第286話 自重は無理そうだ

 月曜日。

 俺は一江の報告を聞いていた。


 「以上です。先週は長時間のオペ、お疲れ様でした」

 「いや、やはり峰岸がいたから随分と助かったぞ」

 「そうですか。優秀ですよねぇ」

 「ああ。それにな、あいつのオペ室の作り方なんてなぁ」

 俺は峰岸の仕事ぶりのあれこれを一江に話した。


 「部長」

 「あんだよ」

 「今日はやけに峰岸のことを褒めますね」

 「え、いや、そうかな」


 「部長」

 「な、なんだよ」

 「峰岸と寝ましたね」

 「バカなことを言うな!」


 「私は部長の有能な秘書のつもりもあります」

 「ああ、ありがとう」

 「囲ってる愛人のことを知らずに、主人を守れると思いますか?」

 「……」

 俺は一江に顛末を伝えた。


 「軽い気持ちじゃないからな」

 「ゲスはみんな同じことを言います」

 俺は一江の腹を殴った。


 「でも部長、一体何人の女と関係を持つんですか」

 腹を撫でながら一江が言った。


 「俺にも分からんよ」

 「部長はずっと清潔な人間関係でしたよね」

 「お、おう」

 「山中先生の子どもたちを引き取ってから、あれよあれよと言う間に、なんですかこの色魔状態は」

 俺はもう一度一江の腹を殴る。


 「はぁ。まあ、何かあれば私もそれなりの対処をしますけどね。でも、まさか子どもたちにまで手は出してないですよね」

 「当たり前だ!」

 「亜紀ちゃんとか、勘弁してくださいよね」

 「大丈夫だ。一度だけ一緒に風呂に入ったくらいだ」

 「ま、まあ、そのくらいなら」

 「ああ。大学を卒業してから、ということを話してるからな」


 「「!」」


 「ロリ野郎がいるー!」

 「バカ! 黙れ!」

 何事かと部下たちが見ている。

 俺は一江の肩を組み、ニッコリと笑った。


 「お前も笑え!」

 笑った。


 小声で話す。


 「いい加減にしてくださいよ! マジでぇ!」

 「俺だってそうしたいよ!」

 「山中先生、生き返ってきますよ!」

 「おう、そうしたら大歓迎だ!」

 「バカ!」

 「あんだとこのやろう!」

 二人で落ち着こうと言い合った。


 「栞は知ってるんですか?」

 「ああ、亜紀ちゃんのことも峰岸のこともな」

 「そういうところはちゃんと言うんですね」

 「お前にだって全部話すじゃないか」

 一江が俺をまじまじと見つめる。


 「確かにそうでした」

 「ふん」

 「とにかく、亜紀ちゃんにだけは「まだ」手を出さないで下さいね」

 「分かってるよ! 大学生になったってな!」

 「切っちゃった方がよくありませんか?」

 一江が俺の股間を掴む。


 「勘弁してくれ」

 「ところで、先週末は大人しくしてたんでしょうね」

 「ああ。栞と鷹が遊びに来て、鷹のマンションまで送って」

 「そこでやったと」

 「はい」


 「日曜日は六花とバイクで遊んで。ああ、そういえば麻布の店でヘンなことを言われたな」

 「え、ちょっと待ってください。まったくいい加減にしてくださいよね!」

 一江はまたPCとスマホで検索する。


 持ってくる。


 「あなたは本当はバカなんですか!」

 店の監視カメラらしい映像がアップされていた。

 他にも数人のスマホ撮りらしき動画。


 「やっぱ六花は綺麗だなぁ」

  一江にチョップを入れられる。


 「あのですねぇ。火消の苦労をもうちょっと分かってくださいよ!」

 「すまんこって」

 「まあ、最初の私の悪ノリもありましたから、これからも頑張りますけどね! でも、そろそろ本当に自重してくださいって!」

 「申し開きもない」









 響子の部屋へ行った。

 走って1分ちょっとで着いた。


 「タカトラー!」

 六花が丁度タブレットを響子に渡したところだった。

 早ぇ。


 「あ、六花! コレじゃない?」

 「ほんとですね。石神先生、カッコイイですよ!」

 二人で楽しそうに眺めている。


 「響子、この店は近いから今度一緒にバイクで行くか?」

 「ほんとー! 絶対に約束ね!」

 「ああ、必ず行こう」

 「じゃあ、あの特攻服着てっていい?」

 「もちろんだ。みんな「六根清浄」の仲良しだもんな」

 「うん!」


 俺は麻布の店のサルサバーガーの美味さを語った。

 響子は楽しみだと喜んだ。


 響子が幸せそうに俺を見ている。

 六花も同じ目で俺を見つめる。

 一江、やっぱ自重は無理そうだ。

 俺はこいつらが大事なんだ。







 苦労をかけるな。

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