第2220話 久し振りの御堂家

 5月3日。

 今日から2週間程休みとしていた。

 予定には無かったことだが、御堂の実家で一泊することになった。

 最初は別荘の予定だったが、急遽ずらしたのだ。


 「タカさん、どうしてですか?」

 

 亜紀ちゃんに聞かれた。


 「御堂が丁度休めるみたいだからな」

 「そうなんですかー」

 「それに正巳さんにも、ずっと来て欲しいって言われてたし」

 「まあ、そうですね! じゃあ、久し振りに頑張りますよ!」

 「普通にしろ!」


 正巳さんは子どもたちの大食いを楽しみにしているが、俺が恥ずかしい。

 響子と六花、吹雪は「紅六花」のところへ行った。

 明後日に別荘で合流する。


 朝の7時に御堂が来た。

 

 「よう!」

 「石神、またお世話になるよ」

 「何言ってんだぁ! お前が一緒なら俺は最高だぁ!」

 「アハハハハハ!」


 俺は子どもたちに1秒で荷物を積み込めと言った。


 「御堂に無駄な時間を過ごさせるんじゃねぇ!」

 「タカさん!」

 「僕も石神と一緒なら最高だよ」

 「ワハハハハハハハ!」

 「もう!」


 荷物を積み込み、御堂を助手席に乗せた。


 「御堂、後ろに響子のベッドもあるぞ?」

 「ここでいいよ」

 「おし! じゃあ出発な! ロボはいるな!」

 「にゃー!」

 

 「他の奴は忘れても走って追いかけて来るからな」

 「アハハハハハ!」


 




 御堂と楽しく話しながらハマーを走らせた。


 「そういえば石神、あっちで驚くものを見せるって何なんだ?」

 「あー、まあ、向こうに着いてからな」

 「そうなのか」


 御堂にも話してないことがある。

 隠すようなことでもないのだが、向こうで皆さんと一緒に驚かせたい。

 

 「そういえばさ、最近柳が面白いことを練習しててよ」

 「そうなのか? 何をやっているんだ?」


 後ろで亜紀ちゃんと一緒に座っている柳が前に乗り出して来た。


 「お父さん! 私、催眠術が出来るの!」

 「え?」

 「御堂さん、本当なんですよ。柳さん、ちょっとスゴイんです!」

 「そうなんだ」

 「まあ、俺に暗示をかけてセックスさせようとしやがってよ」

 「石神さん!」

 

 御堂が大笑いしていた。


 「だけど、俺とロボには掛けられなかったんだ。助かったぜ」

 「もう、辞めて下さい!」


 柳が必死になって叫んでいた。

 みんなが笑う。


 「皇紀なんてオナニーまでさせられてなぁ」

 「あれはルーがやったんですよ!」

 「私、そんなことしないもん」

 「おい!」


 みんなで柳の凄さを御堂に語って行く。

 御堂が驚いていて、そして嬉しそうだった。


 「柳、スゴイね」

 「ううん、たまたまだよ。それに、他人を操るなんてしたくないし」

 「そうだね」

 

 御堂が優しく笑っていた。


 



 高速に乗り、俺たちは朝食のためにサービスエリアに寄った。

 子どもたちは買い物に走り、俺は御堂と作って来た稲荷を食べた。

 緑茶を魔法瓶から注いで渡す。


 「日本茶なんて珍しいね」

 「お前はこっちの方がいいと思ったからな」

 「そうか、ありがとう」


 御堂が美味しいと言ってくれ、俺も嬉しかった。

 子どもたちが別なテーブルに大量の食事を運んで来る。

 みんなで楽しそうに食べていた。


 「みんな元気そうだね」

 「まあな。柳も楽しそうだろ?」

 「うん、石神のお陰だ」

 「違うよ。あいつは真面目で優しい奴だからな。みんなに好かれてるんだよ」

 「そうかな」

 

 御堂が微笑んだ。


 「まあ、うちがこんなだからな。常識のある人間としては、ちょっと戸惑うこともあるけどな」

 「アハハハハハ!」

 

 御堂が「人生研究会」を褒めた。


 「優秀なんだろうとは思っていたけどね。政治家や官僚に頼んで紹介したけど、あの人たちは子どもの社会見学程度にしか思ってなかった」

 「ああ、御堂には世話になったな」

 「いや、こっちこそだよ。みんな驚いていた。本当に、すぐにでも手元に欲しいって人も何人もいたよ」

 「まあ、向こうの感覚は分かっていたからな。それを利用し、覆すようにアドバイスはしていたんだが」


 双子が組織した「人生研究会」は、自由党の重鎮の政治家や各省庁の役人を招いたり出掛けたりして、勉強会を始めている。

 子ども相手に時間を作ってもらえたのは、御堂の力のお陰だ。

 しかし、ことごとく先方の予想を上回り、有意義な勉強会となった。


 「経済産業省の役人なんて、ルーちゃんとハーちゃんから為替の介入操作の方法を教わって驚愕してたよ。今度はもっと上の人間を交えて、講義をして欲しいってさ。他の省庁も同じだ」

 「農林水産省はダメだったろ?」

 「うん、石神の言う通りだった。利権が絡み過ぎているね」

 「ああ」


 日本の食糧事情に絡む農林水産省は、今俺たちがやっている大々的な国産の自給自足計画に反発している。

 御堂政権に最も敵対しているのが、そこだ。


 「まあ、そこはおいおいな。今日はお前はしっかり休めよ。お前は遊ぶのがヘタだからなぁ」

 「ああ、そうだった! つい仕事の話になってしまうな」

 「しょうがねぇなぁ」


 俺は子どもたちにアイスクリームを買って来いと言った。

 

 「コーヒーも頼むよ」


 俺のために御堂が言った。

 柳がニコニコして走って行った。


 「さっきの柳の催眠術な」

 「うん」

 「六花にもやって、バレリーナにしたんだよ」

 「スゴイね」

 「調子に乗って、響子にもやろうとしたんだ」

 「うん」

 「ヤバかったぜ」

 「え?」

 「虎の唸り声を聞いたってよ」

 「え!」

 「響子のガーディアンのレイだよ。まあ、柳のことは分かってるから攻撃は無かったけどな。でも、響子を操るようなことはご法度なんだ」

 「なるほど」

 

 響子もバレリーナになりたかったと言ったと御堂に話した。


 「あいつ、絶対関節外してたぜ」

 「アハハハハハ!」


 最近ようやく響子が腕立て伏せと腹筋運動が2回ずつ出来るようになったのだと言った。


 「六花とチビザップに通っててさ。マシンを全然動かせなかったからなぁ。何のために会費払ってんだか」

 

 御堂が大笑いしていた。


 「吹雪に押し倒される奴だからな。士王だったら、ちょっとヤバいって思ってる」

 

 御堂が爆笑した。


 「あいつ、最近オッパイの触り方が上手くなってよ」

 「アハハハハハ!」


 子どもたちが御堂が笑っているので、ニコニコしてアイスクリームとコーヒーを持って来た。


 「楽しそうですね!」

 「御堂と俺だからな!」


 俺は先に戻り、ハマーで待っていたロボを降ろして少し遊んだ。

 亜紀ちゃんがアイスクリームをロボにスプーンで掬い、食べさせた。

 ロボが喜んで、アイスと亜紀ちゃんの指を舐めた。


 御堂が柳と一緒に歩いて来た。

 片づけを済ませた子どもたちも後ろから来る。





 亜紀ちゃんに運転を任せ、後ろに御堂と柳を座らせた。

 途中で振り返ると、二人で眠っていた。

 柳が御堂の肩に頭を預けていた。


 「いいな」

 「いいですね」


 亜紀ちゃんと微笑み合った。

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