第2259話 院長夫妻と別荘 Ⅱ

 別荘に着いて、2時半になった。

 みんなで大歓迎し、ロボが大好きな静子さんに甘えた。

 お二人を部屋へ案内し、少しゆっくりしていただく。

 3時のお茶の用意をし、双子に呼びに行かせた。


 グラマシーニューヨークの杏仁豆腐とダージリンの紅茶を淹れた。


 「随分と広い別荘だな」

 「後でご案内しますよ。ここは何もない場所なので、のんびりして下さい」

 「ああ」


 院長たちはグラマシーニューヨークの杏仁豆腐は初めてなので、感動して召し上がっていた。


 「ここは中山さんに管理してもらうために建てたんだよな」

 「はい。管理はちゃんとやってくれますし、拡張工事なんかで随分とお手数をお掛けしました」

 「まあ、一時は財産をなんて言っておられたものなぁ」

 「そうでしたよね。焦りましたよね」

 

 俺と院長で笑った。

 院長は静子さんに当時の話をする。


 「まあ、石神さんは若い頃から大変ね」

 「本当にねぇ。でも今じゃこいつらと毎年来てますからね。良かったんですよ」

 「お前が毎年一人で来ていたよな」

 「はい」

 「帰って来ると、何だかスッキリしていてなぁ。何なのかと思っていたぞ」

 「そうだったんですか!」

 「お前はのんびりするなんて性格じゃ無かったからぁ。俺たちも心配していたんだ」

 「なんですか!」


 別荘を建てる前に、一度だけ一緒に旅行でも行くかと誘われた。

 当然、気を遣うので断った。


 「一度旅行に誘われましたよね?」

 「そうだよ。お前をのんびりさせたくてな」

 「冗談じゃないですよ! 院長と一緒でのんびりなんて出来るわけなかったでしょう!」

 「お前! そうだ、お前酷い断り方をしたよな!」

 「そりゃそうですよ」


 静子さんがどう言われたの聞いた。


 「本物のゴリラと行った方がましとかな。それとお前と二人なら問題ないとかよ!」


 みんなが笑った。


 「じゃあ、石神さんと一緒に行けば良かった」

 「お前なぁ」


 お茶を飲んで、院長と静子さんを案内した。

 それほどのものはない。

 ウッドデッキと風呂場くらいだ。

 お疲れだろうから、外へは案内しない。

 部屋で休んでもらうように言った。


 「夕飯にはお呼びします。5時くらいです」

 「ああ、分かった」

 「別荘はご自由に観て下さい。でも屋上だけは行かないように」

 「なんだ?」

 「特別な場所なんですよ。暗くなってからご案内します」

 「そうなのか。じゃあ、のんびりさせてもらおう」


 ルーとハーがお二人を部屋へ連れて行き、そのまま帰って来なかった。

 何かお二人を楽しませる話でもしているのだろう。

 俺は響子と六花を連れて散歩に出た。

 亜紀ちゃんと柳は庭で鍛錬。

 皇紀はアラスカや連関研究所、フィリピンやパムッカレなどと連絡し、色々と打ち合わせや指示を出していた。

 

 響子は電動移送車に乗っている。

 時々俺と六花で響子のお尻を撫でた。


 「やめてよ!」

 「お前は電車で痴漢に遭うこともないからな」

 「なんでよ!」

 「たまには味わえ」

 「やだよ!」


 六花が笑った。


 「そう言えば、前に痴漢電車ごっこ、しましたね!」

 「そうだな!」

 「もう!」


 倒木の広場でのんびりし、帰りはまた痴漢ごっこをした。

 響子はパンツも脱がされ、怒っていた。





 子どもたちが、夕飯の準備を始める。

 今日は海鮮バーベキューだ。

 響子は六花と映画を観始める。

 院長たちも降りて来て、一緒に観た。

 ロボも一緒だ。


 『猫侍』だった。


 夕飯の支度が出来、みんなでウッドデッキに出る。

 いつものように子どもたちは肉の饗宴から始めるが、今日はすぐに終えて、みんなで海鮮を味わった。

 院長と静子さんも伊勢海老やホタテを喜んでくれる。

 双子がお二人のために、海鮮を用意していく。


 「このスープが美味しいわ」

 

 静子さんが貝を中心にした海鮮スープを褒めた。

 

 「あのね、干した食材で出汁を採ってるの!」

 「鮑とか海老とかね! それと干しシイタケ!」

 「へぇー、そうなの。大変ね」

 「「全然!」」


 双子が嬉しそうに静子さんに説明していく。

 院長も楽しそうに聞いている。

 いつもは俺がお二人に焼き上がった物を渡していくのだが、今日は双子がやっていた。

 ゆっくりと召し上がる二人のペースに合わせて、お好きそうなものを焼いて渡していく。

 俺は響子と吹雪に喰わせていく。

 六花がニコニコして俺を見ていた。


 「お前は自分で焼けよ」

 「はやくー」


 俺は笑ってホタテのバター焼きを六花にやった。


 「吹雪、美味しいね!」

 「うん!」


 響子と笑った。


 食事を終え、院長たちを風呂へ案内した。

 一緒に入るのに抵抗するかと思ったが、何も言わずに二人で脱衣所に入った。

 院長たちが出て、子どもたちが片づけをしている間に俺と響子、六花、吹雪で入る。

 吹雪がいるので長風呂はせず、片づけを終えた子どもたちと交代する。

 リヴィングにいる院長たちに声を掛けた。

 もう寝間着に着替えてもらっており、お二人は浴衣だった。


 「石神、素晴らしい風呂だな!」

 「そうですか。本当は夕暮れ時が一番綺麗なんですけどね」

 「そうか。でも少し観れたぞ」

 「はい」


 夏場であれば夕暮れも遅いのでのんびり観て頂けるのだが。

 他愛無い話をしていると、子どもたちも風呂から出て来て、すぐにつまみを作っていく。

 今日は海鮮が結構あるので、それを使って行った。

 

 トリガイの甘辛煮。

 エビのオーロラソース。

 各種刺身。

 マグロとアボカドサラダ。

 海鮮鍋。

 唐揚げ(いつもの獣用)。


 みんなで屋上へ運ぶ。

 院長と静子さんを先頭に。


 ドアを開けて頂いた。


 「石神!」

 「これは素敵ね!」


 お二人が喜んでくれた。

 双子が押して席に付いてもらった。


 「お前の家のあそこか……」


 院長が息を呑んで感動してくれた。


 「ここの空間を少しでもと思ったんですけどね。でも、やっぱりここが最高です」

 「そうだな」


 周囲は街灯もなく、まったくの暗闇だ。

 そうでなければ、このガラスの閉鎖空間は本当には味わえない。

 暗闇の中にある、俺たちの居場所。

 そういう感覚が存分に味わえる。

 飲み物を配り、しばらく全員で雰囲気を感じた。

 ロボは静子さんの足元で寝そべった。


 「文学ちゃんは、ペットは飼わないの?」


 ルーが聞いた。


 「いや、俺はあまり動物はなぁ」


 ロボが起き上がり、院長の背中に回って「やんのかステップ」を刻む。


 「あ! ロボが怒ってるよ!」

 「「やんのかステップ」が出ちゃったよ!」

 「文学ちゃん、すぐに謝って!」

 「え? あ、ああ! ロボちゃんみたいなカワイイ猫なら飼いたいよ!」


 「にゃう」


 ロボが静子さんの足元へ戻った。

 静子さんが大笑いしている。


 「そう言えば、随分と前にありましたねぇ」

 「おい、石神!」

 「なんですか?」

 

 亜紀ちゃんが聞いてくる。


 「院長、ほら」

 「おい、やめろ!」

 

 静子さんも思い出してクスクス笑った。


 「えー! 教えてくださいよー!」


 「あれはまだ院長が第一外科部の部長だった頃ですよね?」

 「石神! お前!」






 慌てる院長を尻目に、俺は語り出した。

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