……」


 知られないようにやったんだ。

 俺はグランマザーとの連携を子どもたちに話した。

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