第384話 襲撃者の夜 Ⅱ
派手なアロハを着た聖が、入国審査を終えて出てきた。
大きなヴィトンの旅行鞄を提げている。
「お前、ちょっと太ったんじゃねぇか?」
「バーカ! お前と違っていいもん食ってるだけだよ。これは貫禄と言うんだ」
「腹が出てるだけだろう。もしかして髪も薄くなったんじゃねぇか?」
聖が回し蹴りを放って来る。
俺は左手で受け止め、聖のパナマ帽を蹴り飛ばした。
頭頂が薄くなっていた。
「あー! 俺のボルサリーノを!」
「さっさと拾って来い、ハゲ!」
「喧嘩売ってんのかぁ?」
「お前がなぁ!」
俺たちは殴り合った。
聖は衰えてはいなかった。
社長になっても、自ら実戦に出ている。
警備員が来る。
俺たちは肩を組んで手を振りながら逃げた。
「お前の車かよ」
駐車場で聖がハマーを見て言った。
「おう」
「どこバカ?」
「やめろ、時間がねぇんだ」
殴りたいのを抑えて、聖を助手席に乗せた。
聖は、病院ではなく、一旦俺の家に入れるつもりだった。
運転しながら、聖に事情を話した。
なにしろこのバカは俺が助けが必要だと言っただけで飛んできた。
一切の説明もしていない。
真正のバカだ。
俺以上だ。
「それで、お前がその「花岡」って空手使いの家と揉めたってこと?」
「お前の場合、それでいいよ」
「俺は何すりゃいいのよ」
「珍妙な空手も結構な威力だけど、問題はガンを持って来そうだってことだ。アサルトライフルくらいはあるかもな」
「なんだ、武道家の風上にもおけねぇ連中だな」
「俺たちも強いけど、うちの子らは何しろ「戦争」を知らねぇ。プロフェッショナルが必要だ」
「なるほどな」
「お前、実はよく分かってねぇだろう?」
「俺は理解しなくてもできる天才だからな」
本当のバカだった。
「まあ、お前は俺の言う通りに動けばいいぞ」
「まあ、俺に任せておけよ。ところで、俺のガンはあるんだろうな?」
俺は道の脇に車を寄せ、後部の荷台を見せた。
掛けていたシートをめくる。
「すげぇな」
聖が満足そうに言った。
「ブリガディアは俺のだからな」
「なんでだよ! 俺の方が似合うだろう!」
「お前は主にスナイパーだ」
「いつも通りだな」
「ああ」
俺はバレットM82とステアーAUGを示した。
「サイドアームはM629でいいだろ? まあ天才のお前なら武器は選ばないけどな」
「おう!」
バカを乗せ、再び走った。
「トラ、ところで俺のハンバーガーは?」
「あ! 忘れた」
「ふざけんなよ! 俺はハンバーガーの夢を見ながらジェットで来たんだぞ!」
丁度マ〇クが見えた。
聖に好きなものを買って来いと言い、一万円を渡した。
店員が戸惑っているのが見える。
「聖! 日本語で話せ!」
「あ、ああ!」
バカだった。
「おい、美味いな日本のマ〇ク」
「おう、日本人の舌に合わせていろいろ調整してっからな」
どうなのか知らん。
「そうかー! スゴイぞマ〇ク!」
聖は美味そうに喰っている。
家に着くと、亜紀ちゃんが駆け寄って来た。
コンバットスーツを着て、家の中でもブーツも履いたままでいる。
「なんだ、こいつ!」
聖が亜紀ちゃんを見て驚く。
「俺が親友の子どもを引き取ったって話したろう!」
「すげぇ美人じゃん」
「お前、うちの子に手を出すなよ!」
「あ、俺は年上じゃねぇとダメ」
聖は熟女好みだった。
「トラはロリだったかぁ」
「子どもを引き取ったんだだから、子どもに決まってるだろう!」
亜紀ちゃんが目を丸くしていたが、俺たちの遣り取りで笑いだした。
「突然悪いな。こいつが「聖」だ。大分バカなのは分かったろ?」
「え! 前に話してくれた、ニューヨークの人!」
「ああ。今日から数日一緒にいるから宜しくな」
「はい! 聖さん、よろしくお願いいたします!」
「おう! 俺が来たからには何があっても大丈夫だぜ!」
「取り敢えず、今日は俺の部屋に泊めてくれ。ああ、何も構う必要はないぞ。さっき食事も済ませた」
「は、はい」
俺はハマーから聖の荷物と俺の「荷物」を降ろして、聖を部屋へ案内した。
亜紀ちゃんも付いて来る。
「トラ、随分でかい家に住んでんなぁ」
「まあな。お前薄汚いからあちこち触るなよな」
「ああ」
「ここで今日は寝てくれ」
「トラ! エロビデオは?」
俺は無言で棚を開いた。
「ウオォー! 久しぶりの日本人だぁー!」
亜紀ちゃんが後ろで笑った。
「明日シーツは捨ててくれ」
「分かりました!」
俺はまた病院へ向かった。
途中で六花と鷹に電話する。
今のところ異常はない。
しかし、俺は嫌な予感を感じていた。
その夜、俺の家と鷹が襲われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます