第2313話 石神家 ハイスクール仁義 Ⅱ

 早乙女が頑張って、四日後に俺たちの転入が決まった。

 あいつは槙野の事件以来、一切もたつかない。

 御堂の協力で文部科学省からの紹介状もあり、転入自体はスムーズに完了する。

 前日はみんなで制服を着て、盛り上がった。

 やはり武市の作った白ランがいい!


 シルク混の高級生地で、少しキラキラしている。


 「タカさん、カッコイイ!」

 「やっぱ?」

 「石神さん、素敵です!」

 「そうかよ!」

 「高校生にしか見えないよ!」

 「ほんとかよ!」

 「結婚して!」

 「ワハハハハハハハ!」


 大満足。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 初登校で、俺たちが校門をくぐると、すぐに他の生徒たちの注目を浴びた。


 「タカさん、目立ってますよ!」

 「おう!」

 「石神さん、みんなに見られてます……」

 「ばかやろう! 俺は猫神だ!」

 「す、すいません!」


 柳はまだカバーを把握してねぇ。

 俺は猫神高虎。

 亜紀ちゃんは猫神亜紀子、柳は犬神龍、双子は猫神ルーリーとハーリーの混血二世。

 双子は金髪だ。

 柳以外は兄弟という設定だ。

 俺は3年生で亜紀ちゃんと柳が2年生、双子が1年生だ。

 来客用の玄関へ行き、勝手にスリッパを借りた。

 通りかかった生徒がいた。

 髪を金色に染めたチャラい奴だ。


 亜紀ちゃんが蹴り飛ばす。


 「おい、職員室へ案内しろ」

 「なんだお前!」


 もう一度亜紀ちゃんが蹴る。

 有無を言わさぬ攻撃に、金髪がビビりまくった。


 「早くしろや!」

 「は、はい!」

 

 そいつに付いてった。

 鉄格子がついたドアがあった。


 「ここです!」

 「おう、もういいぞ」

 「はい!」


 金髪が走って行った。


 「タカさん、開きませんよ?」

 

 亜紀ちゃんが鉄格子をスライドさせようとして俺に言った。

 ロックされているらしい。

 横にインターホンがあった。

 

 ポチ

 ピンポーン


 「すいません、今日転入して生きた猫神ですが」


 鉄格子が自動でスライドし、亜紀ちゃんが内側の扉を開いた。

 警備員らしい人間がドアの両側に立っている。

 大分ものものしい。


 初老の男が近づいて来た。

 校長の杉田という人物だ。

 俺を見て驚いている。


 「君、本当に高校生?」

 「はい!」


 なんだよ。


 「まあいいや。ああ、入学金と寄付金はありがとう。有用に使わせていただきます」

 「いーえー!」


 寄付金を50万円支払った。

 まあ、少しは俺たちの行動を多めに見てもらうためだ。

 大した意味はない。

 俺の白ランを認めさせる程度か。

 でもやっぱり指摘された。


 「しかし君、うちの制服は?」

 「間に合いませんでした」

 「妹さんたちは間に合ったのに?」

 「俺はちょっと海外へ出かけてましたので」

 「そうなの?」

 「はい!」

 「じゃあ、なるべく早くに揃えてね」

 「はい!」


 揃えるつもりは更々ねぇ。

 折角作ったのに。

 カッチョイイのに。


 簡単な説明を受けたが、大したことは何もない。

 職員室の鉄格子は、以前に集団で職員室に殴り込んできた生徒がいたために設置されたらしい。

 警備員もそうだ。


 学食があると聞いて、子どもたちが喜んだ。

 授業で使う教科書などは既に用意してあった。

 俺たちはそれを受け取り、それぞれの教室へ担任と共に行った。

 

 担任が教室のドアを開け、俺が後ろに続いた。

 ここまで一言も口を利かなかった。

 俺の白ランにも何も言わない。

 ここに多いやる気のない人間なのだろう。


 俺が教室に入ると、さっきまで騒がしかったものが、一斉に静まった。

 全員が俺を見ている。

 

 「おい、なんだあいつ」

 「幾つ?」

 

 一部で笑い声が上がるので、俺が軽く威圧した。


 『!』

 

 不良のたまり場なのかは知らんが、子ども連中だ。

 俺の威圧を浴びて笑えるわけもない。


 「猫神高虎だ。今日から転校した。よろしく」


 それだけ言って、一番後ろの廊下側の席に行った。

 座ってた奴を回し蹴りで弾き飛ばす。

 後ろのドアに突っ込んで動かなくなった。

 空いた席に座った。

 担任は何も言わずに出席を取って行った。

 まるで今の暴力に気付かなかった態だ。


 クラスの全員が俺を見ていた。

 何か言われるかと思ったが、誰も何も言わない。


 「おい、あいつ誰?」


 隣の男に俺が蹴り飛ばした奴のことを聞いた。


 「ボクシング部の花輪。このクラスを締めてた奴」

 「あいつが?」

 「そうだよ、君強いね」

 「あんなのと比べられてもなー」

 「ところで、君幾つ?」


 窓側にぶっ飛ばした。

 花輪よりも軽い。

 椅子から転げて、唸りながら立った。


 「18歳だよ! そう見えんだろうがぁ!」

 「ず、ずびヴぁぜん」


 なんか、「カエル」と言われるとぶっ飛ばす人の気持ちが分かった。

 ホームルームが終わり、数人が寄って来た。

 花輪は二人の生徒に抱えられて出て行った。


 「猫神さん、お強いんですね!」

 「どうして白ランなんです?」

 「背が高いっすよね!」


 俺は無視して聞いた。


 「ここで一番強い奴って?」

 「猫神さん、ヤるんすか!」

 「ああ」

 「間違いなく、《爆撃天使》の刈谷ですよ! 「総合(格闘技)」からも誘われてるスゲェ奴です!」


 他にもボクシング部の榊やら、剣道部の島津一剣とか聞いた。


 「部団連盟というのがあるんだ。あそこに睨まれると大変だよ」

 「へぇー」


 この高校のまともな生徒たちと聞いているのだが。

 まあいい。


 俺は教室を出て、校内を歩き回った。

 事前に構造は把握しているが、実際にも歩いて確認した。

 教室を出ている生徒はいない。

 一応はみんな大人しく授業は受けるようだ。

 不良じゃねぇじゃん。

 グラウンドは見てもしょうがない。

 建物の中を見て回った。

 授業なぞ、最初から受けるつもりもねぇ。






 「なんだ、ここは?」


 広い建物が、校舎からの渡り廊下で繋がっていた。

 六角形の結構金の掛かった建物だ。


 《集会場》と掲げてあった。

 

 ドアを開けて入ると、大きなソファセットが幾つも置かれていた。

 床にはタイルカーペットが敷き詰めてある。

 まるで集会をやるスペースには見えない。

 キャバクラのイメージが近いか。

 ボックス席じゃねぇが。

 照明は普通の蛍光灯だったし。

 壁には棚が置かれ、何本もの酒瓶が並べられている。

 グラスの棚もある。

 隅のゴミ箱には空き瓶やつまみにしたかスナック菓子の袋が幾つもあった。

 ここで酒盛りをしているのだろう。

 どこのチームだろうか。

 相当勢力のある連中に違いない。

 

 別な渡り廊下で、体育館へ行った。

 体育館は普通に見えた。

 バスケットのコートが両脇にあった。

 球技の苦手な俺にはどうでもいい施設だ。

 併設して格技場があった。

 半分が畳で半分が板敷き。

 多分、空手と剣道か。

 星蘭高校はどちらも全国的に強豪らしい。

 他にボクシング場まであった。

 その奥に《部団連盟》と表札のある大き目の建物がある。

 なんだかよく分からないが、まだ入らなくてもいいだろう。


 渡り廊下の向こうに部活連の部室らしい建物がある。

 2階建てのもので、プレハブだ。

 俺が行くとどこも鍵が掛かっている。

 破壊しようかとも思ったが、まだ初日だ。

 部活動が始まったら押し入ればいい。


 集会場に戻って、昼までソファに横になって寝た。


 すやすや。

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