第2285話 「カタ研」無人島サバイバル Ⅳ

 上空から見ても、島の多くがあの黒いトゲに覆われているようだった。

 私たちは西側に着いたけど、そっちは本当に真っ黒だ。

 東側にはまだ緑の森が残っている。

 私は東側へ移動した。


 「あれは?」


 海岸から離れた森に、建物が見えた。

 

 「双子が言ってた、前に住んでいた軍人の家?」


 周囲に黒いトゲは無かったので、敷地の庭に降りてみた。

 鉄筋の2階建てのようだったけど、大分朽ちている。

 外観は薄汚れ、窓もほとんどガラスが割られていて、四角い穴になっていた。

 その窓から内部を覗いて見る。

 鉄製のデスクが幾つかあり、椅子が横倒しに床に転がっていた。

 床はコンクリートのむき出しだった。


 家のドアも半壊しており、そこから中へ入ってみた。

 黴臭さと僅かな腐臭。

 1階を見て回っていると、庭で物音がした。

 ガラスの無い窓から外を見てみた。


 「!」


 赤いトゲだらけの人間のようなものが何体も歩いていた。

 建物に近づいて来る。

 人間の体格だが、全身にトゲが生え、頭までトゲに覆われている。

 顔はトゲは少ないが、口が前に突き出して大きく耳まで裂けている。

 鼻は潰れたような形で口の上で空いた穴が見えた。

 目は大きいが今は半分閉じられているようだ。

 カメレオンを連想した。

 5体いた。


 「止まれ!」


 言葉が通じるのかは分からないが、私は叫んだ。

 止まらないので、地面に「震花」を撃つ。

 トゲ人間の足元の地面が吹き飛んだ。


 ギィィィエェェェ!


 トゲ人間が大きく叫んだ。

 耳を覆いたくなる気味の悪い響きだった。

 私は躊躇なく「槍雷」をトゲ人間に撃った。

 体表で霧散した。


 「てめぇ!」


 私は窓から外へ出て、空中から「ブリューナク」を放った。

 喰らったトゲ人間が爆散する。


 「ザマァ!」


 他のトゲ人間にもどんどん撃ち込んだ。

 庭が抉れ、1分もすると、トゲ人間たちはいなくなった。


 「気味の悪い連中だね」


 「花岡」が通じない。

 第3階梯の「ブリューナク」は有効だったけど、いつもの威力が減衰していた。

 私は不安を感じた。


 「みんなは大丈夫かな」


 すぐに飛んで戻ろうとした。


 「!」


 地面に突っ伏した。


 「なんだよ!」


 「飛行」が出来なかった。

 一体何が起きたのか!


 「不味い! これは不味いよ!」


 みんなが危ないかもしれない。

 「花岡」が使えない!

 私は家の中を探って、武器になりそうなものを探した。

 私はすぐに森に向かって走り出した。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 崖上までの移動は何事もなく済んだ。

 みんな緊張したまま歩いて来たので、思わず地面にへたり込んだ。

 遠くで爆発する音がした。


 「きっと亜紀ちゃんだよ!」

  

 ハーちゃんが叫び、私もそう思った。

 亜紀ちゃんもあの黒いトゲに襲われているのかもしれない。

 大丈夫だろうか。


 「柳ちゃん、ちょっと様子を見てくるね」

 「うん、お願い」

 「ルーは置いて行くから」

 「分かった。でも無理しないでね」

 「うん!」


 ハーちゃんが飛び立つ。

 地面にこけた。


 「アレ?」

 「どうしたの?」

 「飛べないよ!」

 「え!」


 そんな!

 ルーちゃんも試してみたが駄目だった。

 みんな何が起きているのか分からないで私たちを見ている。

 どうしようか、一瞬迷った。


 「柳ちゃん! 私、亜紀ちゃんを迎えに行くね!」

 

 ハーちゃんが行こうとするので止めた。


 「待って! 今は動いたら危ないよ!」

 「でも、きっと亜紀ちゃんも同じだよ!」

 「分かってる! でもちょっと待って! 確認しないと!」

 

 ルーちゃんもハーちゃんも泣きそうな顔をしている。

 心配なのだ。

 私は一度深呼吸をした。

 落ち着かなければ。


 「いい? まずは何が出来て何が出来ないか確認するの!」

 「え!」

 

 私は「花岡」の幾つかの技をやってみた。

 全然使えない。

 ルーちゃんもハーちゃんも試してみて出来なくて嘆いている。

 「オロチストライク」は少し出た。

 ルーちゃんたちもそれで希望が出来た。


 「宇宙の力が使えなくなったんだよ!」


 ハーちゃんがそういう解析をした。

 持ち前のスゴイ解析能力だ。

 うん、まだ冷静さを失っていない。


 「この島が、そういうものと切り離されたんだ。さっきまで出来たのに」

 「ここは危険だよ! ねえ、早く亜紀ちゃんを迎えに行こう!」


 私が二人を止めた。


 「二人はここでみんなを守って。ジョナサン!」

 「はい!」

 「あなたが今は頼りよ! 何とかここでみんなを守ってね」

 「うん、分かった。必ず守るよ」


 「ルーちゃん、ハーちゃん、ここでジョナサンと一緒にいて」

 「柳ちゃんはどうすんの!」

 「私は「オロチストライク」があるよ。亜紀ちゃんを助けに行く」

 「無理だよ!」

 「ううん、絶対に助けて連れて来るから」

 「柳ちゃん!」


 私は微笑んだ。


 「大丈夫、無理はしないよ」

 「絶対だよ!」

 「危なかったら戻ってね!」

 「うん、分かった」

 

 みんなが私を泣きそうな顔で見ている。


 「大丈夫だから! 絶対にみんなで帰ろうね!」


 笑って手を振って森へ向かった。

 亜紀ちゃん、待っててね。

 必ず助けるから!





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 森に入ると、途端に黒いトゲが襲い掛かって来た。

 ただし、動きはそれほど早くはない。

 余裕ではないけど、何とか避けることが出来る。

 朽ちた家にあった暖炉の火掻き棒を持ってきた。

 それで黒いトゲを叩き落すことが出来る。

 もう一つ錆びた鉈も持ってきた。

 腰に紐で吊っている。


 私はなるべく木が密集していない場所を進んでいる。

 でも地面にも這っている時もあるので、要注意だ。

 みんなは無事だろうか。

 考えると集中を欠くことに気付いて、考えるのを辞めた。

 今は目の前のことに集中しなければいけない。

 森を時速10キロほどのスピードで進んだ。

 「花岡」が使えないことは厳しいが、日頃の鍛錬をしている。

 普段はもっと速くも走れるのだが、今は黒いトゲを避けながらなので遅くなっている。

 みんなの場所まで20分以上かかるだろう。

 でも絶対に負けないぞ!




 自分に並走している者がいることに気付いたのは、走り出してから10分程度経ってからだ。

 分かっている。

 さっきの赤いトゲ人間たちだろう。

 何人いるか。

 ああ、タカさんや聖さんなら簡単に分かったんだろうけど。

 タカさんの顔が浮かんで、涙が出そうになった。

 絶対にこんな所で死ぬわけにはいかない。

 必ずみんなで生きて帰る。

 どうしてこんなことになったのかは、どうでもいい。

 段々自分が目の前に集中できることが嬉しくなった。

 タカさんも聖さんも、こんな死地を何度も乗り越えたに違いない。

 私も必ず乗り越える。


 徐々に、並走する気配が濃厚になって来た。

 近づいているのだ。

 もう私は「花岡」が使えない。

 じゃあ、どうやって戦うか。

 「花岡」が使えなくなったのは何故?


 多分、地球や宇宙のエネルギーを使えなくなったんだ。

 この島が特殊なのだ。

 地球から切り離された。

 それしか考えられない。

 それはどうして?

 

 前に道間家でタカさんがクロピョンに結界を作るように命じたことを思い出した。


 (妖魔の結界か!)


 走りながら私は考える。

 私たちの「花岡」を見て、その力を解析したのだろう。

 だから結界の中に閉じ込めた。

 でも、さっきまでは確かに使えたのに。


 (私がトゲ人間を斃したことか!)


 多分あの時だろう。

 あ、それ以前に海でも使ったっけ。

 あの時から解析されていたか。

 私が「ブリューナク」を撃った直後に全く使えなくなった。

 解析を終えたということだ。


 気配が一段と濃くなる。

 火掻き棒を握り直した。

 

 「来い!」






 獰猛に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る