第6話 救えない奴/救いたい奴

 最初に訂正とお詫びを

序盤の展開部分(1話2話)を1章から外し「終わりの日」へ移しました。

それに合わせて第3話→第1話、第4話→第2話という形で第7話「救いたい/救えない」→第5話と2話ずつ切り上げました。

 第1話のみタイトルも変わり、前半部分で主人公が超能力を発動する展開になっています。それ以外は大筋に変更はありません。

故に3月30日時点での最新話は第6話「救えない奴/救いたい奴」になります。

ご不便をおかけして誠に申し訳ございません。

本日は6話7話の2話投稿になります。

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 バックヤードから出てきたのは道明寺と、舞依。


 彼女は腕を縛られ、包丁を突きつけられていた。


「……おい。道明寺……それは笑えないぞ……」


「君? どういうつもりだい……」


 奴は舞依の首に包丁を突きつけている。俺はまだしも、あの明日人さんすら一気に鬼のような形相になり、場が緊迫する。


「真、お前なにしてんだよ……」


「うっせえ! この女。あいつらを殺しやがったんだ!」


「は?」


 行方不明の2人か? 舞依がそんなことするメリットがあるか?


「違うって言ってるでしょ! 1人は最初から手遅れだった。1人は私を庇っ━━」


「黙れよ!」


 舞依は道明寺に首を後ろから捕まれ、顔が苦痛に歪む。


「うっ」


「舞依! 道明寺やめろ!」


 道明寺にとって、自分こそは犯行現場を抑えた目撃者だった。故に彼女の話に耳を傾けることは無く、その責任の在りかを気に入らない者に押し付ける。


「堀田ぁ、どうせお前がやらせたんだろ! ホントッ死ねよ!」


「お前人の話聞けよ! 俺がそれをする必要がどこにある!」


「うるせえ! 前から気に入らなかった! 何なんだよ先輩面して、俺の邪魔ばかりしやがる!」


 いや先輩ですから。


 部員に横暴な事をしたら止めるのは普通だろ。自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。体はでかいのに、心は未発達のガキ。まさか高校生にもなってあのままとは。


「武器を置け! 動くなよ! 動くとこの女……」


 道明寺は先ほどバリケードをどかした、下り側のエスカレーターに舞依を押す。1階ではゾンビが沢山集まってきている。


「おい。やめろ!」


 奴なら本当に落としかねない。俺はバールを捨てる。


 カランカランと鉄が落ちる音がその場に響く。


「お前らもだぞ。クズ! 金城ぉお、お前がコイツ堀田に頼んだのか?」


「ちっ違うよ僕は、そんな、こと……」


「金城君、ここは僕らの武器も置こう。舞依君の安全が最優先だ」


 金城君は素直に聞き、2人とも武器を置く。


「真! お前何考えてんだよ。」


「そうだぞ。道明寺! こんな時に争ってる場合じゃねえ。」


 藤山達も説得するが、キレた道明寺は友人の言葉でさえ聞く耳を持たない。


「ハッ。こんな時だからこそ! 白黒ハッキリつけなきゃいけないんだ! それにこれはダチの復讐だ!」


 無法地帯になった今、誰も人を捌いてくれない。ならば俺が捌いてやると。


 あまりにも身勝手な理由、友人達の死もコイツには俺を害する為の言い訳でしかないのか? 


「明日人さん……舞依をお願いします」


「!?」


 俺は彼に小声で伝え、じりじりと奴に近づく


「道明寺! 舞依を離せ。舞依は関係ない。こんなことをして何になる?」


 あの力はどうもまだ使えない。使えたとして首に包丁を突きつけられている舞依を無事に助けることができるか……。


 こいつの性格は2年だが嫌というほど知っている。幸い彼の友人達は、こんな事態でもまともな倫理観の持ち主のようだ。彼らに感謝しつつ、それを利用する。


「真! やめろ!」


「道明寺!」


「道明寺君!」


「…………舞依君を離せ」


 数歩の距離。多数の人間に責められた時にコイツはは、諦める。


「チッ」


 目の前で舞依が突き飛ばされて、俺の胸に飛び込んでくる。


「コウちゃ……」


「明日人さん!」 


抱き寄せると共に体の位置を入れ替えて、彼女を明日人さんに託す。


「真! やめ……」


 振り返ると同時に包丁を止め……。


 ドスッという衝撃と共に包丁が脇腹に刺さった。


「あがあ」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。思考が痛み一色に染まる。


「やめてええええええええ」


 抱きとめられた舞依が叫ぶ。


 道明寺は隠していたバットで俺に止めを刺しに来た。


 強い衝撃とともに俺は横に飛び、エスカレーターから転がり落ちる。


 ━━無理だったかあ……俺もまだまだだなぁ。


 読みは当たったがあと少し届かなかった。どうせ反省したフリだけすると思ってたわ。


 すぐ下にはうごめく地獄ゾンビ達。下半身が飲み込まれ、続いて貪るように上半身も引きづりこまれた。


 骨も折れたかもしれないし、刺されて叩かれて、何が何だか分からない。視界は赤く染まり、自分の体が鳥の餌のように貪られ始めるのが分かる。



 舞依を凶刃から救えた。それだけは誇れる。


 舞依は大丈夫だ。1人なら心配だけど、明日人さんも居るし。


 金城君も役に立ってくれるだろう。


 藤山と、一緒に居た子。まあそこまで害は無いだろう。


 道明寺……。


 道明寺……。


 道明寺……!


 あいつはダメだ。


 ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ!


 あいつはきっと皆に危害を加える。すぐにでなくても、きっといつか舞依や明日人さんに危害を加える。


 許せない。


 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないそんなことは許せない。


 助けなきゃ。


(どうやって?)


 止めなくちゃ。


(あいつはどうすれば止まる?)


 言っても聞かない。


(なら体に教え込むしかないよね?)


 あれを壊せばいい。


(殺せば動かないよね?)


 行かなくちゃ。


『(周りが邪魔)よね?』


 邪魔する奴が憎い。


『(壊せばいい)わ!』

  

 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。許さないわ。


 意識が浮上する。



 ※



「ハハッ。アハハハハハ。見ろよあいつ食われてる! ざまあみろ!」


 人間とはここまで醜い物なのかい? いや、僕は知っていたさ。あの日、見せつけられたからね。


「まこと……おまえ……」


「道明寺…………」


「はっ、早く助けに……」


 周りの彼らも衝撃だったのだろう。まさか彼がそこまで救いようのない人だとは思わなかったに違いない。この特殊な状況、人の本能を刺激し、思うままに行動させた。彼はそれが悪い方向に働いただけだ。


「コウちゃん……」


 舞依君はショックのあまり茫然自失となってしまった。手すりの前でしゃがみこんでいる。


 まずい……彼女の感情が不安定になるのはかなり危険だ。


 目の前に居る、凶行に走った男を殺すのは簡単だ。首を今すぐ刎ねてやれば良い。それは直ぐにでも出来る。


 だが今は彼に頼まれた舞依君の安全と、浩治君の生命が優先だ。


走り出した明日人は、エスカレーターに飛び乗り手すりを下る。


 変化は起こった。


 彼に群がっていたゾンビは一瞬にして地面から飛び出た。のような槍に串刺しにされ打ち上げられた。


 それこそゾンビのようにユラユラと立ち上がった浩治君。


「……邪魔」


 今朝の再現だった。赤く蠢く血か何かに覆われた両手。そこから生えた爪による猛攻。周りのゾンビ達は野菜を輪切りするようにスライスされていく。その暴力に抗うすべはない。


「キリがないな……」


 浩治君がそう呟くと、彼の足元から黒い影が広がり、すさまじい勢いで1階を覆いつくす。


「綺麗にしよっか……」


 まるで掃除の時間だと言うように、虚ろな目でにこやかに彼は笑う。地面の闇から手が生え、残りのゾンビを引きずりこむ。


 全てが闇に引きずり込まれた。肉片や血の跡も綺麗さっぱり見当たらない。


 最後に残ったのは彼一人。 


「んあー……疲れたあ」


 大きく欠伸をしながら彼は呟く。さっきまでの惨劇は、まるで跡形も無かったように。


「浩治君やはり君は……」


 ギリギリで惨劇の範囲外にいた僕は彼を見やる。服はボロボロだが体の外傷が消えている。


「あっ明日人さん無事ですか? 良かった」


 先ほどまでと何も変わらない普段の彼の調子で喋りかける。


 不意に彼は2階を見上げ、笑みを向ける。


「舞依も良かった」


 そして、道明寺と呼ばれていた彼と真っ赤な目と目が合う。


「……ああ、お前は


「ひっ!」



 ※



 道明寺は逃げようとして気づく。周りに誰も居ない。さっきまで居た友人達や、殺そうとした金城。舞依や明日人。ここにいるのは自分と浩治のみ。


 浩治はエスカレーターからと上ってこようとしている。表情は落ち着いて、欠伸をしている彼からは怒りなどは感じられない。だが凄まじいまでの殺気? 相対するだけで全身から汗が流れてきた。


「うあああああ」


(何だ、あれ! 何だよ、あれ!)


 直感的に殺されると思い、全力で逃げながら彼は思考する。


(死んだはずだ! あいつはゾンビに食われて死んだはずだぞ)


 建物の端まで逃げた彼は一度振り返る。追ってきていない。


(このまま逃げれば、大丈夫だ。俺は逃げ切ってやる。ざまあみろ)


 彼は息を整える為、一度目を閉じた。


(よし。……えっ?)


 目を開けると不思議なことに、最初のエスカレーター前まで戻っていた。


(は? 何で?)


 理解が追い付かない。


 耳元で声が聞こえた。


「道明寺? さっきは痛かったぞ?」


「ぐうがあああああ」


 道明寺の腕は浩治の手刀から伸びる赤い血によって切断された。


(何で何で痛い痛い痛いいぃいいいいいい)


 傍から見れば道明寺は何一つ動いていなかった。叫び声を上げてその場から動かず、上って来た浩治に正面から腕を切断された。


 苦し紛れに、バットを振るった道明寺。その胆力には浩治も驚いた。


「おおー頑張るなぁ?」


 にこやかに浩治は片手で受け止める。貼り付けられた笑顔は表面上の物でしかなく、その瞳の奥底には憎悪で溢れていた。


 止められた金属製のバットが急激に錆はじめ、ボロボロと砕ける。


 続けざまに反対の手で道明寺の腕を掴むと、服の素材もバットと同じ運命を辿りボロボロと崩れ地肌に触れ……。


「うああああああああああ!」


 道明寺の腕はまるで急速に老化するように、みるみる枯れるようにしわがれていく。


 痛みは無いが目の前で自身の腕が急速に衰えていく。


 恐怖。恐怖だ。手が腐りゆくのに痛みは無い。腐りゆく感覚だけがある。



 ※



「コウちゃん! もうやめて!」


 ━━ダメよ。その感情に呑まれては、返ってこれなくなるわ━━


 舞依と━━の声で浩治は我に返る。


 ━━あれ。何だっけ? 舞依を助けようと思ってたけど、憎い奴らを殺さなきゃいけなくて? ゾンビを殺して、道明寺の腕を切り落として……。


 気が付くと目の前で片腕になった道明寺が悶えていて、友人二人が抱え起こしていた。


「真!」


「道明寺!」


「ひぐっあう、あが」


 えっ? 夢? 違う現実?


「……おい、お前ら?」


「「うあああああ」」


 藤山達と目が合うと恐怖の為か大声を出しながら、大けがした道明寺を担いで3人は逃げて行った。


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~じかいよこく~


「堀田ああああああ許さねええぞ! ぜってぇ殺してやる!」


「ああ、やかましい。うるさい。端役はさっさとお帰りぃ?」


「ハッ、調子に乗るなよ! 俺の右腕を送ってやったぜ! あいつにかかればお前なんて……」


「お前の右腕、取れるのか? ああー悪い。俺が取ったもんなぁ?」


次回 違うよ! 不可抗力だよ?! お楽しみに

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