A beautiful day(3)

 曲を聴き終えた僕の胸には、夜明けの空を見た時に覚える心地良い心の疼きのような感情が去来していた。そんな余韻に浸りながらベッドの上に横たわる。天井に滲む蛍光灯の光を何気なく仰いでいると、ふと放課後の記憶が蘇ってきた。


『私がバンドを組む理由はね、私の生きた証を残すためだよ』


 あまりにも物々しく、かつ漠然とした石川の台詞に、僕は言葉を失ってしまった。


『生きた証』とは具体的に何なのか。答えを詳らかにしようとして問い詰めたが、詳しくは明日話すから、とおどけた調子でいなされた。


 残す、とはどのようになのか。なぜ今このタイミングでないといけないのか。


 疑問は尽きなかったが、それ以上に未だ僕の胸中では、彼女と共にギターを弾くことに対する煩慮が絶えず巡っていた。


 非凡な演奏技術を持つ彼女とバンドを組むことになってしまった。果たしてここから僕が彼女と足並みを揃えることができるのだろうか。止めどなく不安が込み上げてくる。


 しかし正直に言えば、それと同時に胸を高鳴らせている自分もいた。


 無為な毎日に訪れた変化の予感に。人と音を合わせるという事への小さな期待に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る