美嘉ちゃんは一刀流!
燈外町 猶
第1話
去年スカウトされて上京してしまった同級生の
結構忙しいらしくなかなか顔を見せない彼女が珍しく帰郷するということで浮き足立つ地元メンツだけど、お迎えに指名されたのは私一人だった。
それ自体は別になんともないし、再会できるのは普通に嬉しい。だのにこんなに緊張しているのは……理由があって……。
『そういえば美嘉ちゃん、二刀流になったんだって!』
『…………はぁ?』
待ち合わせ場所でぼんやりしていると思い返されたのは——昨晩の、母との会話。
二刀流……。私だってその意味くらいわかる。つまり美嘉はその……男の子だけでなく……女の子も……。
いつからだ……? というか『なった』ってなんだ、そういうのってこう……生まれつきで、何かをきっかけに気づくとかそういうんじゃないの?
なんか……なるイベントとかあったの? 東京怖すぎない!?
「…………」
どんな顔をして会えばいいんだろう。
ずっと一緒にいた子が……二刀流になったと聞かされて。
確かに今思えば、一昨年私に彼氏ができた時、美嘉は喜んでくれてはいたけど露骨に寂しそうな顔してたな……そんで別れた時めっちゃ喜んでたし。あれも予兆の一つだったんだろうか。
それに美嘉自身、男女問わずモテる。
快活な性格で器用で、そんで姿勢とか所作が綺麗で……ソフト部のエースで……男子よりも女子からの方が人気だったかも。
「とーもーこーちゃんっ!」
「わ! えっ、あっ、美嘉……あの……おかえり」
考えに耽っていたらあっという間に時間が過ぎていたらしい。
目の前には、最後に会った時と変わらない——明るくて眩しい美嘉の笑顔。
「ただいま! 久しぶりだねぇ」
やばいぞ、目を合わせられない。というかなんか、全然雰囲気変わってないけど!? 私お母さんにからかわれただけなのでは……?
「……なんか食べた? お昼食べてからうち行く?」
「うん。でも、その前にね
美嘉は大荷物をゴソゴソと漁ると、割と綺麗な状態の雑誌を一冊取り出してページを捲り、開いた状態で私に手渡した。
「なになに」
受け取って視線を落としてみれば、そこには見開きを使った堂々たる美嘉の写真と——
『怒涛の長打×鉄壁の制球=圧倒的投打力! ソフトボール界にも新世代の二刀流現る!!』
——凝ったフォントでド派手に綴られた、そんな文字列。
「あっ……………………」
「えー!? リアクション薄ーい!」
「…………いや……うん、知ってた知ってた」
はいはいはいはい……うん、わかってたわかってた。そういえばちょっと前に流行ってましたね、すみませんね勘違いしてあんまりテレビ見ないもんで!!
「そうなの!? ……あっそっか、お母さんが知子ちゃんママに言っちゃったんだぁ〜。もー驚かせたかったのに……」
「は、はは……。すごいじゃん美嘉。いろいろ話聞きたいしとりあえずどっか入ろうよ」
『もー』はこっちのセリフだよ……はー緊張して損した……。
「待って、知子ちゃん」
歩き出すも再び止められてしまい振り返ると――たぶん、さっきの私よりも緊張している――美嘉の真剣な表情。
「なに?」
「あのね、私ね、本当は東京なんて行きたくなかった。でも……勇気が欲しくて、きっかけが……ほしくて……」
「うん……?」
なんだなんだ急にもじもじし始めて。こちとら昨日の夜より驚くことも、今さっきより落胆することもないだろうし早く言ってくれ……。
「こうやってね、取材が来るまで頑張って……結果も出したから……言いたいの。聞いてくれる?」
「ん! どーんと来なさい!」
「ありがとう。……私ね、知子ちゃんのことが、ずっとね、あのね―――」
美嘉ちゃんは一刀流! 燈外町 猶 @Toutoma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。