第83話 第四回「石神くんスキスキ乙女会議」 また一人増えたヨ!

 石神家で、みんなが映画鑑賞している頃。

 青山の一江の部屋で、四人が集まっていた。


 「ではこれより、「第四回石神くん大喜び乙女会議」を始めます」

 「あ、またタイトルが変わった」

 「はい、そこうるさい」

 

 一江、大森、栞に加え、六花がいる。


 「ねえ、私実家から戻ったばかりで疲れてるんだけど」

 栞が言うと、一江は

 「大丈夫。その疲れが吹っ飛ぶゴイスーなものが待ってるから」

 栞は来たくはなかった。

 しかし一江からの誘いの電話の向こうでとんでもないものが聞こえる。


 一江はミニコンポにUSBを再生させた。

 栞が酔って石神への思いを打ち明けている、あの時の録音だった。


 「陽子、あなた!」

 「え、何かあった? ああ、ちょっとステレオ止めるね、うるさかったよね」

 「……」


 「今日、六時にうちに集合だから。あ、何か予定があったかな?」

 「イイエ、ヨロコンデイカセテイタダキマス」

 「良かったぁ。じゃあ、またあとで」


 既に一江の部屋には大森がいて、何か料理を作っている。

 それと、思わぬ人間が座っていた。


 「六花さん、あなたも呼ばれたの?」

 「はい」

 「ああ、六花は今日の講師だから」

 一江の説明が分からない。


 「できたよー」

 大森がキッチンから大量のつまみを運んでくる。

 中華が好きなのか、餃子、シウマイ、八宝菜、ホイコーロー、チャーハンまである。


 「じゃあ、始めましょうか。あ、言っておくけど、お酒は出すけどほどほどにね! 特にそこ」

 一江は栞を指差している。

 「え、私?」

 「「当たり前じゃぁー!」」

 一江と大森が声を合わせて言う。


 「毎回毎回、お前がすべて元凶だろう!」

 「え、そんなこと!」

 必死に言い返そうとする栞だったが、徐々にその声は弱まる。


 「たしかに、そうだったこともあったような気もする」

 「おう! まあ、そうは言ってもみんなお酒好きだから。楽しんでいこー!」

 「「おう」」


 宴が始まった。




 ある程度酒も回り、大森の腕前にみんなが感心している頃。


 「さて、じゃあそろそろ本日の議題を」

 「え、そういうの別によくない?」

 栞が遮ると、一江は六花に目線を向ける。


 「今日は六花先生による、「エロの極意」を講義していただきます」

 「エェッー!」


 一江は石神から、六花のエロに対する執着を聞いていた。

 本人には内緒に、ということは一切なく、石神からは機会をとらえて正常生活に少しでも導くように言われていた。


 「本日は、どのようにして石神部長を喜ばせ、そのハートを掴むか、そこにテーマがあります」

 「……」


 栞は、言語は理解できるが、展開はまったく見えなかった。



 「では先生、よろしくお願いします」

 「はい。では、こちらをご覧下さい」

 六花は別の部屋に置いていた、エルメスの赤のフールトゥを持ってきた。


 石神からプレゼントされたものだ。六花はそれを非常に大切にしていた。

 そのバッグから、六花はおもむろに巨大なバイブとローターと呼ばれる小さな機械、それに電動マッサージ機を取り出した。


 「ナンカデテキター!」

 栞が叫ぶ。


 「先生、それは先生の私物ですか?」

 一江が突っ込む。


 「はい。石神先生のお蔭で広い家に移り、購入費用もたくさんいただいていますので、先日やっと購入いたしました」

 「エェッー!!!」

 栞は大声で叫ぶ。


 「あの先生!」

 栞は既に、生徒である自分を受け入れ始めた。


 「なんでしょう、花岡さん」

 「あの、先生は、石神くんのために購入したのでしょうか?」

 「はい、その通りです。以前の家にいらしてくださった時に、「バイブはあるのか」と聞かれました。生憎とその当時は持ち合わせませんでしたので」

 「ハァッー?」


 「大変に申し訳ないことをいたしたと、反省しきりです。でも、こうやって今は大丈夫です」

 イシガミクンガ、イシガミクンガ…………

 栞がちょっと壊れた。


 「それでは早速実演を。ああ、申し訳ないのですが、挿入系のものはまだ使っていません。最初はやはり石神先生のものが良いので」

 「!!!」


 栞の中で「バキッ」という音がした。しかし誰もその音は聞こえない。



 六花は躊躇なくベルトを外し、下着も脱ぎ捨てた。


 「先生! いくらなんでもそれは!」

 一江が慌てて止めようとする。


 大森は口に入れかけた餃子を零している。


 「この電動マッサージ機は、近年大流行のもので」

 六花は、スイッチを入れ、自分の股間に当てた。

 「アッ」



 一江と大森は呆然としている。

 そしてふと、栞の様子をみようとすると。


 「あぁー、こいつ飲んでやがる!」

 「一江、すぐに酒を仕舞え!」


 遅かった。

 既に栞は一升瓶を飲み干していた。

 まだ三分の二以上残っていたはずなのに。



 栞が立ち上がった。




 「いかん、魔王降臨だぁー!」




 「一江、とりあえず私の部屋へ非難! 六花も来い!」




 栞は「縮地」で逃げ出す二人の前に回り、いつの間にか手にしている薩摩焼酎の一升瓶の先端を手刀で切り落とす。

 


 「イシガミクンガ、イシガミクンガ……」



 何か呟き続けている。

 武技言語だろうか。


 「待てまて、栞! 今ちゃんと説明する!」

 「一江、すまん。お前が喰われている間に俺は助けを呼ぶ!」









 「ああ、大森か? こないだは本当にあり、え? たすけてくれ? どういうことだ?」

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