第2245話 《デモノイド(Demonoid)》
地下深くのあの部屋。
いつもあの部屋へ行くのは憂鬱になる。
今日は独りではなかった。
5人の若者が一緒だ。
彼らは行き先を知っているにも関わらず、笑い合っている。
あの方の恐ろしさを知っているはずだ。
誰もが恐れ慄くはずが。
3メートルの巨大な一枚板の扉の前に立つ。
「開けるぞ。くれぐれも「業」様に失礼のないように」
「「「「「はい!」」」」」
流石に5人の若者も真剣な顔になった。
扉を開ける。
ノックは不要と言われている。
「業」様にはすべてお分かりになっていることだ。
無駄なことを御嫌いな方だった。
「「業」様。連れてまいりました」
「ほう、なかなか良い仕上がりだな」
全員が床に平伏している。
「業」様は一瞬で5人を見て取ったのだろう。
サハ・ハディドの巨大な椅子に腰かけたまま、「業」様は満足げに黒い霧を放射させた。
「はい、最高の素体に持てる限りのものを込めました」
「良く分かる。宇羅、よくやった」
「はい!」
先日、ブラジルのジャングルの《ハイヴ》が潰された。
国内ではエネルギーや資源が少ないために、海外にも《ハイヴ》を築いた。
それが早々に発見され、さらには破壊された。
石神たちの「花岡」の通じないはずの「妖魔ベトン」は簡単に突破された。
しかも、最重要施設である《ハイヴ》の防衛のための最強の妖魔が撃破された。
地獄から呼び出した、滅多なことでは敗退しないはずの者だったはずだ。
「《ハイヴ》はまだある。一つを喪ったからといって、何も終わるわけではない」
「ハッ!」
私の心を読んでおられる。
「業」様は5人を見て言われた。
「ふむ。まだ石神の子どもたちには届かないな」
5人のうちのセリョーガが顔を挙げて言った。
「「カルマ」様! 私たちにやらせて下さい!」
「黙れ! 「業」様に意見するな!」
私は慌ててセリョーガの顔を押し下げた。
「お前は自信があるのか」
「はい!」
顔を床に向けたまま、セリョーガが言った。
「石神に協力する警察の組織があったな」
「はい、「アドヴェロス」でございますね!」
私が返答した。
「確か、そこも5人の戦士だったな」
「はい!」
「ではまずはその5人を殺して来い。そうすれば認めてやろう」
「「「「「はい!」」」」」
そろそろ限界だ。
「業」様は愉快そうに、一層の黒い霧を噴出させている。
私は5人を連れて退出した。
廊下の突き当りのエレベーターに乗って、やっと大きく息を吸った。
「セリョーガ、無茶なことをするな!」
「アハハハハハ! あれくらい言っておかないと、「カルマ」様は俺たちを覚えてくれないでしょう?」
「そんなことはない。我々の全てを把握していらっしゃる方だ」
「へぇー。でも、「カルマ」様のお役に立ちたいのは本当ですよ?」
「そうか」
もちろん、そのようにセッティグしている。
だからこそ、一瞬で殺されることが無かったのだが。
「お前たち、身体に異常は無いか?」
「はい、どうしてです?」
「「業」様のあの黒い霧は、吸い過ぎると少々不味いことがある」
「ああ、知ってますよ」
「私もギリギリだった。息をしないわけにも行かなぬからな」
「俺たちは一呼吸もしてませんから」
「なに?」
「30分程度は呼吸を止められますよ。水中での戦闘やガスの攻撃もありますからね」
「なるほどな」
「ミハイロフ様に、そういう基本的な能力は与えてもらっています」
「そうか」
セリョーガ、スラヴァ、コースチャ、それに二人の女性ミーラとオーリャ。
ミハイロフが最高の素体で創り上げたバイオノイド。
それに更に私が妖魔を埋め込み、更に様々な術を施した。
これまでのバイオノイド、またライカンスロープを大きく上回る最強の戦士だ。
他のバイオノイドとは違い、意志を残しておりそのために様々なことを習熟させられた。
武器の扱い、格闘術、操縦技術から言語習得や様々なその他の戦闘に繋がる知識や技術。
石神の有する桁違いに強い戦士たちに対抗するために開発された。
《デモノイド(Demonoid)》
そう名付けられた超戦士だ。
「まずは「業」様から直接標的を示されたことに感謝しろ」
「分かってますよ。でも、相手は人間なんでしょう?」
「そうだ。しかし、相手もそれぞれ特殊な能力を持っている。最も注意すべきはイソラ・ジングウジだ」
「どんな奴です?」
「見えない刃を使う。ビルも妖魔も切断する奴だ」
5人が一斉に口笛を吹く。
驚いてはいるが、全く恐れていない。
居室に戻り、セリョーガたちに記録の映像を見せる。
「よほどの妖魔でも、イソラの攻撃は防げない」
5人は笑いながらモニターを見ている。
ミーラとオーリャが淫蕩な顔で磯良を眺めていた。
男でも惚れそうな美少年だ。
「これはアイリン・リー、中国人だ。この女は元は我々の配下だった。妖魔を埋め込まれたのだが理性を残して我々を裏切り、更に進化した」
「進化?」
「詳細は分からない。しかし妖魔を超える亜神とも呼べる存在をイソラと共に斃した。我々が埋め込んだ妖魔とは別なものに変身した」
「良く分かりませんが、いい女ですねぇ」
今度はセリョーガたちが卑しい笑みを浮かべていた。
全員がサディズムの性癖を持っている。
男でも女でも、こいつらに捉えられれば地獄を味わうだろう。
「サギリは剣術だ。離れた敵を粉砕する技を持つ。クズハは拳法。触れれば敵を爆砕する。カブラギは新しい人間だが、射撃の才能が高いらしい」
「その3人は大したことはありませんね。見れば分かる」
「獲物としても興味ないわ」
ミーラたちが興味無さそうな顔をした。
「最後にこいつだ。クオン・サオトメ。「アドヴェロス」の指揮官だ。いいか、こいつには手を出すな」
「どうしてです? 最高の獲物でしょう」
「こいつはなかなかいいわ。セクシーな顔をしてる」
「アレも良さそうね」
「よせ!」
大きな声を出したので、5人が私を見る。
「こいつには不思議な能力がある。得体の知れない能力で、訳も分からないままに相手を殺す。どういう能力か分からないうちは、絶対に手を出すな」
「ウラ様、そんなもの、幾らでも手はありますよ」
セリョーガが言った。
多分、5人がそれぞれに有効な戦略を立てているのだろう。
「やめろ。マシンガンで襲われても、全ての弾丸が停止するのだ」
「え?」
「分からないだろう、だから今は手を出すなと言っているのだ」
「へぇー、面白いですね」
「爆発物はどうなのかしら?」
「以前に目の間でガスタンクを爆破させた。サオトメは無事だった」
「まあ!」
ミーラが嬉しそうに笑った。
「それよりも、標的のイソラとアイリンに気を付けろ。こいつらは「業」様の命で必ず仕留めなければならない」
「まあ、お任せ下さい。楽しんで来ますよ」
「……」
《デモノイド(Demonoid)》の自信は、過剰なわけではない。
既に敵を斃す算段は付いているのだ。
それは間違いなく達成されるだろう。
余裕を見せているような態度だが、実際には冷静に計算している。
顔に漂う笑顔は、単に相手を油断させるためのものだ。
思い上がって足を滑らせる若造と思わせる。
ジャイアント・キリングが出来る連中だった。
翌日、《デモノイド(Demonoid)》たちは中国経由で日本へ渡った。
石神、見ていろ。
そして悔しがって泣け。
我々は準備し、仕上げたのだ。
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