第2223話 久し振りの御堂家 Ⅳ
夕飯は当然、庭でバーベキューだった。
肉は俺が梅田精肉店に頼んで運んでもらっている。
御堂家では野菜などの食材を頼んだが、やはり海鮮などが結構用意されていた。
俺が好きだからだ。
おでんにしてもらえば良かったぁ。
本当に申し訳ない。
最初は正巳さんが嬉しそうに獣のバーベキュー台を取り仕切り、獣たちに肉を焼いて食べさせる。
もちろん子どもたちも了解していて、楽し気に争うが、本気ではない。
そして柳に活躍を譲っている。
俺は海鮮をメインに、御堂家の方々に食べてもらえるように焼いた。
正巳さんが満足して戻って来る。
俺は伊勢海老を焼いて、「宮のたれ」で召し上がってもらった。
「おお、美味いね!」
正巳さんが喜んでくれた。
澪さんに「宮のたれ」を大量に渡してある。
今後、いろいろと活躍するだろう。
子どもたちが本格的に争い始めた。
正巳さんが楽しそうに眺めている。
「亜紀ちゃんが強いねぇ」
「まあ、一番ヒマでしてね。ガンガン鍛錬をしてるんですよ」
「柳はもう一つだな」
「俺がいろいろ用事を頼んでますんでね。でも努力家なんで、もっと伸びますよ」
「そうかね!」
俺は皇紀と双子が亜紀ちゃんに対抗するために「三連星」の技を編み出した経緯を話した。
みんなが笑った。
「しばらくね、亜紀ちゃんが仲間に入れてもらえないで落ち込んでたんですよ」
「そりゃ可哀想だ」
「まあ、技を完成させるまでは秘密でしたからね。あ、出ますよ」
皇紀が突撃し、双子が同時攻撃を仕掛ける。
もちろん技にはバリエーションがあり、亜紀ちゃんもかわしにくい。
今日は正面と両サイドからの同時攻撃だった。
亜紀ちゃんのタイミングが合ったか、三人がぶっ飛ばされる。
「ああ、今日は失敗しましたね」
みんなが笑っていた。
「木村、ちょっと一緒に行くか!」
「はい!」
木村が笑って付いて来た。
俺がいるので、5人が緊張する。
「来い!」
5人が俺に向かって来た。
俺は木村を空中に投げた。
50メートル上がる。
「え! トラさーん!」
亜紀ちゃんのハイキックを皇紀の頭を掴んで浴びせ、両サイドの双子の攻撃をバックステップで空を切らせた。
その腕を掴んで捻って亜紀ちゃんに投げる。
両手で防いだ亜紀ちゃんの腹に前蹴りをぶち込み、吹っ飛ばした。
体勢の崩れて着地した双子にそれぞれフックを入れて沈める。
後から突っ込んできた柳の頭をポンポンし、大外刈りで地面に転がした。
落ちて来た木村を拾い、起き上がった亜紀ちゃんに俺がスイングで振り回した木村の脚を浴びせた。
またぶっ飛ぶ。
「ほら、木村!」
俺は笑って木村に焼けた肉を喰わせた。
「トラさん!」
「ワハハハハハハハ!」
「アハハハハハ!」
木村も笑った。
席に戻ると、正巳さんたちが拍手をしていた。
「見事なもんですな、石神さん」
「まあ、親父としては負けられませんで」
子どもたちがまた元気に争い始める。
「大渕さん、行きますか?」
「いや、とんでもない!」
みんなが笑った。
やはり亜紀ちゃんが優勢だ。
半分は喰われているだろう。
今日の亜紀ちゃんは随分とノッている。
「柳ちゃん! 催眠術って使えないの?」
ハーが叫んでいた。
「えー! あんまり人に使うのは」
「亜紀ちゃんに30秒だけ!」
「このままじゃ半分喰われるよ!」
「うーん」
動いている相手に催眠術もないだろうと思っていたが。
柳が亜紀ちゃんに向かって言った。
「あなたは私のお母さんになる! 3,2,1、ハイ!」
柳が手を叩いた。
亜紀ちゃんの身体が止まった。
「やったぁー!」
柳が喜んでいる。
他の三人も喜んだ。
すぐに肉を焼いてどんどん食べ始める。
俺たちも驚いて見ていた。
まさかと思った。
「はい、皇紀ちゃんどーぞ」
「!」
亜紀ちゃんが皇紀の皿に肉を置いた。
しかも優し気に笑っている。
澪さんだ。
「ルーちゃんとハーちゃんもどーぞ」
「「!」」
「柳、一杯たべさないねー」
「うん!」
俺は柳の所へ行って聞いた。
「おい、触れないで暗示を掛けられるのかよ!」
「はい、結構練習しました」
「すげぇな!」
「エヘヘヘヘヘ」
四人で肉をガンガン食べ、腹も膨れたようだった。
30秒と確か言っていたが、暗示を解く気は無くなったようだ。
酷い連中だ。
もう肉はほとんど残っていない。
まったく、情け容赦のねぇ連中だ。
「そろそろ解いてあげよっか」
「そうだね」
「あなたは亜紀ちゃんに戻ります! 3,2,1,ハイ!」
柳が手を叩くと、亜紀ちゃんが皇紀にやろうとした肉を摘まんだまま硬直した。
自分が信じられないことをしていると戸惑っていた。
無意識に肉を自分の口へ持って行く。
「!」
見回して、もう肉がほとんどなくなっていることに気付いた。
双子がニコニコしている。
「テッメエラ……」
低い声で唸るように亜紀ちゃんが呟いた。
「テッメェラァァァァァァーーーーー!」
亜紀ちゃんの怒りが爆発した。
どうやったか、四人が一斉にぶっ飛ぶ。
「あたしのお肉をどうしたぁー!」
「おい、落ち着け!」
「ゆるさぁぁぁん!」
尋常ではない状態なので、俺が止めようとしたがダメだった。
亜紀ちゃんの長い髪が拡がった。
不味い、ディアブロ・モードだ。
我を喪っている。
肉の大半を奪われた激怒と、暗示の反作用もあるのだろう。
「亜紀ちゃん! 御堂家での食事だ! 落ち着けって!」
俺の声は届いていない。
御堂たちも立ち上がっている。
「こっちへ来るな! 今はこいつ、手加減が出来ねぇ!」
たかが肉の話なのだが。
もう、十分に喰っているはずなのだが。
飛ばされた四人が戻って来て、亜紀ちゃんを必死で止めようとした。
一瞬でまたぶっ飛ばされた。
俺が本気で止めようと思った時、オロチが来た。
ズボッ
亜紀ちゃんが真上からオロチに呑み込まれた。
バーサーカーになった亜紀ちゃんが呆気なくやられた。
「!」
みんな呆然とそれを観ている。
ゲポッ
オロチが亜紀ちゃんを戻した。
「アレ?」
粘液でネトネトになった亜紀ちゃんが呆然としていた。
「おい、落ち着いたか!」
「あれ、私、どうして……」
「とにかく肉を喰え!」
「は、はい」
俺が残りの肉を焼いて、亜紀ちゃんに全部喰わせた。
澪さんが向こうのテーブルの肉も持って来る。
申し訳ない。
「美味しいですー!」
「そうかぁ!」
先ほどの激怒モードが嘘のように、亜紀ちゃんがニコニコしていた。
食い終わると、自分の惨状に気付く。
「アァー! ベトベトだぁー!」
オロチが大丈夫そうなのを観ていた。
「オロチ、ありがとうな!」
俺が笑って礼を言った。
ズボッ
「……」
ゲポッ
俺はまた全身を舐められ、解放された。
亜紀ちゃんもどうして自分がベトベトなのか分かった。
「風呂に行くか……」
「はい……」
双子に着替えを持って来るように頼み、亜紀ちゃんと風呂に入った。
なんなんだ、一体。
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