第2376話 亜紀と柳のお留守番 Ⅱ

 三人でまた草むしりをした。

 真夜はウッドデッキの椅子に縛っておいた。


 「亜紀さーん……」


 ようやく一通り終わって、みんなでシャワーを浴びてからお茶にした。

 アイスミントティーを飲む。


 「亜紀さん、すみませんでした」

 「いいよ。真夜を庭に出しちゃった私が悪いんだよ」

 「いいえ、すみません」


 まさか草むしりであんなものを。

 まあ、地面を掘るからなー。

 迂闊だったなー。


 もう埋め直すことは出来ない。

 麗星さんにも話してるし、うちの量子コンピューター《アイオーン》はお喋りだ。

 それにタカさんに隠し事はしたくない。

 怒られるだろーなー。

 しょうがないかー。


 固定電話が鳴った。

 私が出る。


 「もしもし、「楼蘭」の財前です!」

 「あー!」


 近所に出来た焼肉屋さんだ。

 双子が一番多いが、私も柳さんもよく行く。

 美味しくて安くていいお店だ。

 それに店主の財前さんたちが優しい。


 「どうしたんですか?」

 「実はですね、急に親戚の葬儀に行かなくてはならなくて」

 「そうなんですか?」

 「遠い場所なのと、田舎なので何日も掛かるんですよ」

 「大変ですね」


 それで、仕入れたお肉が大量にあるので困っているのだと言う。


 「冷蔵しておけば、大丈夫なんじゃないですか?」

 「いえ、徐々に味は落ちますし、そういうものをお客様に提供するのは……」

 「なるほど」

 「良ければ、今晩にでもいらっしゃいませんか?」

 「え?」

 「石神家の皆さんなら、いつも沢山召し上がってくれますし」

 「ああ、なるほど!」


 そういうことか。


 「処分しなければならないものなので、安くいたしますよ」

 「ほんとですかー!」


 やったぁー!


 「あ、そうだ! 今、タカさんとルーとハーは出掛けてるんですよ」

 「そうなんですか?」

 「私と柳さんしか家にいなくて」

 「そうですか。残念ですが、お二人だけでも如何ですか?」

 「はい、是非伺います!」

 「あー良かった! じゃあ、お待ちしてます」

 「あ、ちょっと待って下さい!」


 私は電話を保留にして、真夜と真昼に一緒に「楼蘭」へ夕食に行かないか誘った。

 簡単に、事情を話す。


 「是非!」

 「焼肉、久し振りです!」


 私は財前さんに四人で行くことを告げ、喜んでもらえた。


 「今日は食べ放題に出来ると思いますよ!」

 「ほんとに! いいんですか!」

 「はい!」


 やったぁー!


 そういうことになった。

 美味しい人助けになるぞー!






 

 真夜と真昼は一度家に戻った。

 柳さんと一緒にコッコたちに草を運んで、ちょっと鍛錬した。


 5時に真夜と真昼が来た。


 「今日は一杯食べてね!」

 「「はい!」」

 

 四人で歩いて「楼蘭」へ向かった。

 途中で左門さんとリーさんに会った。

 散歩の途中だったようで、腕を組んで仲良く歩いている。

 いつもアツアツだなぁー。


 「こんにちはー!」

 「あー、亜紀ちゃん、みんなも!」

 「「「こんにちはー!」」」


 「あれ、お出掛け?」

 「ええ、焼き肉屋さんへ。あ! 宜しければお二人も如何ですか?」

 「え、いいの?」

 「もちろん! 「楼蘭」ってお店なんですけど、店主の方が急に親戚の御葬儀に行かなくちゃいけなくなったそうで。仕入れたお肉に困ってるそうなんです」

 「ああ、「楼蘭」はよくリーとも行くよ。美味しいよね!」

 「はい!」

 「じゃあ、御一緒しようかな?」

 「是非!」


 メンバーが増えた。

 すぐに財前さんに6人になったことを伝え、喜んでもらえた。


 お店に入ると、結構な人数が入っていた。

 常連さんが多い。

 みんな顔なじみなので挨拶していく。


 「やあ、今日もたくさん食べるとこ見せてね!」

 「はい!」


 財前さんが、すぐにお肉を山盛りに持って来てくれる。


 「いつもは上限をお願いしてるけど、今日は大丈夫ですよ」

 「ほんとですか!」

 「はい! 特上ロースと特上カルビだけで200キロありますから!」

 「「「「「「!」」」」」」


 ちょっと思ってたのと違う……


 「何しろ明日から一週間は帰って来れませんので。亜紀さんたちに来ていただけて助かりました」

 「は、はい」


 私は50キロは行ける。

 柳さんも頑張って20キロはいけるか。

 残り130キロ……

 まあ、他のお客さんもいるし。

 でも周囲を見ると、特上を食べてる人はそんなにいない。

 正直にみんなに言った。


 「私と柳さんで、どうにか100キロは行きます」

 「え、亜紀ちゃん!」

 「左門さんとリーさんは、お好きなものを食べて下さいね」

 「いや、今日は一緒に同じものを食べるよ」

 

 今日は、ということは普段は違うのだろう。


 「いいえ、何がお好きなんですか?」

 「ロースとかカルビも好きだけど、ホルモンなんかも食べるけど」

 「じゃあ、そういういつも通りで」

 「亜紀さん、私と真昼はいつもロースとカルビですから」

 「そう、じゃあお願いね」


 とにかくガンガン焼いて食べた。

 もちろん美味しい!

 ご飯も欲しくなるけど、今日は我慢した。

 テールスープだけ頼む。

 左門さんとリーさんも、ミノやなんかも頼んでいたけど、特上ロースとカルビをどんどん食べてくれる。


 でも、1時間も食べ続けると、さすがに私も限界になってきた。

 50キロは食べたか。

 こんなに食べたのは初めてだ。


 「ちょっと外すね」

 「亜紀ちゃん、大丈夫?」


 心配そうに見ている柳さんも頑張っていて、20キロは超えている。

 私も柳さんもペースが落ちた。

 真夜は相当頑張って4キロいった。

 真昼ちゃんも3キロは食べただろう。

 「花岡」を本格的に習い、私たちと一緒に食事をするようになって、段々食べれるようになってきた。

 頼もしいが、そろそろ限界だろう。

 左門さんとリーさんも頑張っている。


 私は割箸を片手にトイレに行った。


 「割箸持って、どこ行くの?」

 「なんでもありません」


 左門さんが柳さんに聞いていた。

 聞かないでー!


 トイレから出て、一旦外で割箸を「虚震花」で消した。


 「よし!」


 柳さんも割箸を持ってった。


 「外で「虚震花」で」

 「うん、分かった」


 お店では、特上ロースと特上カルビの半額セールになった。

 他のお客さんもどんどん注文している。

 いい流れだ。


 でも、私たちのテーブルはみんな必死な顔になっている。

 美味しいのだが、もうお腹に入らない。

 私はもう2回割箸を持ってった。

 柳さんももう1回行った。


 私は70キロ、柳さんは40キロ、真夜は8キロ、真昼は5キロ、左門さんとリーさんで10キロ。


 「亜紀さん、すみません! もうお肉が無くなりました!」

 「「「「「「やったぁ……」」」」」」


 左門さんたちがしきりに遠慮したが、私が全部支払った。

 ありがとうございました。

 みんなでものすごくゆっくりと帰った。






 

 

 その晩、私と柳さんがとんでもない下痢になった。

 どうにも苦しくて一江さんに電話すると、大森さんと一緒に飛んで来てくれた。


 「なにやったの!」


 焼肉を70キロ食べたと話した。


 「もう!」


 タカさんの用意してる薬箱から、幾つかの薬を選んでくれた。


 「夜中でも苦しかったらまた電話してね」

 「はい、すみませんでした」


 またタカさんに怒られる用件が……

 すいませんでした。  

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