第2283話 「カタ研」無人島サバイバル Ⅱ
5月10日。
私たちは、早朝に家を出た。
今回は竹芝桟橋から直接出発するので、そこを集合場所にしている。
ルーが特別な離陸許可まで手配した。
やるなー。
私たちはみんなで柳さんのアルファードに乗って行った。
柳さんと私、双子と、真夜が真昼も連れて来た。
食事は現地調達なので、基本的に着替えだけで荷物は少ない。
一応、お鍋を一つだけと使い捨ての食器くらいだ。
双子は鍋もいらないと言っていたが、やっぱり汁物くらいは食べたい。
食器も清潔な物がいい。
ルーとハーは不満そうな顔をしていたが、何とか説得した。
埠頭には既に全員が集まっていて、飛行艇も待機していた。
操縦士の清瀬さんが挨拶に来る。
「部長の御堂柳です。今回はどうぞよろしくお願いします」
「いや、こちらこそ。これだけ大きな飛行艇を自由に使わせてもらえて、本当にありがたい」
全員で清瀬さんに挨拶した。
みんなで荷物を積み込んでいく。
「パレボレ、随分と荷物が多いな」
着替えだけでみんなそれほどの荷物は無かったが、パレボレは大きなリュックを背負っていた。
恐らく100リットルは入る登山用の超大型だ。。
「はい、亜紀さん! あの、念のために飲料水だけでもと思いまして」
「おい、現地でなんとかするぞ? 一応湧き水もあるんだから」
「すいません。万一と言うことも考えまして」
「そうか、分かった。でも、ルーとハーにはなるべく見つからないようにね。何しろ張り切ってるから、機嫌を損ねるかもだよ?」
「はい! 亜紀さん、ありがとうございます!」
「いいって」
重い荷物なので私が持ってやった。
パレボレが嬉しそうに礼を言っていた。
全員の荷物を積み、いよいよ出発となった。
安全のために座席のシートベルトを締め、清瀬さんがエンジンを掛ける。
最初はゆっくりと水面を動き出し、次第にスピードが出てくる。
みんな窓の外を見ていて興奮してくる。
機体が傾いて、水面を離れた。
みんなが楽しそうに歓声を挙げた。
「3時間くらいで着きますから」
飛行艇は海を進み続ける。
安定飛行に入り、みんなシートベルトを外した。
広大な海原をみんなで眺める。
ルーとハーがコーヒーをみんなに配った。
「文化的なものはここで最後だからね!」
「味わって飲んでね!」
みんなで笑いながらコーヒーを飲んだ。
サバイバルキャンプだとは分かっているが、私たちがいるので食糧は問題ない。
今回島には野生動物は少なそうだが、海の幸は豊富だ。
ルーが折り畳みのテーブルを立てて、島の地図を拡げた。
「島の名前は《黒神島》です」
「ちょっとコワそうな名前だね」
上坂さんが笑って言う。
「昔、お金持ちの人が住んでいたこともあるみたいだけど、もう80年以上誰も住んでません」
「島は東西に20キロ、南北に6キロのちょっと横に長い形です。中心は標高111メートルの低い山があります」
「島の中央付近は森林になってますよー。でも動物はいないみたいですー」
「一応家はあるけど、もう古くて使えません。夜は自分たちで用意しないと寝る場所もありません」
「みんな、がんばー」
「記録では湧き水と井戸もあったようです」
「湧き水はともかく、井戸はダメだろうねー」
「いざとなれば、海水を蒸留しますよー」
「みんな、がんばー」
みんなで拍手した。
事前にサバイバルの技術はみんなで勉強した。
今回はベテラン(?)のルーとハーが指示を出すはずだ。
「資料には無かったけど、住んでいた人ってどういう人なのかな?」
「私たちも調べたんですが、軍閥の家の人で、何かの研究をしていたみたいですけど、何の研究かまでは分かりません」
「そうかー」
みんな大して気にはしていない。
ただ、楽しみなので何でも知りたいってだけだ。
分からなくても別にいい。
双子がどうやってこの島を見つけたのかと言えば、東京に近い無人島を探したということだった。
でもネットで探しても、本当の無人は無い。
二人は「無人島ハンター」という詳しい人と連絡を取って話を聞いてきたようだ。
そしてその人も行ったことは無いそうだが、近くを船で通ったことがあり、緯度経度を記録して法務局で確認したそうだ。
現在は国有地になっていて、立ち入り出来ないことを知った。
だから双子は御堂さんに頼んで、立ち入り許可を得た。
タカさんが、あんまり面倒を掛けるなと言ったが、笑って許してくれた。
御堂さんが少し調べてくれ、先ほどルーが言った軍閥の人の所有地だったことや、研究の話も聞けた。
大分古かったが航空写真もあり、島の概要も分かった。
ただ、80年も前のものなので、今は変わっているかもしれない。
まあ、何とかなるだろう。
いよいよ島が近づき、みんなシートベルトを締める。
清瀬さんが丁寧に着水させた。
ルーとハーがゴムボートを外に出す。
放り出すと圧縮空気が膨らませる仕組みだ。
すぐに10人乗りのゴムボートが2艘拡がった。
一度飛行艇にロープで固定し、みんなで荷物をボートに移していく。
揺れるボートの上で、みんな楽しみながら荷物を積んだ。
ロープを解いて清瀬さんに合図した。
「じゃあ、2日後に! ありがとうございました!」
「みんな気を付けてなー!」
私たちが離れるのを待ってから、飛行艇が飛び立った。
みんなで見送り、ボートを漕ぐ。
島まで500メートルほどだ。
周辺は遠浅なので、飛行艇は離れた場所に着水していた。
私たちならば、500メートルなど、何のことも無い。
私と柳さんで一艘、ルーとハーでもう一艘をオールで漕ぐ。
「アレ? 島も周辺の海岸もなんか黒いね?」
上坂さんが双眼鏡を覗いて言った。
私は背を向けているので分からない。
そのままグングン近づいて行く。
「おい! なんか海の中に黒いものが一杯だぞ!」
坂上さんが叫んだ。
気になったので、一度柳さんと漕ぐのをやめて前を向いた。
「!」
島の周辺の海が黒いトゲのようなもので覆われていた。
太さは20ミリから30ミリの茎のようなもので、太いバラの枝のようだ。
先端が尖っていて、胴体にも一杯トゲのようなものがある。
「なんだ、あれ?」
「とにかくゆっくり近づいてみましょう」
ゆっくりとボートを漕いで島に近づいた。
ルーとハーにも叫んで知らせる。
島の近くまで来て、黒いトゲのようなものは、何かの海藻のようなものだと分かった。
オールで触ってみると、結構硬そうだ。
島の海岸近くまで繁殖している。
「亜紀ちゃん! これ、ぶっ飛ばそう!」
「うん!」
ルーに言われて、海に「虚震花」を撃った。
もちろん手加減する。
幅50メートルが吹っ飛び、水しぶきと共に黒いトゲもぶっ飛んだ。
「じゃあ行こう!」
またボートを漕いで行った。
「おい! 近づいて来るぞ!」
坂上さんが叫んだ。
私も海を見ると、黒いトゲがどんどん迫って来る。
「柳さん!」
「分かってる!」
必死に漕いで、ルーたちも気付いて急いで漕ぐ。
パンパン
ボートに黒いトゲが触れて空気が漏れて行った。
私は咄嗟に海に入って、ボートを引っ張る。
柳さんも飛び降りた。
ルーとハーも同じことをしていた。
「急いでぇー!」
凄い速さでボートを引っ張り、何とか無事に海岸に上がった。
ボートのエアがグングン抜けていく。
ボートは最後はただのビニールのシートになっていた。
みんなで荷物を押さえて、荷物は無事だった。
「なんなのよー!」
全員無事だったが、とんでもない場所だった。
「おい、アレ……」
坂上さんが島を見て呆然としていた。
私たちも見た。
木々はあったが、すべてあの黒いトゲのようなもので覆われていた。
地面にもずっとうねっている。
「おい、これって不味いんじゃないか?」
「「……」」
双子も立ち尽くしていた。
あまりにも想定と違い過ぎる。
なんだ、ここ……
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