第2221話 久し振りの御堂家 Ⅱ
御堂家が近付き、柳を起こして電話させた。
御堂も起きる。
「ああ、眠ってしまったね」
「お前の寝顔にはいつもドキドキしてるよ」
「アハハハハハ!」
「石神さん、わたしは!」
「あ? ああ。そうだな」
「どうなんですかー!」
みんなが笑った。
御堂家の敷地に入ると、御堂が懐かしそうに眺めていた。
俺は、こいつにそんな顔をさせてしまうようになった。
申し訳ない。
御堂家の敷地に着くと、またみなさんが出迎えてくれていた。
オロチとニジンスキーたちもいる。
ガードのデュールゲリエたちもいる。
みなさんに挨拶し、オロチやニジンスキーたちの頭を撫でた。
「オロチ、元気そうだな」
突然オロチの頭が頭上に来て、全身を呑み込まれた。
ズボッ
「石神!」
御堂の声がくぐもって聞こえた。
全身を舌で舐められる。
ゲポッ
満足したか、放してくれた。
全身がベトベトになった。
全員が硬直して驚いていた。
「おい、いいスーツを着ている時には辞めてくれな」
オロチが嬉しそうに頭を振っていた。
「石神! 大丈夫か!」
「あ、ああ。新しい挨拶を覚えやがったなぁ」
「お前、本当に!」
「大丈夫だ。ちょっと風呂とクリーニングを頼む」
「ああ、分かった!」
今日はブリオーニのボーダーのパンツと白のシャツだった。
ネクタイはドミニク・フランス。
全身が臭った。
今後はコンバットスーツを着て来よう。
俺はベトベトになった服を脱ぎ、正利に風呂場に連れて行ってもらった。
手早くシャワーを浴び、亜紀ちゃんが用意してくれた着替えを着て座敷へ行った。
ほうとう鍋にしてもらっている。
丁度、大渕さんと木村も到着した。
大渕さんは東京での仕事を終え、木村の運転で来て貰っている。
二人とも、御堂の実家に泊まる予定だ。
「石神、大丈夫か!」
「ああ、問題ないよ。びっくりしたけどなぁ」
「ああ!」
ヘビの愛情表現なのだろうか。
全然知らんが。
とにかく、みんなでほうとう鍋をいただいた。
食事の後で、改めて土産を渡した。
正巳さんにはリシャール・ミル、菊子さんにはピアジェの宝飾の時計を。
正利にはロジェ・デュプイの時計を渡した。
「石神さん、こんなのは高級すぎる!」
「御堂総理の家族なんですからね。このくらいは当然ですよ」
御堂にはブレゲのトゥール・ビヨンを以前に渡して使わせていた。
「それに、後でもっと驚くものをお見せします」
「なにかね!」
「まあ、その時に。ちょっと凄いですよ?」
「そうかね、楽しみだ」
間違いなく驚いてもらえる。
みんなで建設中の都市に移動した。
まだ基礎工事も終わっていない部分も多いが、徐々に建物が建設されつつある。
パピヨンの設計だ。
御堂帝国の
ミトラ神は古代インドの古き神であり、人間を団結させ天上から悪を見据える神とされた。
「御」堂家と「虎」の軍の都市であることの意味はもちろんだ。
200キロにも及ぶ土地を機能化して都市にする予定で動いている。
中央にはヘッジホッグを建設し、日本の防衛の中核にもなる。
そして、都市の東に巨大なモニュメントが既に建設されていた。
都市建設において、真っ先に建てられたものだ。
俺も御堂も、その理由を知らなかった。
それは、百家の予言によって為されたからだ。
ニューヨークの静江さんが俺に連絡してきた。
「ミトラの祭壇を作って下さい」
「え?」
「その祭壇は最上部が直径200メートル、高さは50メートルの円形の台座です」
「はい?」
「中心に向かってなだらかな傾斜を。台座の四方に幅30メートルの階段、数十万トンの重量を支えられるようにし、外壁は……」
細かな指定があり、イメージ図まで後に送られて来た。
静江さんによると、予言で見せられたものであり、《御虎》には必要なものであるとのことだった。
しかし俺は、静江さんに都市の話もその名前の《御虎》も、まったく話していなかった。
というか、都市の名前はまだ御堂とも相談せずに、俺の中にしかなかった。
だから最優先で作った。
「Ω合金」で構造体を作り、堅固な台座にした。
外観は上部が開いたピラミッドのような構造だ。
外装はヒヒイロカネを薄く延ばしたもので覆っている。
またクロピョンに頼んだ。
その後、百家からも「虎」の軍のための大神事を執り行った際に、巨大な祭壇を作るべし、という神事が降ったという連絡が来た。
御神体の鑑に設計図のようなものが焼き付き、俺に送って来た。
だが、ずっと台座の上に何が置かれるのかは誰にも分からなかった。
静江さんも、そのイメージはまったく無かった。
そもそも、上部を言われたままの構造にしただけで、そこに何かが乗るとも想像していなかった。
「とにかく、途轍もないもののようです。私には分かりませんが」
「はぁ」
まあ、台座だけでも立派なものなので、このままでも良いと思うようになっていた。
俺のハマーに御堂、正巳さん、菊子さん、澪さん、柳、正利、大渕さん、木村、ロボ。
あとはジェイたちに迎えに来て貰い、ハンヴィに乗り込んだ。
パピヨンも呼んでいる。
俺がスゴイものを見せるという話しかしていない。
先に待っていたパピヨンと挨拶し、全員で階段を上った。
御堂だけはダフニスとクロエと一緒に、反対側から上らせる。
みんなが何事が起きるのかと、俺を見ている。
「ダフニス、クロエ! 衝撃があるかもしれない! 御堂を護ってくれ!」
「「分かりました!」」
俺は全員を数段降りさせ、俺一人が階段の端に立った。
両手を前に突き出す。
意識を集中した。
眩い光が拡がり、台座の中心にアレが現われた。
光が納まって、すぐにみんなが上に見に来る。
「「「アァァァァーーーー!」」」
亜紀ちゃんと双子が叫んだ。
他の全員も驚いている。
「石神! なんだこれは!」
反対側で御堂が叫んだ。
ダフニスとクロエが両脇を支えている。
やはり衝撃波があった。
「絶対にこれに触るな! もう大丈夫だろうけど、最初に現われた時にはエネルギーが強すぎて危険なものだったからな!」
「わ、分かった!」
「触れないように、こっちに来い! 歩きながら内部を見てみろ!」
「分かった!」
御堂がゆっくりとこちらへ歩いて来る。
時々、叫んでいる。
半分を回り、御堂の姿が見えた。
「石神! これはなんなんだ!」
「ああ、後で話すよ。ああ、みんなで一周しましょう」
「タイガー! 何が起きたんだ! あれはなんだ!」
パピヨンも大興奮で俺の肩を掴んだ。
「見た通りだよ。お前が創ってくれた都市には最高のモニュメントだろう」
「最高過ぎるぜ!」
パピヨンが嬉しそうに笑って俺の肩を叩いた。
フィリピンでの「ヘヴンズ・フォール」で出て来た、あの巨大な水晶の塊だった。
「タカさん! どうして!」
「なんでまた出て来たの!」
「ナニコレ!」
「うるせぇ! 後で話すから待ってろ!」
亜紀ちゃんと双子を黙らせた。
みんなで一周しながら、中心にいる「虎」とその咥えている刀を説明しながら歩いた。
「虎」だけではなく、角度によって現われるものが違っていることも多い。
一通り周って、下に降りた。
パピヨンがまだ見たいと言ったが、俺が下で説明するからと言うと、大人しく降りた。
ジェイたちに用意させていた、テーブルにみんなで座る。
亜紀ちゃんが用意していた紅茶のセットをハマーから降ろしてみんなに配る。
みんながまだ興奮状態だ。
俺に説明を求めているのが分かる。
「麗星がフィリピンの魔法大学と親しくなっていてな。双子がフィリピンに修学旅行を決めたので、その魔法大学で主催する「ヘヴンズ・フォール」を見学させてもらえることになったんだ」
双子に、洞窟の様子などを話させた。
「ヘヴンズ・フォール」の説明もさせる。
「今回は「虎」の軍のために行なうということだったらしい。魔法大学にも予言者のような人間がいて、俺たちのことを随分と知っていたようだ」
「そういうものがあるのか」
御堂も驚愕していた。
実際に今の奇跡を見ていなければ、俄かには信じられない話だったかもしれない。
「最初にルーとハー、そして皇紀に向かって何かが降って来た。腕輪のようなものと、槍だったんだけどな。本当は持って来て見せたかったんだが、どうにも機嫌を損ねてしまってなぁ」
「機嫌? 何があったんだ?」
「まあ、後で話すよ」
今話せば雰囲気が壊れる。
「最後に、俺のために祈祷をしたときに、さっきのものが現われたんだ」
「あれがか!」
「ああ。一時はみんなが避難してな。クロピョンに祭儀場から外に出してもらった。まあ、その必要も本当は無かったんだけどな」
「私、がんばったのにー」
ハーが文句を言うので頭を引っぱたいた。
「俺は見た瞬間に、あれの意識のようなものが流れ込んで来たんだ」
「それはどういうものなんだ!」
御堂が珍しく興奮している。
こいつのそういう場面は珍しいので、見たくて黙っていた。
「落ち着け。俺にも上手く説明は出来ねぇ。ただ、俺のものであることと、あれが途轍もない力で護るものだということ、そして俺が運べるものだということだ」
「なんなんだ?」
「だから分からないんだよ。護るって、どうやってなのかも皆目分からん。でも、見た瞬間に、静江さんの予言であったここに置くべきものだということも分かった。サイズもピッタリだったからな」
「そうか……」
少し落ち着いてから、みんなでまた水晶を見に行った。
何度見ても感動する美しさだ。
「タカさん、どうして話してくれなかったんですか!」
亜紀ちゃんが文句を言う。
「御堂を驚かせたかったからな」
「じゃあ、別に私たちは知っててもいいじゃないですか!」
「バカ言うな!」
「なんですよ!」
「御堂が知らないのに、どうしてお前たちが先に知ってていいんだよ!」
「!」
御堂が大笑いした。
「御堂バカ!」
「このやろう!」
まあ、確かにその通りだ。
御堂の提案で、この水晶の塊を「ミトラ」と呼ぶことにした。
みんなが大賛成で喜んだ。
「今日は「ミトラ」祝いですね!」
「ば、ばかやろう!」
澪さんがお肉はたっぷりあると言い、子どもたちを喜ばせた。
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