少年が二刀流を目指した理由

霧ヶ原 悠

少年が二刀流を目指した理由


 昔々というほども遠くなく、昨日というほどにも近くなく。


 あるところに、鍛冶屋の跡取りながら魔法学校に通う少年がいました。



 世界は平和で、時代はただ一つの道を極めることが至高の誉れであるとされている頃でした。


 出会う人は誰もが少年を笑いました。


 「なんてバカな奴なんだ。二兎を追う者は一兎をも得ずという格言を知らんらしい」


 「鍛冶屋といえば、ミスリルの剣を鍛えることこそ至上の名誉だろうに。それに挑まぬとは情けない」


 「剣と魔法の二刀流とでも言うつもりか? そんなことできるはずがない」


 「どちらも中途半端で無様を晒すだけだろう。お母上が哀れだな」


 その声はもちろん、少年に届いていました。


 ですが全て無視しました。


 少年には時間がなかったからです。


 ただただ一生懸命に、剣を鍛えました。


 ただただ真っ直ぐに、魔法の腕を磨きました。


 そしてついに、望むものを手に入れたのです。


 少年は走り出しました。



 早く、速く、疾く!



 ガチャガチャと鍛えた剣たちがぶつかり合って大きな音を立てていました。


 ですがそれを気にしている場合ではありません。


 走って走って走って、少年がたどり着いたのは、一本の木を中心にボウボウと音を立てて炎が燃え盛る草原でした。


 かつて、人間と魔物が争っていた時の名残りだそうで、元々は大きな一つの町だったと言われています。


 鞘から抜かれた刀身は冴え冴えと、まるで真冬の満月のように凍てつくような青さを放っていました。


 「……よし、行くぞ!」


 少年は気合を入れると、思いっきり剣を地面に突き刺しました。


 青い光と共に氷が広がり、炎を飲み込んでいきました。


 ですがこの広大な草原を染め上げるには足らず、すぐに炎が盛り返してきました。


 「二本目!」


 少年はすかさず次の剣を地面に突き立てました。


 そうして氷の道を作りながら、少しずつ中心へと向かっていきました。


 魔法の弱点は、長い詠唱に集中しなければならず、他に何もできないこと。


 剣の弱点は、形あるものしか切れず、それ以外のものからは身を守れないこと。


 だから、この炎の草原を横断するには両方の力を合わせる必要があったのです。


 中心に生える木までたどり着いた少年は、たわわに実る金色の果実を手に取りました。


 「やった! 手に入れた! この癒しの実があれば、母さんの病気を治せるぞ!!」



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少年が二刀流を目指した理由 霧ヶ原 悠 @haruka-k

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