第2315話 石神家 ハイスクール仁義 Ⅳ

 教室に戻ると、俺の隣の二瓶という男が俺に話し掛けて来た。

 さっき俺の年齢を聞いたのでぶっ飛ばした奴だ。


 「猫神君、さっき部団連盟の人が来たんだ」

 「へぇー」

 「あのさ、その、実はさ、白ランはちょっと不味いんだよ」

 「なんで?」

 「この学校で白ランを着ていいのは、部団連盟の幹部だけなんだ」

 「ほう」


 制服が決まってんじゃねぇのか。


 「それにさ、さっき花輪をぶっ飛ばしたじゃない」

 「そうだっけ?」

 「僕もやられたけどさ! 僕はいいんだよ。でも花輪はボクシング部だから」

 「そうなんだ」

 「だから部団連盟が来たんだよ! 猫神君、ちょっとほんとに不味いんだって!」

 「たいへんだな」

 「ねぇ!」


 話していると、白ランの男たちが二人入って来た。

 すぐに俺の方へ来る。

 やけにでかい男と、ごつい顔で目つきが異常に鋭い男だ。


 「お前が猫神か」

 「そうだけど」

 「ちょっと来い」

 「え、これから授業があるんだけど」

 

 教師が入って来た。


 「前島先生、ちょっとこの生徒をお借りします」

 「はい、分かりました」

 「へぇー」


 随分と部団連盟というのは権力があるらしい。

 俺は逆らわずに付いて行った。


 先ほど歩いた渡り廊下を通って、部団連盟の建物に入った。

 大きなガラス扉を白ランの一人が開いた。


 廊下の奥のまた大きな扉が開かれる。

 会議室のようで、白い長テーブルが四角く繋げられていた。

 12人の白ランがいた。


 「猫神を連れて来ました」

 「御苦労」


 白ラン、こんなにいるのかよ。

 まあ、俺の長ランには敵わねぇけどな。


 全員が「雰囲気」を持っている。

 そこそこはヤル連中だと分かった。

 女生徒が2人、他の10人は全員男子だ。

 女生徒も白ランだった。


 俺を連れて来た目つきの鋭い男が立ち上がった。

 短髪で、やけにいかつい顔をしている。

 白ランを着ていても、胸から肩の筋肉が発達していることが見えた。

 立ち上がる動作にもキレがある。


 「お前、今朝花輪をぶちのめしたそうだな」

 「軽い挨拶ですよ」

 「ほう、ここに来てビビってないのか」

 「全然」


 ビビるわけねぇだろう。


 「久我さん、こいつはうちで片付けていいですか?」

 

 正面の真ん中に座っている角刈りの男を見て言った。

 目の力が強い。

 相当出来る奴だと分かった。


 「榊、お前が始末を着けるんだな?」

 「はい」


 花輪はボクシング部だったようなので、榊というこの男が部長か。

 そして久我という男がこの部団連盟の中心ということだろう。


 「今日、エキシビジョン・マッチを行なう。全校に通達しろ」

 「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」


 久我が宣言し、全員が従った。


 「猫神、逃げるなよ?」

 「なにすんの?」

 「お前はうちのボクシング部に挑戦して来た。だから俺が相手になる」

 「へぇー」

 「全校生徒の前で俺とお前の試合をする」

 「やだ」

 「逃げられんよ」

 「そうなんだ」


 榊が恐ろしい顔で笑った。


 「逃げれば永遠に追いかける。試合じゃない方法でな。全ての部団連盟の人間が、お前を追う」

 「分かったよ。でも、俺はボクシングなんてやったことないぞ?」

 「まったく構わない。お前はリングへ上がればいい」

 「そうか」


 要は俺を他の生徒たちの前で、見せしめにぶちのめすということだ。

 部団連盟は星蘭高校の良心だと早乙女は言っていたが、とんでもない。

 こいつらはヤクザ以上に面子に拘る狂った集団だ。

 力で押さえているだけだ。

 まあ、不良の巣窟のこの高校の中では、そういうことにもなるのだろうが。


 時間は午後3時だと言われた。

 グラウンドに特設リングまで作るらしい。

 ご苦労さん。






 午後の授業が終わり、子どもたちが俺の教室へ来た。


 「タカさん、聞きましたよ! 早速やるんですか!」

 「なんかなー」

 「スゴイですね! 相手はボクシング部の部長らしいじゃないですか!」

 「そうだってな」

 「あー、私もやりたいなー!」

 「ワハハハハハハハ!」


 数人の男子生徒が来て、俺を連れて行った。

 ボクシング部の部室だ。

 通りかかったグラウンドで、見事な特設リングが出来ていた。

 多くの生徒が運動着で回りにいたので、午後の授業をそっちのけでみんなで組んだのだろう。

 部団連盟はやはり大きな権力を持っている。

 既に大勢の一般生徒たちが周りに集まっていた。


 「ボクシングのルールは知らないんだったな」


 部室ですぐに着替えさせられた。

 グラブやパンツ、シューズなどは借りた。

 俺の上半身を見て、ボクシング部の部員たちが驚いていた。

 副部長の今村という男が俺のバンテージを巻きながら言った。


 「要は殴り合いだ。ローブローは分かるか?」

 「キンタマ禁止だな」

 「そうだ。それと……」


 簡単にルールを説明してくれる。

 まあ、大体知ってるけど。


 「榊さんは強すぎる人だ。一発喰らったら倒れておけ」

 「なに?」

 「見せしめにお前がリングに立たされるってことは分かっているだろう?」

 「まあ、なんとなく」

 「お前がやられればそれで終わりだ。お前、喧嘩に自信はありそうだけどな。ボクシングは全然違うぞ」

 「そうか」


 俺に諭してくれる。

 意外と優しい奴なのだろう。


 「それにしても、お前本当に高校生なの……」


 今村をぶっ飛ばした。

 自分でグラブを嵌める。

 他の部員が来て、手伝ってくれた。

 今村は口から泡を吹いて寝ていた。


 「お前、殺されろよ」


 グラブの紐を結びながら部員が言った。


 「おう」


 ジャージを羽織って外に出て、特設リングへ向かった。







 さっきよりも大勢の生徒たちが集まっていた。

 もしかすると、全校生徒じゃないのか?

 リングの周りにパイプ椅子が並べられ、恐らく部団連盟の上の人間たちが座っている。

 白ランの連中はもちろんリングサイドだ。

 全校生徒に命令して集め、俺を見せしめに潰すつもりなのが良く分かった。

 ボクシング部の奴らがリング外の階段まで誘導し、ロープを開いてくれた。

 俺は無視してそのままジャンプし、リングに降り立った。

 全員が驚愕している。

 10メートル以上ジャンプしたからだ。

 そして上着を脱ぐと、更に大きなどよめきが起きた。

 俺の傷だらけの身体を見てだ。


 既に榊は反対のコーナーにいた。

 俺のジャンプを見ても動じずに、鋭い目つきで顔を綻ばせていた。

 俺の身体を見ても臆さない。

 やはりこいつは相当ヤル奴だ。

 身体はライト級という感じか。

 引き締まった肉体で、バネが相当強いことが伺えた。


 レフリーが俺たちを中央に呼び、注意事項を話す。

 榊はその間も俺をジッと見ていた。

 レフリーの説明が終わり、一旦両コーナーへ戻った。





 ゴングが鳴った。

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