第2281話 院長夫妻と蓮花研究所 Ⅷ
静子さんは子どもたちと一緒にいた。
訓練を見学し、少しご自分でも「花足」を練習された。
「花岡」の型も幾つか子どもたちが教え、疲れない程度に楽しんでおられた。
俺たちが行くと、テーブルでお茶を飲んでいた。
「あら、終わりましたの?」
「ああ。ここにいたのか」
「ええ、みなさんの訓練を見ていました」
「うん」
今は子どもたちとブランが混合チームでデュールゲリエと集団戦をしていた。
普段あまり一緒にいない人間同士で即席のチームを作る。
俺たち「虎」の軍はまだまだ人員が足りない。
そして通常の軍隊のように、組織だった構造が無い。
一般の軍隊は陸軍、海軍、空軍などに分かれ、その中で更に機甲師団だの歩兵だのの専科に分かれる。
多少の移動はあるが、兵士は専門化していて各々高度な技能を身に着けて行く。
俺たちにはまだそれが無い。
もちろんある程度の専門はあるが、「ソルジャー」といういわゆる歩兵のような者たちだ。
その代わりにソルジャーは恐ろしく強い連中が多い。
「花岡」の上級者ばかりだからだ。
他にも工兵的な人間たちもおり、「タイガーファング」の操縦や「皇紀通信」の通信兵もいる。
だが、まだまだ戦力の専門化が出来ていないので、悪く言えば寄り合い所帯だ。
今はそれで仕方がない。
アラスカの千石によって仕上がったソルジャーはどんどん増えている。
ここ蓮花研究所のブランたち。
千万組。
斬の「花岡道場」の一部。
「紅六花」たち。
稲城会や神戸山王会、吉住連合からは今後志願兵が増えて行くだろう。
最強の石神家本家。
同じく最強の聖の「セイントPMC」。
国内限定だが、「アドヴェロス」と自衛隊の「対特」。
そしてうちの子どもたち。
聖と石神家本家を除けば、うちの子どもたちが最大戦力だ。
幾つか戦場を経験しつつある。
これだけの寄り合い所帯なので、俺は敢えて幾つかのグループを組み合わせて戦場に出している。
現状ではそうやって互いのグループで共同作戦をやっていくしかない。
だからここでも子どもたちをブランたちに組み込んで戦闘訓練をさせている。
通常の訓練に慣れた連中にはうちの子どもたちは異物になるが、それでも何とか組み上げていくしかないのだ。
今はルーとハーが分かれてそれぞれのグループの司令塔になって指示を出している。
ブランたちは齟齬無く戦っている。
命令や指示に従うことに慣れているので、非常にいい感じだ。
静子さんが院長に話していた。
「みんな頑張っているんですよ」
「うむ」
院長たちが訓練を見ていた。
決してお二人が見て面白いものではない。
興味の無い人間が、野球観戦をするようなものだ。
ただし、野球と違うのは命がけの戦いのために俺たちがやっているということだ。
それが分かる人間は、真剣に見ざるを得ない。
意味は分からなくとも、そこにいれば目を離さずに見つめるだろう。
「私には何も出来ないんですね」
静子さんが言った。
「そうでもない。俺たちは一緒に戦えないが、あの子らの力になってやることは出来るよ」
「そうですね」
お二人が笑っていた。
「静子さんは院長を支えてあげてください」
「はい」
「それと」
「なあに?」
「俺に親孝行をさせてください」
「まあ!」
「お願いしますね」
「ウフフフ、嬉しいわ」
「はい!」
三人で笑った。
「それと」
「まだあるの?」
「時々、静子さんの料理を食べさせて」
「アハハハハハハ!」
静子さんが大笑いした。
院長も驚きながら笑っている。
「それは任せてね。いつでも作るわ」
「お願いします!」
院長が嬉しそうだった。
静子さんが嬉しそうだと幸せになる人だ。
子どもたちが訓練を終え、昼食にした。
昼食はブランたちとは一緒でなく、いつもの食堂で食べた。
蓮花が松花堂弁当を用意しておいてくれた。
院長たちにも食べやすいはずだ。
もちろん子どもたちは別途肉だ。
面倒なので、自分たちで肉は用意させている。
蓮花の松花堂弁当はどの器も美味い。
ジェシカは初めてのようで、盛り付けの美しさに感動していた。
響子も初めて食べる。
弁当自体がほぼ初めてだろう。
珍しさもあって、喜んでいた。
六花も機会がないので、肉はそれほど食べずに松花堂弁当に夢中になった。
吹雪と二人でニコニコして食べる。
院長も喜んでいた。
「会合で食べるのとは全然違うな」
「愛が違いますからね!」
「オホホホホホ!」
みんなが笑った。
「こういうお弁当は久しぶりだわ」
「ほら、院長!」
「おう、なんだ?」
「今度、歌舞伎座へ連れてってあげて下さい!」
「お、おう!」
「まあ!」
蓮花が、時々ブランたちとハイキングに行くのだと言った。
「石神様の御提案でした。お外で食べるお食事は、また格別でございます」
「なるほど!」
蓮花が焼き芋などもいいのだと話した。
「ああ、子どもの頃に食べたなぁ」
「じゃあ、今度、お庭でやってみましょうか」
「そうだな!」
お二人が嬉しそうに笑っていた。
ルーとハーが、前に便利屋に教わった方法をお二人に教えていた。
両端を切るだとか、濡れた新聞紙にくるむのだとか。
静子さんが嬉しそうに笑って聞いていた。
「じゃあ、やる時にはうちに来てくれる?」
「「うん!」」
まあ、薪なども必要だろうし、双子を派遣するか。
夕飯をご馳走になって、却って迷惑になるだろうが。
祖父母のいない双子にとって、院長夫妻がやはりその代わりなのだ。
思い切り甘えられる大切なお二人だ。
昼食を食べて、俺たちは帰りの準備をした。
みんなに見送られ、ハマーに乗り込んだ。
「石神、楽しかった。ありがとうな」
後ろのシートで院長が言った。
「いえ、騒々しくてすみませんでした」
「いや、本当に楽しかったぞ」
「石神さん、ありがとうございました」
「喜んでもらって良かったですよ」
連れ回してしまい、申し訳なかったが。
「楽しかったし、お前のやっていることも見せてもらった。本当にありがとう」
「いいえ、これからもお願いしますね」
「もちろんだ」
院長は明日までが休みで、俺は三日後までだ。
「お前はまだしばらく休むんだよな?」
「ええ、すみません。俺は聖に会いに行きます」
「そうか。他の子どもたちは?」
「皇紀はトルコのパムッカレですが、他の4人は「カタ研」の合宿ですね」
「そうかぁ。それも楽しそうだな!」
「あー、何でも無人島へ行くらしいですよ?」
「無人?」
まあ、想像も出来ないだろう。
俺もどうしてそうなったのかは理解出来ない。
「前にルーとハーがメキシコ沖の無人島まで漂流しましてね」
「ああ、前に聞いたな」
クロピョンにぶっ飛ばされてだ。
「それで、「カタ研」の連中が興味を持って」
実際はそそのかされて。
「みんなで行くみたいですよ」
「お前は行かないのか?」
「冗談じゃないですよ!」
冗談じゃねぇ。
あんなバカみたいな真似が出来るか。
「おい、ルー!」
助手席のルーに言った。
「はーい!」
「若い男女なんだ。全裸にはなるなよな!」
「大丈夫ですよー」
「ほんとかよ」
まあ、亜紀ちゃんも柳もいる。
他のメンバーも常識はあるだろう。
止めてもらいたいものだ。
「ハーも頼むぞ」
「大丈夫だよ!」
院長と静子さんに挟まれたハーがニコニコして言った。
こいつら、悪魔だからなー。
知らねぇ。
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